それで十分だと、俺は言った
説教が終わったあと、屋敷は騒がしかった。ノエルが目覚めたという知らせはすぐに広がり、使用人たちは仕事の手を止めて喜び、リリアーナは泣きながら何度も手を握っていた。アルヴェルは表情こそ変えなかったが、わずかに肩の力が抜けていた。
「皆さん、この度はご心配おかけしてすみませんでした」
ノエルは深々と頭を下げた。ついさっきまで説教されていたとは思えないほど、妙に素直だった。
やがてガランも帰り、屋敷が落ち着いた頃。ルークとノエルは、彼女の自室にいた。
ベッドに腰掛けたノエルは、やけに元気だった。半年分を取り戻すみたいに、途切れず言葉を吐き出している。
「いやー、半年ぶりに目覚めたんだよ? なのに説教とか辛いよ」くるくると表情を変えながら続ける。「心配なのは分かるけどさ、あんな怒ることないよね? いや、悪いのは分かってる、分かってるわよ?」
一人で頷き、すぐに首を振る。
「でもね、あれしか勝つ方法なかったのに。ちょっとくらい褒めてくれてもいいわよね?」
少しだけ、声が弱くなる。
「……二人で、倒したんだよ」
ぽつり、と落ちる。
「怖かったよ。とっても怖かった」
笑おうとして、うまくいかない。
「それでもさ……頑張ったんだよ」
視線が落ちる。
「ルークもいたし、だから……なんとか、なったけど」
指先が、ぎゅっと握られる。
「私がもう少し強かったらさ、ルークにも怪我させずにすんだのに……」
その瞬間、ぐい、と腕を引かれた。
「……っ」
言葉が、止まる。そのまま引き寄せられる。気づけば――抱きしめられていた。強く、逃がさないみたいに。
「……もういい」
ノエルは一瞬固まったが、抵抗しない。ルークの腕の中で、静かに息を吐く。
「……でも」
かすれる声。ルークの腕に、さらに力がこもる。
「違う」
低く、押さえた声。
「勝手に一人で抱えんな」
間。
視線を、逸らさない。
「怖いって言ってただろ。それでも行ったのは、お前だ」
少しだけ息を吐く。
「ちゃんとやった」
ぶっきらぼうに。
「……それで十分だ」
ノエルの目が、わずかに揺れる。
「……そっか」
小さく息を吐く。肩から力が抜ける。
それでも――その顔に浮かんだ笑みは、ほんの少しだけ無理をしていた。




