ご無事で、何よりでございました
「えぇー、収穫祭じゃないの?」
ノエルがむくれた声で言う。まだ少しぼんやりしたまま、ベッドの上でじゃがいもを抱え込んでいる。
「ガラン、騙したのね?」
ガランは一瞬だけ笑った。
そして、表情を消した。
「――その前に」
低い声。空気が、変わる。
「……どうして、危険な場所へ向かわれたのですか」
沈黙。
ノエルが目を逸らす。
「いやー……王命で?」
「王命で、ではございません」
ぴしゃり、と遮る。
「お嬢様は貴族令嬢でございます。危険なことをしてはならないと、何度申し上げればご理解いただけるのですか。私は昔から反対しておりました。レオニード様の修行を受けるなど――」
「いやー、でも王命で……」
「いや、でも、ではございません」
一歩、踏み込む。
「断る勇気を持ちなさいと、昔から申し上げていたはずでございます」
言葉が、重い。
「多くの命を救い、周囲はお嬢様を称えることでしょう」
一拍。
「ですが、それは――ご自身が無事に帰還された場合に限ります。お嬢様のそのご判断、私は褒めることも、認めることもできません」
部屋が、静まり返る。
ノエルは何も言えない。珍しく、言葉を失っている。
ルークが口を開いた。
「……いや、でもノエルは――」
「ルークもです」
即座に遮られる。視線が刺さる。
「お嬢様の側にお仕えしながら――それでも止められなかったのですか」
ルークは、何も言わなかった。
言えない。
言えば――すべてが変わる。
それから――二人並んで、説教された。まるで昔に戻ったみたいに。ノエルは正座させられ、ルークはその隣で直立のまま。
「何度も申し上げましたよね」「はい……」
「命を粗末にしてはならないと」「はい……」
「ご自身の身を守ることも責務であると」「はい……」
淡々と続く。逃げ場のない言葉。
ちら、とノエルが横を見る。ルークも同じタイミングで視線を向ける。
目が合う。
――まずいな。
無言の会話。
「聞いておられますか?」
ぴしゃり、と落ちる声。
「「はい!!」」
思わず声が揃う。
沈黙。
ガランは、二人を見下ろしていた。その目が――わずかに、揺れている。
気づく。怒っているだけじゃない。震えている。
「……どれほど」
声が、ほんの少しだけ掠れる。
「どれほど、心配したとお思いでございますか」
一瞬、言葉が途切れる。
続けようとして――できない。
唇が、わずかに震える。
「……っ」
息を吐く。飲み込むように。
それでも、言葉を整える。
「……もう、結構でございます」
短く、それだけ。
だが、その声は――崩れないように、必死に抑えられていた。
ノエルが、小さく呟く。
「……ごめん、ガラン」
いつもの軽さは、少しだけ消えていた。
ルークも、頭を下げる。
「……すみません」
しばらくの沈黙のあと。
ガランは、ふっと肩の力を抜いた。
「……ご無事で」
小さく、笑う。
「何よりでございました」
その言葉に、部屋の空気がやっと――やわらいだ。




