半年眠り続けたお嬢様は、野菜を乗せられて目を覚ました
ールーク視点ー
その日、客人が来た。重く沈んでいた屋敷の空気を、まるで気にも留めない足取りで。
「――ルーク、久しぶりだね」
振り返る。見慣れた男。日に焼けた肌。大きな荷物。変わらない笑み。
「……ガランさん。お久しぶりです。お元気そうで」
「はは、まあね。休みをいただいてね。それで――ノエル様は?」
一瞬、言葉が止まる。
「……まだ、眠っています」
短く答えると、ガランは少しだけ目を細め、すぐに笑った。
「そうかー。なら、元気になってもらわなきゃな」
そのまま迷いなく歩き出す。止める間もなかった。
扉が開く。ノエルの部屋。変わらない光景。静かに眠る少女。
ガランは一歩踏み込み、わざとらしく咳払いした。
「ゴホン! お嬢様、朝ですよー。本日は収穫祭でございます。村が賑わっておりますよねぇ」
言いながら、袋をどさどさとベッドへぶちまける。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、葉物。眠るノエルの上に容赦なく積み上がる。
「……っ、は?」
何をしている。
止めるより先に――
「んん……」
かすかな声。
ルークの呼吸が、止まる。
「……早く起きなければ。トアがお嬢様の分のじゃがいも、全部食べようとしていますよー」
「え”ぇー……だめー……」
むくり、と。
ノエルが起き上がった。
「……は?」
声が、出ない。
ノエルはぼんやりと周囲を見回す。
「……あれ? 収穫祭は?」
「おはようございます、お嬢様」
ガランが笑う。
ノエルは自分の上の野菜を見下ろし、ぱちぱちと瞬きをした。
「……おはよう。え? 収穫祭終わったの?」
その瞬間。
ルークの体が、勝手に動いていた。
考えるより先に、踏み込む。
抱きしめた。
ぎゅ、と。
強く。離さないように。
「……っ」
喉が、詰まる。
言葉が出ない。
ただ、腕に力が入る。
軽い。
あまりにも軽い。
それが、余計に怖かった。
ノエルは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに力を抜く。そのまま、受け止める。
「ルーク?」
いつも通りの声。
何も変わっていないみたいに。
「ごめんね。収穫祭、私寝坊したみたい」
軽い口調。
「着替えるから、すぐ行こう?」
ルークは顔を上げる。
目の前にいる。
ちゃんと、いる。
呼吸をしている。
触れている。
「……そうだね」
声が、少しだけ遅れた。
後ろでガランが腕を組み、満足げに頷いている。
屋敷の空気が変わっていた。
あれほど重く沈んでいたものが、嘘みたいに軽い。
半年間、止まっていた時間が――
ようやく、動き出した。




