全部、あげた。
「じゃあ――全部あげる」
その瞬間、ドラゴンの“炉”が膨れ上がった。
どくん――鼓動がひとつ重くなる。
どくん、どくん。脈動が乱れる。
吸っている。だが、追いつかない。
ノエルの魔力が、異常すぎる。
削れているのは魔力だけじゃない。
命ごと、流し込んでいる。
「……っ、来るぞ」
ルークが低く言った。
次の瞬間、ドラゴンが絶叫した。
音ではない。空間そのものが軋む。
蔦が弾け、ノエルの体が空中へと放り出される。
同時に――翼が広がった。
爆風。地面が砕け、森がなぎ倒される。
そのままドラゴンは空へ飛び上がった。
「――っ!!」
轟音。黒い巨体が天を裂く。
⸻
離れた場所で、ゴーレムに運ばれていた騎士たちが、誰もが空を見上げていた。
黒。異様な魔力を纏った巨大な影。
「……あれは……」
レオニードが呟く。かすれた声。
だが震えているのは声ではない。本能だった。
「……災厄、か……」
誰も動けない。ただ、見ているしかない。
そのとき。
空の中心で、光が弾けた。
「――っ」
緑。ノエルだった。落ちていく。
血を吐きながら。それでも、笑っている。
「……は、はは……」
息がまともにできない。体が壊れている。
それでも手を伸ばす。
「まだ……足りないわよ……!」
ドラゴンの“炉”がさらに膨れ上がる。
限界を、超える。壊れる寸前まで。
その瞬間――ルークが消えた。
地上から。
「――今だ」
次の瞬間、空中。
ノエルの背後に、いた。
「……遅い」
ノエルが笑う。
「ギリギリだろ」
ルークも笑う。
一瞬、視線が交わる。
言葉はいらない。理解している。
「全部、溜め込んでる」
「ああ」
ルークが手をかざす。
光ではない。刃。
凝縮。極限まで圧縮された“光”。
「――外すわけねぇだろ」
低く、言い切る。
踏み込む。一直線。
ドラゴンの中心、脈打つ“炉”へ。
「――貫け」
突き刺さる。
無音。
一瞬、すべてが止まる。
次の瞬間、内側から爆ぜた。
光が溢れ、裂け、崩壊する。
ドラゴンの体が内側から砕けていく。
叫び。崩壊。
そして――静寂。
空に残ったのは、二人だけだった。
ノエルがふらりと揺れる。
ルークが腕を伸ばし、抱き止める。
「……無茶すんなよ」
「ルークもね」
弱々しい声。それでも、笑っている。
遠く、地上から誰かが叫んだ。
「……勝った……?」
レオニードはただ空を見ていた。
「……ああ」
小さく呟く。
「あれが――」
息を吐く。
「……“守る者”だ」
そのとき。
誰にも気づかれないほど、わずかに。
空の奥で、“何か”が揺れた。




