攻撃が通じないので、すべてを差し出すことにしました。
森の奥へ、足を踏み入れる。
空気がさらに濃くなる。
重い、ではない。沈む。
肺に入るたび、体の奥が軋む。
「……濃いね」ノエルが小さく呟く。
「今までの比じゃない」
ルークも頷く。
地面が変わっていた。
草は枯れ、土は黒く染まり、ところどころ抉れたように削れている。
――削れたのではない。喰われている。魔力ごと。
その中心へ向かうように、道が続いている。
二人は無言で進んだ。
やがて開ける。
何もない。
木も、草も、命の気配すら。
ただ中心に、ひとつ。
――“黒”。
ノエルが足を止める。
ルークも同時に止まる。
「……いるね」
「いるな」
風が止まる。
音が消える。
次の瞬間、空間が歪んだ。
音はない。ただ、“現れる”。
黒い影。
巨大な翼。
裂けた鱗。
溶け落ちた肉。
だが、その中心だけが異様に脈打っていた。
どくん、どくん。
規則的に。
まるで心臓――いや、違う。
「……炉、みたい」ノエルが呟く。
「ああ。魔力を喰ってる」ルークも同じ結論に至る。
理解した瞬間、ノエルは動いた。
「――砕けなさい」
地面に手をつく。隆起。
ゴーレムが出現し、そのまま叩きつける。
だが、触れた瞬間、崩壊。
砂のようにほどけ、吸われる。魔力ごと。
「……え?」
わずかに揺れる声。
ルークが踏み込む。
「――光よ」
白が走る。直撃。
確かに貫いた――はずだった。
だが、消える。
吸い込まれるように、中心へ。
一瞬の静寂。
「……効いてないな」
「うん、最悪」
軽口の裏で、ノエルの指先がわずかに震えていた。
一拍。
ルークが低く呟く。
「……厄災、か」
ノエルの目が細くなる。
「記録でしか見たことないやつね」
「ああ。討伐記録、三件」
わずかな間。
「――生存者ゼロだ」
空気が、さらに沈む。
次の瞬間、ドラゴンが口を開く。
吐き出される歪んだ光。
「っ――!」
ルークが咄嗟に引く。
爆ぜる。
地面が抉れ、衝撃が森を揺らす。
「……返してきた?」
「しかも、そのままな」
舌打ち。
そのとき。
「――……たすけ……」
声。
ノエルの動きが止まる。
ドラゴンの奥。
絡みつかれた人影。
まだ、生きている。
「……生きてる」
「やめろ」ルークが即座に言う。
「迷うな」
ノエルは一瞬だけ目を閉じ、そして開く。
「……わかってる」
一歩、踏み出す。
その瞬間、地面が弾けた。
蔦。無数。
避ける――間に合わない。
「っ――!」
巻きつく。締め上げる。
骨が軋む。呼吸が潰れる。
そして、吸われる。魔力が。
「……く、っ……」
力が抜ける。視界が揺れる。
それでもノエルは、笑った。
「……ちょうど、いいわね」
ルークの表情が変わる。
「おい――!」
「ルーク」
かすれた声。
それでも、はっきりと言う。
「これ、吸うよね」
「ああ」
蔦に締め上げられながら、それでも笑う。
「じゃあ――」
一拍。
「全部、あげるね」




