王都が動き出しました
重厚な扉が閉じられる。外界の音が完全に断たれた。円卓を囲むのは、この国の中枢にいる者たち。沈黙は重かった。
やがて、一人の男が苛立ちを隠さず口を開く。
「――納得がいかん」
低い声が室内に落ちた。
「第二騎士団長、レオニード・ヴァルカス公爵……あの男が、厄災を抑えた少女を独占しただと?」
拳が机を叩く。ざわり、と空気が揺れる。
別の男が静かに続けた。
「……しかも、その少女。ヴァルグレイス侯爵家の血筋。聖女の“姉”だという話だ」
一瞬、空気が凍る。
「……馬鹿な」「聖女が二人いるなど――」
「いや、違う」
首を振る。
「“選ばれなかった方”だ」
その言葉に、誰もが口を閉ざした。
だが、それ以上に問題は別にあった。
「……執事だ」
ぽつりと誰かが呟く。
「その少女に仕える男が――光魔法を使うという」
静寂。
次の瞬間。
「ありえん!」
椅子が軋む。
「光魔法は王と聖女のみに許された力だぞ!? なぜ執事などという立場の者が持っている!」
「即刻、王都へ――」
言いかけて、言葉が止まる。
一人の男が冷静に口を挟んだからだ。
「……それが、出来んのだ」
全員の視線が集まる。
「その男は――奴隷契約下にある」
空気が完全に止まった。
「……奴隷、だと?」
「そうだ」
淡々と事実だけが並べられる。
「ノエル・ヴァルグレイスが、父親に頼んで購入してもらったらしい」
「つまり」
ゆっくりと、言葉が落ちる。
「所有権は、あの少女にある」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
「……ふざけているのか」
誰かが吐き捨てるように言う。
「国の至宝になり得る力を――一個人が握っているだと?」
「ならば、その少女ごと管理すべきだ」
「当然だ」
頷きが連鎖する。
「で、そのノエル・ヴァルグレイスは今どこにいる」
短く問う。
返答は、すぐにあった。
「――数日前、ヴァルカス公爵邸へ入ったとのこと」
その瞬間、全員の顔色が変わった。
「……完全に囲われた、か」
誰かが低く呟く。
「レオニードめ……最初からそのつもりで……」
一拍。
別の男が、苦々しく口を開く。
「――何度も手は出した」
視線が揺れる。
「接触も、引き抜きも、圧もかけた」
低く、押し殺すように。
「だが――そのすべてを弾かれている」
静寂。
誰も、軽々しく言葉を発せない。
「……第二騎士団長は伊達ではない、ということか」
ぽつりと漏れた声に、否定はなかった。
沈黙が落ちる。だがその沈黙は、嵐の前のものだった。
「――動くぞ」
誰かが言った。
「これ以上、好きにはさせん」




