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限界を超えたら巨神が出ました

ノエルは、口元の血を拭った。ぬるりとした感触。指先が赤く染まる。


息は荒い。体は、もう限界だった。それでも――立っている。


魔獣が、唸り声を上げる。大地が震える。その圧に、普通なら膝をつく。


だが、ノエルは顔を上げた。


「……私の名前は」


声が夜に落ちる。静かに、だがはっきりと。


「ノエル・ヴァルグレイス」


風が止んだ。


「侯爵家の生まれ」


その言葉に意味はない。今はただの事実。


「両親に疎まれて、この辺境の地に捨てられた」


一歩、前へ出る。


「……最初は、許せなかった」


拳を握る。


「全部、嫌いだった」


空を見上げる。


「世界なんて、なくなればいいって思った」


その瞳が、ゆっくりと下がる。視線の先には――人がいる。震えながらも、立っている人たち。


「でも」


声が変わる。柔らかく、そして強く。


「家族って言ってくれた人たちがいた」


「ずっとそばにいてくれた人がいた」


「少ない食べ物を分けてくれた人たちがいた」


一つ一つ、思い出すように。


「……私は」


ゆっくりと息を吸う。


「幸せなの」


その言葉は、この場の誰よりも重かった。


ノエルは顔を上げる。魔獣を真正面から見据える。その目に恐怖は――まだある。消えてはいない。


それでも。


「だから」


一歩、踏み込む。


「その幸せを壊すお前らを」


大地に、手を叩きつけた。


「――絶対に、許さない」


その瞬間、世界が応えた。


地鳴り。空気が震える。土が隆起し、岩が砕ける。


限界なんて、とうに超えていた。それでも――さらに、その先へ。


「来なさい」


声が響く。それは命令ではない。呼びかけ。大地そのものへの。


応えは、すぐに返ってきた。


轟音。大地が裂ける。


その中から現れたのは――先ほどとは比べ物にならない巨躯。山のような質量。地そのものを削り出したかのような、圧倒的な存在。


“巨神”。


ゴーレムが、ゆっくりと立ち上がる。その影が、戦場を覆った。


騎士たちが、息を呑む。


「……なんだ……あれは……」


誰も、動けない。ただ一人、その足元に立つ少女だけが、まっすぐ前を見ている。


ノエルは、静かに手を上げた。


「――潰しなさい」


その一言で、巨神が動いた。


大地を砕き、空気を裂き、その拳が魔獣へと振り下ろされる。


轟音。衝撃が、夜を飲み込む。


それはもう、戦いではなかった。


“裁き”だった。


ノエルは、ただ立っている。血に濡れたまま。それでも、一歩も退かずに。


その背は――誰よりも大きく見えた。

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