食糧を、賭けました
「「……お願いします」」
屋敷の広間に、二人の声が重なった。
ノエルとルークは並んで立っていた。そして――深く、頭を下げる。
静まり返る室内。使用人たちの視線が集まる。
「じゃがいもは……大切な食糧だと、わかっています」
ノエルの声は震えていなかった。けれど、その一言一言が重かった。
「ここにいるみんなが、食べるものだってことも……ちゃんと、わかっています」
ルークが、小さく息を吸う。そして、続けた。
「でも……使わせてください」
顔は上げない。ただ、必死に言葉を紡ぐ。
「水が出るようになったあの土地なら……農業ができます。植えて、育てて……」
ノエルの指先が、わずかに震えた。それでも、言葉は止まらない。
「成功したら……」
一瞬、言葉が詰まる。それでも。
「……村の人たちを、救えるんです」
沈黙。
誰も、すぐには答えなかった。その理由は、誰もが分かっていた。じゃがいもは貴重だ。今ですら、食べる量はぎりぎり。余裕など、どこにもない。もし失敗すれば――ここにいる全員が困る。
それでも、目の前で、子供が頭を下げている。必死に。誰かのために。
使用人たちは、互いに顔を見合わせた。困ったように。そして――ふっと、小さく笑った。
その空気が、少しだけ和らぐ。
「……仕方がありませんね」
静かな声。ガランだった。
ゆっくりと、歩み寄る。そして。
「顔を上げてください」
ノエルとルークが、はっと顔を上げる。
ガランは、いつもの無表情のまま。けれど、その目はどこか優しかった。
「あなた方が、そこまで言うのであれば」
一拍。
「お任せいたします」
その言葉が落ちた瞬間、ノエルの表情がぱっと明るくなる。ルークも、思わず笑った。
「ありがとうございます!」
二人の声が弾む。
使用人の一人が、肩をすくめた。
「まったく……食い扶持、減るかもしれないのにね」
別の者が、苦笑する。
「でも、あの顔見たら断れないでしょう」
小さな笑いが、広がる。
それは――“余裕”ではなかった。“覚悟”だった。
ノエルは、その光景を見つめる。胸の奥が、じんわりと熱くなる。
(……絶対に)
ぎゅっと、拳を握る。
(絶対に、成功させる)
その決意は、もう揺るがなかった。
――誰かの食事を、未来を。
“預かった”のだから。




