表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第二章 燠   ―黎明篇―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/122

二章 八丁  淵へ入りて



 断崖(だんがい)が長大である為に、墜下(ついか)する少女の身体は、まだその(ふち)には辿り着かない。



 少女は岸壁(がんぺき)の隙間に根を張る木々の枝を掴んで、これ以上の落下を防ごうとも考えたが勇気が出ず、落ち行く重力に身を任せる事を選択した。


 それが幸いして、少女達は無事に断崖の底へ到着し、落ち葉を派手に散らして身を枯葉(かれは)(うず)めた。


 堆積(たいせき)した落ち葉の山に運良く着地出来たのだが、落ち葉にすっぽりと埋まった少女の身体は、中々枯葉の表面に這い出られず、顔を出す事が叶わない。


「けほ…! 枯葉が…こんなに…!」


 やっとの思いで、顔を落ち葉の山から覗かせた少女は、口に入った数枚の枯葉を吐き出して辺りを見回した。


  崖上 (がいじょう)から見た断崖の底は、漆黒の闇に思えていたが、満月を目前に迫る月光の強い輝きで、意外にも自分の周囲程度なら視認が出来る。


「は!お侍さま !!」


 碧眼(へきがん)の男の存在を思い出した少女は、記憶の音を頼りに男が転落した場所を探し、身を埋めていると予想される場所を、犬が穴を掘るように必死で枯葉を掻き分けた。そして枯葉に埋もれる男の上半身をどうにか掘り起こし、少女は安否を確かめようとしたが、男の肌は(すで)土気(つちけ)色で、今に息絶えそうなほど弱り果てていた。


 触れた(ほほ)の体温は見る間に冷え切ってゆき、その(いちじる)しく衰弱した男の容態に、少女は死を連想した。


 一度心に過った死への不安は、(かろ)うじて保っていた少女の気丈な精神を折り、遂にその瞳には(せき)を切ったように涙が溢れ、丸みを帯びた頬を止め()なく伝った。


「やだぁ…死な…死なないで…っ! お侍さまぁぁ…!! うえぇえーーんっ!!」


 碧眼の男の胸に(すが)り少女は泣き崩れ、その号哭(ごうこく)は岸壁に反響し、この縦穴に棲まう(ねずみ)や猪などの動物が、揃って逃げ出してしまう程の強烈な泣き声であった。


「おい…」


 少女の背後にある盛り上がった枯葉の山から犬神は首を出し、少女の声量に顔を(しか)めながら声を掛けた。


「死んじゃやだぁあ !! 目を覚ましてぇええ !!」


 だが少女は背後にいる犬神には気が付かず、大粒の涙を流しては男の身体を揺すった。


「やかましぃわぁああ !! 死んどらんじゃろうがぁああ !!」


 枯葉の山から一気に這い出て、犬神は少女の背後から負けじと声を張り上げたが、少女は男の胸に顔を埋め、更に大声で泣き始める。


「黙れぇええ !! 喰らうぞ(わっぱ) !!」


 遂に犬神は少女の目の前で牙を剥き出し、頭に乗った落ち葉を散らしながら、少女へ吠え怒鳴り散らす。


「うぇえーーん !!」


 しかし、男に(すが)り泣く少女は犬神に見向きもせず、犬神の怒声はいとも簡単に少女の泣き声に掻き消された。



「泣いておれ」


 一向に泣き止まぬ少女の相手をする事が、急に馬鹿馬鹿しくなった犬神は、少女にそっぽを向き、落ち葉の上で丸く身を伏せた。

 だがすぐに、一度己の柔らかい手足に置いた(あご)を上げ、再び顔を起こすと、耳をぴんと角立(つのだ)て、木々が生い茂る暗闇の奥を凝視した。



 辺りには木々と岸壁から剥がれ落ちたであろう(いわお)や岩石ばかりで、持ち前の夜目を利かせて犬神は暗闇を眺めるが、視界を遮る障害物が多い為、奥を見通す事は出来ない。


 それでも何かが此方(こちら)へ向かって来ると、獣の直感が犬神を掻き立て、落ち葉に休ませていた身を起こし、暗闇の奥から感じる気配に身構えた。





©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ