表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第二章 燠 【黎明篇】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/147

二章 三丁  鬼逐う男



 碧眼(へきがん)の男が去り、妙な(わだかま)りを抱えたまま一同は静まり返っていた。が、(とつ)として坂田は顔を上げ、(せわ)しなく何かを探し始めた。


 落ち着かず辺りを見回す様子に、男達は落とし物でもしたのかという顔で坂田を見る。


「…あの(わらべ)は何処へ行った?」

「あ…。 さっきまで…」


 坂田の足元にいた少女はいつしか姿を消しており、一同はわたわた己の足下を確認する。しかし、荒廃した村を幾度(いくど)見渡そうと、銀杏(いちょう)(みき)に素早く身を隠したあの時のように、少女は華麗(かれい)に姿を(くら)ませていた。




「若ー!!」


 西北の耕地(こうち)のある方角から響く、その馴染(なじ)みある肉声に一同ははっとした。



 息を切らせて崩れた家屋を(すべ)り降り、駆け足で此方(こちら)へ向う三人の男達は、野衾(のぶすま)に襲われ命を落としたと思われていた戌亥(いぬい)隊であった。


顔色の悪い者が一名おり、全員着衣は少し汚れてはいるが目立った怪我(けが)はない。

その事実は一行の暗い面持ちを一変させた。



「お前達 !! 無事であったか! よくぞ戻った !!」


 全員で一目散に戌亥隊へ駆け(かけ)寄り、坂田は三人の顔を順に確認すると、晴れやかな笑みを浮かべ、一番手近な男の肩を力強く叩いた。



 何故(なぜ)こんなにも仲間が喜んでいるのか、いつになく手厚い歓迎が信じがたい三人は顔を見合わせる。



「ええいノロマ共 !! 今まで何処に隠れていた !!」


 小鳥の様にきょとんと並ぶ三人の男達を、万雷は立腹(りっぷく)し叱り付けた。

危機に参ぜず、己の不面目(ふめんもく)を恥じもせぬ不届き者らへ、一言もの申さねば気が済まないのだろう。


 ところが、戌亥隊はへらっと笑顔を作り悪びれずに答える。



野衾(のぶすま)に襲われて目舞ひ(めまい)を起こしまして! 危ないから仏閣(ぶっかく)に隠れていたんです」

「いやー怖かった! 皆様ご無事で何よりです!」



 仲間の無事を信じていたからこそ、己の身の安全を優先したと言いたいのだろうが、武士が台頭(たいとう)するこの時代では、戌亥隊の行動は忠義を持って仕える臣下(しんか)として、あるまじき行為だと非難を受けるのは当然である。


だが坂田は良くやったと満足げに頷き、(とが)める様子は一切ない。



 そんな配下への甘さと、戌亥隊の反省のない態度に、万雷の怒りは余計に(あお)られた。


「貴様等それでも鬼狩りか !! 恥を知れい !!」

「霧が晴れました(ゆえ)、思い切って()せ参じましたぞ!」


 叱責(しっせき)を物ともせず男等は意気込み、手で(ひさし)を作り周囲を見渡しては、姿なき敵を警戒する。



「若! 無礼(なめ)られておりますぞ !!」

「お前が言うな」


 (あやかし)を退治したとは(つゆ)ほども思わずに、的外れな言動を取る三人を指差しながら万雷は抗議した。が、日頃より万雷の振る舞いに不満を抱く坂田は肩を持たない。



「ガツンと一言申し致すべきです!」


 未だ立腹する万雷へ(また)もや苦言を(こぼ)すかと思いきや、その顔は(ほころ)んでいた。



「良いではないか。 皆 無事であったのだ。 命あることが何よりも肝要(かんよう)ぞ」


 坂田の晴れやかな表情には、深く眉間(みけん)に刻まれていた(しわ)(あと)すら残ってはいない。これまでの険しい面相(めんそう)と一転して、この穏やかな顔立ちこそが、本来の姿なのだろう。


 全員の無事を心から噛み締める主を見て、万雷は自身の頭をぼりぼりと掻く。その顔は未だ(しか)め面だが、譴責(けんせき)は胸に納めたようだ。


 坂田の柔和な調子が場に安らぎを与え、張り詰めたものが解けた配下達は(ようや)(なご)やかな笑みを見せた。




「わ…若 !!」


 戦いを終え、気を抜いていたところに、配下の一人が上擦(うわず)った声を発した。

しかし寸秒早く、坂田は異変に気が付いていた。




 (おびただ)しい数の群衆が、坂田等を隈無(くまな)く囲い込み、人々によって風景は遮蔽(しゃへい)されている。その人群れは老人から子供まで、(よわい)も、性別も様々だが、全員(まばた)きも行わず、何かを訴えかけるよう此方(こちら)を見詰めていた。


人々に生気が感じられないのは、この者達が命尽きた霊魂であり、生活の営みが窺える服装からみて、蟒蛇(うわばみ)()まれ犠牲になった村人であろう。



 無念を残した魂が彷徨(さまよ)い、(あわ)れにもこうして面前に現れたのだと、察した坂田の表情には新たに影が差した。

坂田は、(つか)を握って(かば)い立つ配下達をそっと()き分け、村人へと歩み寄る。



「…先程寺があると言ったな?」

「は…はい !?」

案内(あない)致せ」



 坂田は戌亥隊の一人に命じると、当然であるかの様に村人達へ深く頭を下げた。



此度(こたび)は我ら儺斬(なぎり)が御供養 (つかまつ)ります。 その後、必ずや僧徒(そうと)を招き()り行う故、今は曲げてお許されを…」


 至誠(しせい)の心を(もっ)て申し出た坂田に続き、配下達も揃って深く頭を下げる。





 時の(ほど)(こうべ)を垂れる一行を、亡魂たちは虚ろに見詰めていた。が、揃って顔を上げる頃には、霊魂達は全て姿を消していた。



 応諾(おうだく)してくれたのだろう、そう受け止めた一同の視線の先には村の出口があり、怪異が解決した今ならば、もう村里へ戻される事はないだろう。

しかし坂田は出口を目指さず、村人との約束を果たす為、――その魂を(とむら)う為に、村の奥へ歩み出す。




 夕空に満ちる 残照 (ざんしょう)が消えゆき――

 舞い散る銀杏の葉と追風のみが、坂田一行の旅路を見送るかの様に吹き抜けた。







©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDFの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ