↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目の剣豪篇、連載中 / 落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
盲目の剣豪篇 | 第六章 風病

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
170/182

六章 十三丁 万劫獄苦



『うるせぇ!!』


 だが飯助(いすけ)は耳を貸さず、樋造(といぞう)上がり框(あがりかまち)まで突き飛ばすと、さらに心無い言葉を卜部(うらべ)に浴びせかける。



『テメェがこの村に来なければ俺の(せがれ)は死ななかったッ!! 倅を返してくれよ……!! なぁ…!!』


 土間(どま)を踏み込んで、卜部に掴み掛からんがばかりに迫る危うい男を、樋造は必死に表口へ押し戻す。



『お前の所為(せい)だッ!! 何が剣術だッ!! 役に立つどころかッ皆犬死だッ!! なんにもならねぇじゃねぇかよ !!!』


 飯助は狂ったように泣き叫び、樋造と取っ組み合う。それを今まで傍観(ぼうかん)していた者達は、暴れ回る姿に愈々(いよいよ)危険を感じて助けに加わった。


だが数人掛りで家屋から追い出されようと、飯助は(なお)も戸口を掴んで粘り、怒りの矛先を邪魔者達へ変える。


『お前等もなんとか言えよッ!! 俺ぁ余所人(よそびと)を受け入れるなと言ったよなぁ!!』



 言い散らせば、一人が追い出すのを止め、(なだ)めようと近づいて思い留まる者、気まずそうに(うつむ)く者などが見え隠れした。それらは口には出さずとも、飯助の考えに同調していた。



 その者等を見て、樋造は力が抜けるほどの衝撃を受けたが、飯助にとっては勢いを得ることとなった。



『こんな野郎…ッ!! ――テメェの所為でもあるんだぞ樋造ッ!!』


 非難は樋造にまで及び、飯助は疲れ果てた三人を()き分けて、室内に(とどろ)くほどの声量で(わめ)き立てる。


『テメェが来てから変わっちまったんだよッ!! 全てッ!! お前が来るまでは平和でやってたんだッ!!!』



 女達は恐怖と悲しみで泣き乱れ、伝七(でんしち)は身を縮込(ちぢこ)ませて、聞いてはならんと念仏(ねんぶつ)のように繰り返しては、震える手で卜部の耳を塞いでいた。



『……――ッッいい加減にしろッ!!! 飯助ぇ!!!』


 遂に我慢(がまん)()が切れた樋造が、思い切り身体を突き飛ばすと、飯助は勢いよく外へ弾き出され、上向きに倒れながら地を滑る。



『二度と先生に近付くなッ!! 出て行けぇ!!!』


 温厚(おんこう)な樋造が、ここまで憤慨(ふんがい)する姿を目にした事がない村人達は息を呑んだ。



『………そーやってまた…、余所者(よそもん)の肩持つのかよ……っ』


 飯助は歯を食い(しば)り、震わせた(あご)から涙を落として、樋造を睨み返す。



『ああッ、こんな所出て行ってやるッ!! そうやって()れ合って、この村でくたばりやがれッ!! 人殺し――ッ!!!』



 誰彼構わずに吐き散らし、飯助は最後まで、卜部を人殺しと(ののし)った。

そして、皆に許しを()うて土下座する妻と、嫌がる娘を連れて、その日のうちに村を出て行った。




 喧騒(けんそう)が静まった村に、人々の(すす)り泣く声だけが止まずに続く。

込み上げる涙と、震える(こぶし)が落ち着くまで、樋造はその声を聞きながら立ち尽くすしかなかった。



 そして卜部もまた、血が(にじ)む包帯から、涙の混ざり合った赤い(しずく)を絶えず流し、夜具(やぐ)に染みを広げていた。







 …――これは、何度思い返す地獄か。


 こうして洞の前で、復讐を待ち()びる間、皆の絶望や、味わった痛みを心が見せる。


 あの日から二十二年。鬼を待てども現れず、己の命のみがただ削られてゆく。



「…――ごほ…っ!」


 窟に立ちはだかる身体を風が通り抜け、思わず(せき)が込み上げた。

口内に血の味が広がり、左手に生暖かいものを感じながら、卜部は己の命の残をみた。





©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。