五章 五十丁 褒美
それを物好きと白けた目で訴えながら、 瓢羨 は煙を深く吸い込む。
「 九国 にて、神明の祀られし霊場――……その地に封じられし鬼。 わしの語り種の中で最古の鬼となるか………」
これまでは懶という語りで天井画を眺めていた筈が、この話には多少の関心があるらしく、顔付きが引き締まった様に見えなくもない。
「如何にも無貌が物好みそうな持て扱ひ種ではないか?」
同意を求めるよう流し目る瓢羨へ、ネイは黙って頷き返す。
「然れど九国の鬼には、…わしとて触れたくはない」
瓢羨はより声を落とし、煙を優雅に吹く。
「あの鬼を御せるものなどおらん…。 九国はいずれ滅ぶ………――まったく以て詮無き事よ」
そう告げたきり瓢羨は黙し、何処かへ意識を飛ばした様にぼうと煙草の香りを味わった。
相手がさも話し終えた素振りを見せようとも、ネイは更なる情報を求める。
「それから?」
「まだ食い下がるのか、厚かましい。 もう帰れと言うておるだろう、面倒臭い」
欲に塗れた汚いもののように、瓢羨は一同を厭う。
「何でじゃっ!! 土産は! 土産をよこせっ!!」
犬神が約束を引き合いに出せば、煩わしそうに 渋面をつくる、そんな瓢羨を気遣い、ネイは最後の交渉を持ちかけた。
「なら最後にこれだけは……、この子が安全に暮らせる所を探している」
「えっ!?」
聞き及んでいない話を出され、御鈴姫は悲痛な声を上げた。
「この街の妖は…、御鈴を大切にしてくれた……。 それに…好んで争わぬように見える…」
人間にはああだったが、小鬼である御鈴姫に対しては敬いを忘れず、手土産をくれる妖怪もいた。
「元より好きよ気儘に生きるのみ――…群ら立って事を起こす性分でないだけよ」
瓢羨は煙草にも飽きたのか、咥えもせずに煙を目で追っている。
「そんな処を探していた。 どうか…御鈴を匿ってはもらえないだろうか?」
ネイが真摯に頼み込むのを、瓢羨は視界にも入れない。
「どうでもよい。 思うままにするがよいわ。 彼奴が 風車 を寄越したならば同類の証よ」
断られるかと案じていたが、あっけらかんと認められ、ネイはほっと胸を撫で下ろす。
しかし、勝手に話を進められた御鈴姫は、早々に納得しなかった。
「お願い! 私もいかせてっ!」
「危険なんだ」
縋り付かれようが、首を振るネイの意思は固かった。
「それでもお願い! 私っ頑張るから! 私ね…ちょっとだけ力も強くなったよ!」
小さい指先を見せ付けても、ネイは決して譲らない。
どうすれば思い直すのかと、あたふたする御鈴姫を見て、瓢羨は初めて目尻を下げて笑った。
「くく…! 小鬼は純真よのぅ。 …――小鬼であればな」
瞳に鋭いものを忍ばせながら、さらに御鈴姫を見下ろす。
「己の 境涯を…心得ておらぬで言うてやる。 小鬼よ」
「はい!」
扇子を向けて呼び掛けられ、御鈴姫はすぐさま向き直り、姿勢を正す。
「おのが他に、小鬼を見ゆたか?」
瓢羨が聞けば、御鈴姫は、はたと記憶を巡らせた。
「…………、ありません!」
口をぱくぱく考えた末に答えれば、瓢羨は頷き返した。
「そうであろう。 鬼が希少な事由を授けてやろう」
話が何処へ向かうのか知っているらしく、化け猫たちは気の毒そうに身を寄せ合う。が、瓢羨に躊躇いはなかった。
「喰われるからよ」
あまりの答えに、一同は思わず唇を開く。
「鬼の力は無為の神威。 神力に魅入られし狼虎大妖どもが、おのが手にする為に喰らうのだ」
一同が身動ぎもせずに聞き入ろうとも、瓢羨は続ける。
「育ちきらぬ小鬼など極上の好餌。 故に小鬼は稀であり――…消え入るのよ」
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