表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目の剣豪篇、連載中 / 落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
江戸跋渉篇 | 第五章 百鬼夜行〈後半〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
151/163

五章 四十七丁 導




 室は所々が行き止まり、その度に進行方向を変えるので、方角が掴めなくなる。しかし座敷童子(ざしきわらし)は、屋敷内をすべて知り尽くしたように一同を導いた。



 時々、先を行き過ぎれば不安げに振り返るが、しっかり後を追う一同を見れば、また走り出す。

座敷を一頻(ひとしき)彷徨(さまよ)い歩いているうちに、意識を取り戻した犬神は、飛び跳ねる(わらべ)の背を疑り深く見詰めていた。



「……なほも奥に、迷わせる気ではあるまいな」


 一向に出口の見えぬ不安をぽつりと口にすれば、それを見越したように表戸が現れた。



 角を曲がった際に、(ようや)く出現したその立派な両扉は、訪れた時に出入りした引き戸とは別物であるが、土間(どま)には全員の履物(はきもの)が綺麗に並べられてあった。


座敷童子は、(はし)にある小さな下駄(げた)をさっと()き、扉を軽やかに叩く。

すると、両扉はゆっくり外側に開いた。




 屋敷内へ吹き通る外の空気を懐かしみ、心惹かれるがままに戸口を潜った一同は、――唖然(あぜん)と凍り付く。




 館へ入る前はまだ昼時で、それほど時は経っていない(はず)だが、辺りはすでに夕闇へ落ちていた。



 (のき)に吊り下げられた 提灯 (ちょうちん)は赤くともり、(いらか)を争う町並みをより鮮烈に引き立たせる。


思いの(ほか)、戦いに時を要したとしても、日が暮れるほどではなかったと得心(とくしん)が行かない。しかし、それよりも問題なのは、水路が巡らされた小洒落(こじゃれ)た街に、魑魅魍魎(ちみもうりょう)蔓延(はびこ)っている事だった。



 朱色(しゅいろ)で飾られた歓楽街(かんらくがい)を思わせる華やかな街を、妖怪達が我が物顔でそぞろ歩く様子は、人間を追い払って街を牛耳(ぎゅうじ)ったのだと誰もが誤解するだろう。


町並みが江戸と似通(にかよ)っている事も、思い違いをさせた一因だが、自分達が別の場所へ移された、そう捉え直せばネイはこの状況を呑み込めた。




 一同が絶句したまま、前方の水路に浮かぶ河童(カッパ)を見詰めていると、館の扉が(きし)みながら閉じてゆく。

その戸口の隙間から、座敷童子は手を振って別れを告げていた。



「ありがとう! またね!」


 御鈴姫が手を振り返すと、童は飛び跳ねながら頷き返し、重く重なり合った両扉がその(はかな)げな姿を仕舞い込んだ。




 なんとも短き(たわむ)れであったが、奇縁はのべつ幕無(まくな)しにやって来る。


 閉ざされた両扉には、左右に化け猫がぺたりと張り付いており、こっそり爪を()いでいる。そして一同に気が付けば、へにゃりと猫なで声を上げ、色気ある仕草(しぐさ)で傷を隠した。



「にゃあ、よくぞご無事でぇ」


 ちっとも心配していなかった声色で、色白の娘は()びを売る。


 これでも娘たちなりに再会を喜んでいるらしく、ひらひらと袖を舞わせ、歓迎を表わすよう街をみせつけた。



「我等、(あやかし)常世(とこよ)へようこそ」



 きゃきゃきゃと娘たちは(かんざし)を鳴らし、御鈴姫は嬉しそうに(おもて)を輝かせる。



「あれ、さっきのお姉さまだ!」


 ちゃんと容姿を覚えていた御鈴姫へ、娘たちはにゃーんと指先を丸める。



瓢羨 (ひょうぜん)さまが、 百鬼館 (ひゃっきやかた)にてお待ちです」


 色白の娘は街の中心に(そび)え立つ、もはや城と呼ぶべき館を指した。




 五階建てはあろうか。

その館は 縦横 (じゅうおう)に張り、周囲の建物を支えるよう寄り添い合って 聳立 (しょうりつ)している。

窓外へ灯りが(まば)らに漏れ出し、木理(もくり)を高度に組み合わせる事で手にした壮麗(そうれい)な外観は、漆喰(しっくい)塗りの洗練(せんれん)された江戸城とはまた異なる美しさがあった。




 館をあんぐりと見上げるその隙に、小麦肌の娘はそろそろ忍び寄り、狙いを付けて黒桜丸の腕を捕まえる。



「その前にぃ少し遊んでゆかれますか?」


 ぎょっと反り身になる黒桜丸の胸板に頬ずりし、娘はきゃきゃと(じゃ)れつく。

それに(あやか)り色白の娘も、ネイへ飛びついた。


「またたび買ってくださいにゃぁ♡」



 娘たちはごろごろと喉を鳴らして強請(ねだ)り、食い物の話題とみた狛和丸(ハクアイマル)もそれに加わった。


「油揚げ! 油揚げはあるかっ!?」



 食い意地の張った犬神は(よだれ)を垂らして興奮し、同じくして御鈴姫も、未知への期待に胸を躍らせていた。




 だが、妖怪の世界は生易(なまやさ)しいものではない。――と、この後、ネイと黒桜丸は思い知る事となる。






©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ