五章 三十三丁 初々しき遊戯
狙いを付けた矢は見事に的を射抜き、回転が落ち着くまで子供らはごくりと息を呑んで結果を見守る。
しかし、絵柄が明らかとなれば、落胆と歓喜の声を綯い交ぜに発した。
『 えぇー!』
『 あれ、外した 』
白影はけろりと言い、片目を閉じる。
『 的には当たってますよぉ! おめでとう! 独楽を差し上げます!』
親父は無性独楽を手渡し、白影は掌の巻き貝を転がし模様を見る。
『 すまんな童。 双六は―― 』
子供らを見下ろせば、目を輝かせて両手を出し、くれくれと言うように飛び跳ねていた。
『 わぁいっ! ありがとう! お兄いー!』
独楽を受け取った童は大層嬉しがり、巻き貝に縄を巻き付け早くも遊び始める。
『 喜んでいるなら何よりだが 』
わいわいと上手に独楽を回して遊ぶ姿に、白影は苦笑する。
『 ほれ、次は主じゃ。 今度こそ双六を取ってやれ 』
『 …… 』
吹き矢を押し付けると渋々受け取りはしたが、黒桜丸は迷惑そうに筒を眺めている。
『 どうしたのだ? 手本は見たであろう 』
白影は手拭いを己の頭へ戻し、黒桜丸を台まで誘導する。
その際、二人の容姿を垣間見た童と親父は、やはり見間違いではなかったと目を擦り開くを繰り返した。
『 ほれ、構えて。 そうじゃ、思いきりじゃぞ 』
黒桜丸の腰を引いて肘の角度まで整えてやり、白影は少し離れた位置から娯楽の開始を待った。
だが、一向に円盤が回らず、首を傾げる。
『 回さぬのか?』
『 あぁ…ああ…! それぃっ!』
目が合えば店主ははっと我に返り、台を回した。
親父の動揺が円盤に伝わったのか、さっきより回転が強い気がするが、黒桜丸は文句を溢さずに筒を構え集中する。
やると決めたからには真面目に取り組む姿を、白影が腕を組んで微笑ましく見守っていると、子供らは何故か忍び足でこそこそ傍へやって来た。
『 ねぇ…! なんで同じ顔なの !? 』
『 助んとこより似とるー! ねぇなんでっ!? 』
興味津々に詰め寄る童にまじって、親父も頷きながら聞き耳を立てており、悪戯心が刺激された白影は口角を上げ、同じく声を潜める。
『 ……それはのぉ 』
『 それは…?』
大袈裟に身を寄せる白影の雰囲気につられ、親父は生唾を呑み込み、童は背伸びをして聞き入った。
『 それはのぅ――… 』
『 そ…それは… !? 』
十分引き延ばした末に、白影は打ち明ける。
『 あやつが化け狸だからじゃ 』
『 化け狸ーっ!!? 』
告げられた嘘を真に受け、親父と童たちは叫ぶ。
『 そうじゃ。 飢えておるところに餌をやると懐かれてしもうて、それ以来わしに化けては―― 』
『 おい…!』
すべて聞こえていた黒桜丸は、雄弁に語る白影を睨んだ。
『 まだ吹いておらぬのか、さっさとせぬか 』
『 てめぇの所為で目が散る 』
黒桜丸が筒を構え直すと子供達は沈黙し、今度はしっかり成り行きを見守る。が、しんと静まる場に忍び笑う声が目立ち、見物人たちは其方に視線が引かれた。
口を押さえ声を我慢しているつもりでも、白影がくすくすと笑う度に指の隙間から息は漏れ出ていた。
笑われて調子を乱した矢は、へなりと的にすら届かずに失速し、黒桜丸は台へ両手を付いて立腹する。
『 てめぇな…!』
『 すまんすまん! わしもそんな顔で吹いているのかと思うと……敢え無くじゃ…!』
まだ笑いの尾を引きながら白影は侘び。
不満そうな黒桜丸へ、親父はささと景品を持ってきた。
『 はい、残念。 飴玉だよ。 惜しかったねぇ化け狸の旦那 』
『 うるせぇ。 ……ほら 』
藁で編まれた玉形の吊り籠の中に、一つだけ茶色の飴玉が入っており、黒桜丸はそれを気前良く童に譲る。
『 え! いいのー? ありがとーう!』
妹に飴玉をやり、食い損ねたであろう男児に渡すと、すでに飴を持っている三人は羨ましがった。
『 いいなぁー! なぁなぁ尻尾みせて!』
『 ねぇよ! 鵜呑みにすんな!』
強請るように衣を引っ張り、尻を覗き込む童らを黒桜丸が叱り付ける傍らで、白影は物欲しそうに腹を摩る。
『 はぁー…、遊んだら腹が減ったのぉ 』
そして辺りを見渡し、すぐ目星い店を見付ける。
『 お、麦湯の出店か珍しい! 丁度よい喉が渇いた。 ――ではの、童たち!』
白影は又しても黒桜丸の肩を捕まえ、別の出店へ引っ張ってゆく。
『 さよならー! 狸のお兄ぃもさよならー!』
子供達は手を振って二人を見送り、白影は手を挙げて応えると、手拭いを被り直し吹き矢の出店を後にした。
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