表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目の剣豪篇、連載中 / 落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
江戸跋渉篇 | 第五章 百鬼夜行〈後半〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
134/165

五章 三十丁  呱々ゆりの後会



 若者は容易く片腕で受け流す。が、いなした際に(すき)を生み、胸倉を掴まれたその身体は踏ん張りきれず、引き寄せられた。



『 むかつく(ツラ)だ! てめぇ…!! 』



 互いの(ひたい)が触れ合う寸前の距離でドスを()かせれば、若者はきょとんと(まぶた)(しばた)かせる。そして、じっと黒桜丸(くろうまる)の顔を凝視(ぎょうし)していたが、いきなり大声で笑い始めた。



『 …っ!? 何がおかしい…!? 』


 黒桜丸は予想だにしない反応に毒気を抜かれ、(えり)を掴む指先が緩んだ。

それを見て若者は更に大笑い、(はだ)けた着物を直しながら目尻(めじり)を拭った。



『 …己の面も知らんのか? お前は 』


 呼吸を整えた若者は、困惑に(おちい)る黒桜丸の肩を強引に組むと、近場の池へ引き()ってゆく。



『 ほれ、面白いものが見えるぞ 』

『 放せ! この…ッ 』



 丘を少し下った場所にある小池へ着くなり、若者は嫌がる黒桜丸と共に 水鏡 (みずかがみ)に顔を突き出した。



水面には桜の浮き花が波間(なみま)に揺らぎ、夕暮れに染め上げられたそこには――、同じ顔の男が並び合っている。



 (あか)抜けた男はにこにこと楽しげで、十分寝食のとれた健康的な顔立ちをしており、それに引き替え(となり)の男は、やせ細るくたびれた顔に、墨色(すみいろ)襤褸着(ぼろぎ)はまるで雑巾(ぞうきん)、束ねた髪は(もつ)れて見窄(みすぼ)らしく(ほお)にこぼれ掛かっていた。



 風采(ふうさい)の良い方を己とは言うまいが、鏡を見たことがない為、これがまことの姿なのかと疑ってしまう。しかし、葛藤(かっとう)するのはそこではない。




 何故、――同じ顔をしているのか。




 口が半開きのまま黒桜丸はゆっくりと首を動かし、肉眼で改めて隣の男を見た。



『 のぅ?』


 白影(あきかげ)は瞳を躍らせて笑いかけてくる。



 それがまた受け入れられず、相手を()ね除けた黒桜丸はふらふらと坂を下り、人家の方へ歩き出す。



何処(どこ)へ行く? ああ、帰るのか 』



 返事をせず、黒桜丸は馴染んだ動作で茅葺(かやぶ)きの民家へ入った。



 白影も続くが、目前でぴしゃりと戸を締め切られ、(まばた)きを数回繰り返した後、()りずに自分で入り口を開けた。



黒桜丸はすでに土間(どま)から板間(いたま)へ上がっており、屋内をざっと眺めると(すみ)に寝転がる。戸口に背を向け、ごろんと横に寝そべる格好は、語らずも関わりを拒んでいた。



 二人分の履物(はきもの)を揃えて白影は板間に入ると、囲炉裏(いろり)の前に腰掛け、興味深く室内を見渡す。


『 お前の家か。 中々良い住まいではないか 』



 小屋は独り住まいにしては十分な広さがあり、(かまど)や使い込まれた調理道具などが揃っている事から、自炊の習慣が見える。


隙間風(すきまかぜ)が通る古家だが、しっかり掃除は行き届き、編みかけの(かご)は売りに出すのか、意外にも身の回りをきちんと(こな)す男だと見直した。



 暮らしぶりに目を通した程度だが、人となりを知れた気がした白影は嬉々として、囲炉裏の向こう側から身を乗り出し、話し掛ける。


『 主… 』


 声を発した直後、立て付けの悪い戸板(といた)が開き、咄嗟(とっさ)に口を(つぐ)んだ。



『 はぁ~…草臥(くたび)れたぁ~くたびれたぁ~…、腰がぁぁもう動かぁぁ~ん… 』

『 わっちもぉ、もう眼が見えんよー 』



 農作業を終えたであろう老夫婦が、疲れた様子で土間へ入って来た。

当然二人の姿に気が付き、ぽかんと立ち尽くす。



『 …あれまぁ、どなた様やろかぁ 』



 驚いて背筋を伸ばす白影と、片腕を(まくら)に寝たふりを決め込む黒桜丸を、夫婦は腰を(さす)りながら知り合いの子だったかと心当たりを探る。が、まぁいいかと急に吹っ切れ、手荷物を片付け始めた。



 老爺(ろうや)は足を洗って上がると、てきぱき囲炉裏に火を付け、老婆(ろうば)が夕食の支度をする姿に、本来の家主を悟った白影は、のびのびと場所を占領する男を呆れて眺める。



 紅炉(こうろ)の火に当たりながら、老爺は背を向ける黒桜丸の容姿を(のぞ)き込み、白影と見比べた。


『 ほぉわぁ! おめぇ等よう似とるのぉー、兄弟かぁ!』



 兄弟と言われ、やはりそうなのかと黒桜丸は薄目を開く。



『 鍋やで、すぐできるよぉ 』


 老夫婦は二人を追い出すことはせず、四人前の大鍋を囲炉裏に用意する。



『 どうしたぁどうしたぁ? 素手で餅でもついたかぁ?』


 黒桜丸が何気なく頭を()いた際、その腕の怪我(けが)を見付けた老爺は(あわ)れみ、甲を(さす)る。



『 あれ可哀相にぃ 』

『 冷やして、(つば)つけたろうにぃ 』



 (おけ)に水を()むと、老爺は腕の傷を綺麗に洗ってやり、本人は空寝(そらね)をして大人しく施しを受けた。



『 助んとこも似とるがぁ、ほんまによう似とるのぉ 』

『 あそこはみんな同じ鼻しとるからねぇ。 坊や~? 芋すきかぁ?』


 老夫婦は気ままに話し、黒桜丸へ芋を渡すと、片身が狭い白影の膝にも焼き芋を置いた。



『 坊やも~、食べみりん 』



 ちらりと黒桜丸を盗み見ると、すでに焼き芋を頬張(ほおば)っており、この奇妙な状況が急に(こら)えきれなくなった白影は口元を緩めた。


そして、夫婦に心を開いてからは 饒舌 (じょうぜつ)になり、夕餉(ゆうげ)円居(まどい)や寝入る刻まで大いに二人を笑わせた。



 子に先立たれ、いつもはひっそりとした夫婦の()び住まいが、この晩はやけに賑やかだったと後に近隣(きんりん)は喜んだ。






©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ