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盲目の剣豪篇、連載中 / 落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
江戸跋渉篇 | 第五章 百鬼夜行〈前半〉

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五章 二十八丁 先つ夜行日



 これ以上近付きたくはなかったが、座敷へ上がる他なく。

(ふすま)を閉めた娘は、男の膝元(ひざもと)へ辿り着くまでに白猫へ変じ、御鈴姫(みすず)狛和丸(ハクアイマル)は声なく大口を開ける。



「…あなたは?」


 ネイが尋ねると、男は権高(けんだか)(あご)を上げる。



「わしはこの(やかた)(あるじ)、ぬらりひょん。 百鬼夜行の大王(おおきみ)とそやす 輩者(やからもの) もいる――…がどうでもよい」



 風格をもって男は名乗るが、次第に語尾は気怠(けだる)げに落ちてゆく。



「ぬらりくらりと気の向くままにゆきたい。 それのみよ」



 この一帯を()べるにしては、この 瓢羨 (ひょうぜん)という者から剛健な勇ましさや野心は見受けられず、宙を舞う紙のように掴みどころがない。



 その意外性に内心当惑しながらも名乗り返そうとするネイを、瓢羨は遮った。


「よいよい。 主等の名などどうでもよい。 (きょう)が乗らねば、すぐに主等など摘まみ出す(ゆえ)な」


 ネイと黒桜丸(くろうまる)を順に指しながら、瓢羨は退屈を吐く。



「喰われる訳ではないのか…」


 いい加減に扱われているにも関わらず、犬神は胸を撫で下ろす。



「まぁ()すがよい。 我等のもてなしは、ちと高く付くがのう。 ――して、どのような面白き語りをするのだ?」


 感情の抑揚(よくよう)があまりない男だが、(うなが)されるまま一同が素直に腰掛けると気分を改め、陽気さをみせた。




 (じゃ)の道は(へび)に――、鬼と同類といえる存在ならば妖物(ようぶつ)に通じていると読み、こうして無鉄砲にも押しかけた。が、いざ機会を得ると慎重になる。



相手の気を損なわぬようネイが言葉を選ぶ中、黒桜丸は()めず(おく)せず切り出した。



「鬼を探してる」



 その一言で御鈴姫は身を跳ね、脇に置いておいた(かさ)を慌てて被り直した。



 市場で出会ったのは、百鬼夜行を待ち伏せていたからだと察してはいたが、鬼を探すその真意を測りかね、ネイは黒桜丸の横顔を見詰める。



「ほぉ、妖狩り(あやかしがり)か。 人間は血腥い(ちなまぐさい)土産話しか持ってこぬ。 まったく(もっ)て興のない」


 瓢羨は途端に興味が失せた様子で、酒を(あお)った。



「知らんなら他をあたる。 どっちだ?」



 横柄(おうへい)な黒桜丸の態度に呆れ、瓢羨は肘掛(ひじか)けに更に寄り掛かる。



()しも無しに手に入ると思うな。 まったく以て人間は…」



 文句を呟きながら相応の対価を要求する瓢羨へ、ネイはすかさず尋ねた。



「何が望みに?」



 自ら言い出しておきながら、すっかり飽きがきた瓢羨は、(さかずき)を灯りに照らし見ている。



「ふぅん。 年果(としは)つは 徒話 (あだばなし)でも(さかな)に、深酒がしとうなる……。 つまり無聊(ぶりょう)の慰めに主等を入れた」



 思い付きの退屈凌(たいくつしの)ぎと扱われ、黒桜丸はあからさまに不快感を示す。


「くだらねぇ…、付き合ってられるか」



 瓢羨はそんな黒桜丸に構わず、扇子(せんす)を差し出した。



「なら舞え」


猶更(なおさら)できるか」



 うんざりと言い返した黒桜丸の顔には、見るからに鬱憤(うっぷん)が蓄積されている。



「貴方たち百鬼夜行にとっても…、無貌(むぼう)の鬼は危険だ」


 (らち)が明かず割って入ったネイを、今度は黒桜丸が見る。その目は聞き慣れぬ鬼の名に、関心を示していた。



「くくく…人間如きに情けを掛けられるとはな」


 笑みをつくってはいるが、不和(ふわ)を招く物言いで瓢羨は眉根を寄せる。



「あなたは…無貌鬼とは違う」


 事の重みを理解させようと、ネイは真情を打ち明ける。



「……奴は…、この世のすべてを(あだ)み…。 人を殺め…歩むすべてを灰にしようと……、奴の怒り…(ごう)は……(とこ)しえに尽きない…」



 胸の古傷を押さえ重い口を開けたが、その言葉は瓢羨には響かぬようだった。



「――くく…。それは主等が()く世の無常(むじょう)であろう」


 そして、ことさら無関心に、寄りつく白猫を撫でる。



「気まぐれに生きるが我ら妖よ。

()()れば争ひ、果ては所狭(ところせ)し生き様に甘んずる――…力に容易(たやす)(ふく)する人間(きさまら)に、我等の身の上を案じられとうないわ」



 けんもほろろに(あしら)われ、我慢ならぬ黒桜丸は立ち上がる。


「話す気がないならお前に用はない」



 それだけ言い残し去ろうとすれば、瓢羨は肘掛けに軽く扇子を叩き付けた。



小童(こわっぱ)。 機嫌を損ね命を散らすのは、お前達か無貌鬼。 どちらかと言うておるのだ」



 明確に殺意を(にじ)ませる瓢羨に、黒桜丸は劣らぬ敵意を返す。


その反応を面白がり、ぬらりひょんは紅色の(まぶた)を持ち上げた。



言ノ葉(ことのは)は偽りにまみる…が、心を(うつ)(まなこ)(うそぶ)けぬ。 お前達が口ばかりの愚物(ぐぶつ)か。 どれ、――見てやろう」



 背筋が凍り、挑発に応じたことを悔やむが抗えず、瞳は瓢羨へ吸い寄せられた。



 此方(こちら)を見詰める黄昏(たそがれ)色の双眸(そうぼう)は、内に深く刻まれた記憶を、魂ごと引き()がすようだった――。






©️2025 嵬動新九

次回はお休みをいただきます。

いつも最新話をご覧いただきまして有難う御座います!

皆様に楽しんでいただける物語をお届け出来るよう頑張ります!(^^)



※盗作・転載・無断使用厳禁

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