表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目の剣豪篇、連載中 / 落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
江戸跋渉篇 | 第五章 百鬼夜行〈前半〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
131/163

五章 二十七丁 先つ夜行日



 唐傘(からかさ)お化けが(わらべ)を驚かし、再び泣き声を(とどろ)かせたのを最後に、おおよそ百体の妖怪が市場を通り抜けた。


行列の失せた場所は、雲が晴れたように明るさが返り、市場には少しずつ人通りが戻りつつある。



 終わりを待ち(あぐ)ねていた黒桜丸(くろうまる)の目の前を人影が通過し、まだ立ち遅れた妖怪がいるのかと目を向ければ、行列の最後尾には子犬を抱えた少女と金髪の男の姿があった。


覆い(フード)をとって素顔を(さら)し、堂々と市場を過ぎる一行を、黒桜丸は思わず二度見する。



 曲に合わせて跳ね(おど)猫又(ねこまた)の後ろを、御鈴姫(みすず)はうきうきと付いて行き。

あの碧眼(へきがん)も妖怪だと(うわさ)されながら、なるがままに任せていると、やがて行列は市場を外れた。そして、一軒の豪奢(ごうしゃ)な屋敷へ流れるように入ってゆく。



 進物(しんもつ)を抱えたすべての妖怪が招き入れられ、遂に番が来たところで棟門(むなもん)が閉まりかけた。が、一同の姿を認めた二人の娘が両扉を(とど)めた。



 娘はどちらも丸小顔(まるこがお)の美人で、派手な花柄の打掛(うちかけ)前帯(まえおび)着熟(きこな)し、()い上げた髪に(かんざし)を鈴なりに()している。如何(いか)にも遊女といえる格好だが、何のしがらみもない伸びやかな表情であった。


 妖艶(ようえん)に振り向く動作は猫のようにしなやかで、髪の隙間からぴんと山形に立つ猫耳の様な飾りが、ちらちらと動いている気がする。



「あらぁ、いらっしゃい」


 色白の娘はひどく猫なで声だが、大半の男を(とりこ)にする愛らしさがある。



対のように小麦色の肌をもつ娘は、腕に抱いた三毛猫を撫でながら一同をぐるりと見詰め、その背後へうっとり媚態(びたい)を示した。


「皆さま風変わりで」



 振り返れば黒桜丸が立っており、恨めしく此方(こちら)(にら)んできた様に思ったが、そういう目付きなのだとネイは察する。



「お前とは足並みが揃うな」


 親しみを込めて黒桜丸に語り掛け、ネイは娘へ向き直る。


「この館の主人に、目通りたいのだが…」


 言い終えぬうちに、娘たちは揃って硝子玉(がらすだま)のような眼を細め、(そで)で口元を隠す。



「くすっ。よろしゅうございますよ」



 (あや)しく含み笑い、娘たちは半端に閉ざされた棟門を開け放った。



「こちらへ」



 門内は、陰森(いんしん)の如く(ひそ)やかで薄暗く、豪壮な(やかた)へ導くよう灯籠(とうろう)敷石(しきいし)の上に並べてある。



 一見はありきたりな有徳人(うとくじん)の館だが、(いわ)く言い(がた)い陰気な風情に尻込むネイ達を置いて、黒桜丸は揺るぎのない足付きで中へ入って行った。遅れぬよう一同はすかさずその後へ続く。



「くれぐれも(あか)るるなきよう。きゃきゃきゃっ」


 寸分の狂いなく娘たちは声を合わせて笑い、表門を閉め切った。



 色白の娘が灯籠の小道を行って館の大戸口を開き、一同が式台(しきだい)を上がると、もう一人は三毛猫の手を振らせながら外側から戸口を閉じた。



 娘に案内され進む廊下(ろうか)は一向に終わりが見えず、二階まで吹き抜ける高天井と奥行きも、外観する建物の規模と明白に釣り合っていない。


天井付近には鮮やかな 提灯 (ちょうちん)が巡らされているが、先行きが仄暗(ほのぐら)くぼやけており、廊下を挟み込んで連なる障子戸(しょうじど)がやはり果てなく思えた。



「すごく綺麗…! (はぐ)れちゃだめって聞いたから、すっごく怖い所かと思ったね!」


「怖いであろう !! 先のあやつらは何処へ消えたのだっ!!」


 御鈴姫は宙に浮かぶ提灯を見上げて興奮し、ふわふわに毛を逆立てている犬神は、物音一つしない深閑(しんかん)な空間に身震する。



 あの百を超える大行列が、館へ如何(いか)にして収まり、その行方に疑問を抱くのはネイも同感である。が、ぐんぐんと娘の後を付ける黒桜丸の背に、恐怖や迷いは見当たらなかった。



 廊下は(ようや)く突き当たり、金をあしらった(きら)びやかな(ふすま)の前で、娘は足を止める。



瓢羨 (ひょうぜん)さま。 客人(まろうど)様ですにやぁ」



 一声掛けるが、返事を待たずに娘は襖を引き、足を踏み入れずとも中の人物は廊下から明け()けに見えた。


しかし、十六畳間の広々とした室に(くつろ)ぐ男は、肘掛(ひじか)けにだらりと寄り掛かる姿勢を改める事はなかった。



 論じるまでもなく、この男も妖異(ようい)(たぐ)いなのだろうが、一見した限りでは華美(かび)な装いを好む若者である。


眼の痛くなる色味と柄物(がらもの)を幾重にも着重ね、蜘糸(くものい)のように細い長髪は、(ころも)文様(もんよう)を透かし見せながら(たたみ)にまで垂れ広がっている。一纏(ひとまと)めにされたその髪は身の(たけ)を超え、歩行を阻害するであろう重々しい衣装に身を包み、上座(かみざ)に居座る男の姿は口を()かぬ 飾物 (かざりもの)のようだった。



「わしに目通ろうなどと何用だ。 この忙しい晦日(みそか)に」


 口先とは矛盾(むじゅん)して、男はゆったりと朱盃(さかずき)の酒を飲み、不適な笑みを向けてきた。



 一重瞼(ひとえまぶた)(べに)(はじ)き、際立(きわだ)つ夕日色の瞳を一度覗けば、すべてを見透かされるような――内を暴かれる予感がする。





©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ