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盲目の剣豪篇、連載中 / 落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
江戸跋渉篇 | 第五章 百鬼夜行〈前半〉

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五章 二十六丁 先つ夜行日



 まだ物遠いが、どんちゃんと祭囃子(まつりばやし)を演奏する行列が此方(こちら)へ向かって来る。


 それらはかなりの数で、(ふえ)(こと)などを好き勝手に(そう)するゆえに、随分(ずいぶん)ひょうきんな曲調になっている。しかし、自由気ままにしては調和が取れ、所々別の調(しら)べが混じるがそれが(かえ)って愉楽(ゆらく)を引き立てていた。



 市場の人々はこんな時期に(かぜ)神送(かみおく)りか、と何気なく行列に目を向けた。

――瞬間、顔を引き()らせる。



 楽器に肢体(したい)が生え、自らを(かな)でながら歩く様に驚愕(きょうがく)し、加えて妖怪の大群が間近に迫るとあれば、逃げ出す者すら現れた。


おもちゃ屋の店主はすでに品物を引き上げて姿を消しており、一瞬の間にあれほどの商品をどうやって片付けたのかは不明であった。



 間が悪いことに、列の先頭を行く妖怪は(ほこ)を担いでおり、子供ならば一口で呑み込んでしまうような大口をもっていた。


(ナマズ)の様な容姿と口髭(くちひげ)を生やすこの妖怪がまず目に飛び込んだのは、(いささ)か強烈な印象を与えただろう。その(あやかし)は肌が青緑で(ふんどし)姿ではあるが、頭部にはきちんと(かんむり)を付け、曲に合わせて大きな身体を上下に揺らして歩む姿に獰猛(どうもう)さはなく、(むし) 愛嬌 (あいきょう)があった。



 妖怪達は、動物や魚などに似た姿をしており、石灯籠(いしとうろう)(ゆみ)、果てには鍋すら四肢をもっていた。

物に魂が宿ったその付喪神(つくもがみ)たちは歩行が遅いが、順序を守ってそれらを追い抜くものはおらず。()り歩く者達は楽しそうな笑い声を響かせながら、ばらばらに列を乱し、寄り道を繰り返しては市場を行進してゆく。

 


 百鬼夜行(ひゃっきやこう)を目にして、もはや諦めた様子で市場に(とど)まる人々は意外にも多く、出遭えば命を落とすという伝承を信ずるというより、妖怪達の迫力に圧倒されて足が(すく)んでいるようだった。



 真っ赤な肌をもつ妖は、そうした人々に御弊(ごへい)紙垂(しで)を振り回し、めでたやーと祝福を送った。が、牙を剥き出しながら屈託のない笑みを浮べる姿に怯えた(わらべ)が、親へしがみついて泣き叫んだ。


子供を大泣きさせ、雷に打たれた様な衝撃を受ける妖怪は、長い鼻先をわなわなと揺らし、両耳を塞いで列へ逃げ去った。



 その後ろを、旅装束を()した()まし顔の川獺(カワウソ)が二足歩行で続き。

更に後ろを、頭からすっぽり長布を被った妖怪が、鋭利な爪の手足と毛深い尾を布端(ぬのはし)から覗かせて行き、それに(おく)することなく首輪を付けた三毛猫がひらひらと動く布へじゃれついていた。




 五十を超えるほどの妖怪を見送ったが、御鈴姫(みすず)と似た鬼は見掛けず、角があろうと顔が異常に大きく手足が短いなど、人間と近い容姿をもつ者はいなかった。


 時折、御鈴姫の存在に気が付く妖怪もおり、姿を見るやおっ(たま)げ、大急ぎで列を抜け出す。そして、音が鳴るほど掌を(こす)り合わせ拝み倒すと、列へ戻るを繰り返した。


 その様子に御鈴姫への敬愛(けいあい)を感じたが、去り際に腕に抱える食べ物を一つずつ持ち帰る姿を目にしては、(うやま)いか泥棒か、どちらが真意なのか定かでない。


やめろ盗むなと、犬神は軟弱に見える妖怪相手にだけ、ネイの肩口(かたぐち)から強気に責める。くすねられた当人は両手が空になっても、奇天烈(きてれつ)な妖怪の動きに夢中であった。



 御鈴姫以外にも盗難に遭っている出店は多々あり、(わら)で全身を着飾った妖怪は、田楽屋(でんがくや)味噌(みそ)を素手で掴んでうんうんと(うな)り食い。


妖怪達が、屋台の商品を当たり前のように摘まみ食うのを、(とが)める勇気ある者はおらず。出店の中でも、とりわけ餌食(えじき)となっているのが餅屋(もちや)であった。



 妖怪達は通りすがりに餅を取っては歩き食べ、餅屋は目の前で売り物を盗られているが、行列が過ぎ去るまで両手を擦り合わせて()えている。


「か…かたしはや~っ! えかせにくりにぃ、くめるさけぇえ……! てえひ…あしえひぃ~われえひにけりぃぃ~~っ!!」


 自分は足元も覚束(おぼつか)ぬ酔っ払いだという厄を退ける呪文を唱えながら、餅屋は両目を閉じて一心不乱(いっしんふらん)に繰り返す。が、妖怪は眼中にない様子で餅を盗んでいった。



 悪事を働いてはいるが、人に危害を加える妖怪がいない事に安堵(あんど)していると、ふと指先がネイの(あご)を撫でた。


 自身の三倍はある巨顔の女が、(そで)でお歯黒(はぐろ)を隠しながら、豊満な胸元をちらりと見せ付けてくる。

ネイが冷静に首を振って断れば、女は()んだまま、いじわるぅと言いたげに列へ帰っていった。


 妖怪にすら人外に間違われている事を自覚しながら、足元をこそこそと通り抜ける金髪の河童(カッパ)に、不覚にも親しみを覚えてしまった。

だが無情にも、河童は両手に高々と、奪ったきなこ餅を掲げていた。




©️2025 嵬動新九

いつも作品をご覧いただきまして有難う御座います!

遅くなりましたが、ご評価、ブックマーク賜りまして、大変嬉しいです! 誠に有難う御座います! 活力になりました(^^)



風の神送りとは

流行病や風邪は「風の神」の仕業だと、昔は思われていたそうです。

藁や竹で人形を作り、そこに風の神を乗り移らせて、「風の神送ろ」と囃し立てながら町を練り歩くらしいです。最後に川へ流して、疫病退散となったそうです。

うーん…、切実な思いが込められた風習ですね。


それに似せた「風の神払い」という物乞いもいたそうで、流行病がくると太鼓とお面を装備して、お恵みをくれるまで人家の前で騒ぎ立てた方もいたそうな……(^^;) なんという…悪知恵を……あかんっ。



※盗作・転載・無断使用厳禁

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