手紙6 大賢者→本棚
どうも、大賢者ミーファです。お手紙読ませてもらったわ。最初は本当に頭にきたの。この手紙を握りしめて不名誉なんてどうでもいいから、その「家具の朝日」という会社ごと叩き潰してやろうかと思ったわ。
でもね。そのあと庭に咲く花が見える2階のテラスで紅茶を飲みながら思ったの。
そういえば私も最初は絶対に賢者になる、と言って両親の下から飛び出し、師匠の下で育って。その師匠とも喧嘩別れして、魔王軍と戦い始めて……。
色んな事があったなぁ~、というか……私の行動に少し似てるかもって。
そうするとね。怒りよりも、自然と笑みがこぼれてきてね。私、誰もいない自宅のテラスで大笑いしていたの。不気味でしょ? 偶然通りかかった奥地の村に住む人に心配される程だったわ。
それに今回のことでね。少なくとも嬉しかった事もあったのよ。それは貴方が自分で考え、金を儲けて、そして私を法律によって縛るという選択をするほど“生命としてそこに存在してる”って思えたことよ。
だって素敵じゃない?
私はただ貴方達の体を動けるようにして、自発的に行動できるようにしただけなのよ。生命を作った、なんて気はなかったわ。今回の騒ぎだって、騒ぎが大きくなって他の人の迷惑になるかもしれない、という理由で家具達を回収してまわっていただけだし。だから「生物」であろうとする貴方の姿勢に感銘をうけたわ。そしてそれは、生命を創造する、という領域まで私の魔術が進歩しているのだという証ともとれたわ。
だから次の条件を貴方が飲んでくれたら、私は貴方を見逃すわ。
『私に貴方よりも立派な本棚をちょうだい』
あ、ちゃんと郵送してね。
ただで見逃してやろうとも思ったけど、やはり本棚がないのは何かと不便なのよ。だから一番いい本棚をちょうだい。今は社長なんでしょう? それぐらい融通を効かせなさい。
ああ、それと……名前はまだ無いのかしら? 本棚もセカンドバックのどっちも。あればいいけど、もしも無いなら創造主として最後の仕事をしようと思うの。
知ってた? 名前をつけるという行為は子に対し親が最初にする仕事なのよ。
アダム。
それがあなたの名前。セカンドバックは、イヴ、と名乗りなさい。
名前の意味は自分で調べなさい。
ヒントはこことは違う世界の神話からとった名前よ。
ではそろそろ終わりにするわね。本当は色々不満もあるけど、まぁいいわ。それ以上に今は喜びが勝っているのだから。
追伸:あの馬鹿が痴漢で王国の憲兵に捕まっている、と聞きました。出来れば身元引受人になってあげてください。ではでは。