二日目
一月三十日。晴れ。
ふと読み返した時に「なんだ」と思ってしまわないように、先に結論から書いておこう。
今日は彼に出会えなかった。
昨日に続いて麗しいほどに澄み渡った青空だった。鳥たちは美しい歌声を響かせている。
そういえば鳥と言えば、窓枠と屋根の間のあたりに冬鳥が巣を作ったようだ。ちょうど太陽光を部屋に取り込むために設置している鏡の反射光が直撃する場所なのだが、観察している限りではおそらく、彼らにとってはそうした方が生きやすいのだろう。わたしがこうしてひとりを選んだのと、何も変わらない。
五年も過ごしていると、この辺りに住む色んな生物たちにも愛着が湧くもので、彼らのひとつひとつの行動が何かにつけて楽しい。動植物どちらをとっても、わたしと同じ生命体であることを強く強く感じさせてくれる。
人混みの中に紛れ込んで暮らしていた頃には考えもしなかった、当たり前の営みに自らの意識が向くというのは、少しむず痒くもあるけれど、どことなく嬉しいもののようだ。
また昨日に続いて日記にならないことを書いてしまった。まぁ誰に見せるでもないのだから、問題ないだろうが。
太陽が空の真上に昇る時間、昨日と同じように、防寒をしっかりと施して家を出た。俄かに吹いた寒風が身を凍らせてしまいそうだった。
乾いた冬の匂いを掻き分けて、わたしは鍾乳洞へと向かった。
『これはただの散歩ではないのだ』
今までとは違う目的でその静けさの入り口をくぐると考えると、少しだけそわそわした。
昨日彼と出会った、小さく開けた洞窟の中の一部屋で、ひとつ自分の心臓の鼓動が大きくなったのを感じた。
辺りをゆっくりと見渡して、彼の姿を探した。右を見て、左を見て、もう一度右を見て。もう少し奥へと進んでみて、また辺りを見回す。進む、探す、進む、探す………
どれほどの時間それを繰り返していたのかはわからないが、どうやらそれは短いものではなかったようで、諦めて鍾乳洞を出た頃には世界は橙色に輝いていた。
残念。
そんな風に思ったのは、いつぶりだろう。昨日ものの十分ほど、いや、そんなにもなかったかもしれない程度の時間、言葉を交わしただけの彼の存在が、どうにも気にかかって仕方がない。
彼は無事に生きているだろうか? 寒い思いなどしていないだろうか?
わたしの心は、これを書いている今でさえも、彼のことでいっぱいだ。
どうして彼のことがこんなにも気になるのだろう。この疑問に答えが添えられる日は、果たして来るのだろうか。
考えても仕方がないから今日はもう、声の出し方を忘れてしまわないように、と日課になっている歌でも歌って眠るとしよう。何となく、けれどどうしようもなく、口にしたい言葉があるのだ。
明日は彼に会えると信じて。




