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あやかしが見えちゃう令嬢は婚約者の後ろの人が好き。なお、婚約者本体は嫌い。  作者: ミズアサギ


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12. 忘れていた接点

 

「ごめんなさい、急に」


 倒れていたシルヴィを助けてから三日後の昼下がり。アニエスとキリアンは、揃ってシルヴィに呼び出されていた。

 前と同じシルヴィの部屋に通されたアニエスは、シルヴィの顔色が前より少し良くなっていることに気がついた。


「眠れるようになった?」


 アニエスの問いに、シルヴィは困ったように首を横に振った。


「ううん、相変わらず。でもね、食事は少しでも必ずとるようにしているの」

「顔色がいいのはそのおかげね。良かったわ」

「うん。アニエスの頭と同じ軽さは嫌だもの」


 いたずらっぽく笑うシルヴィに、アニエスは怒る気が起きない。それほど、シルヴィのわずかな回復が嬉しいのだ。キリアンはお見舞いの花をシルヴィの侍女に渡す。シルヴィは二人をテーブルセットへ案内した。


「今日もいる……。あ、シルヴィ。今日はどうしたの?」


 アニエスの質問に、シルヴィはそうそうと畏まった。


「私、大通りの教会で倒れていたのでしょう? 何度考えても、なぜそこにいたのかわからないの。ただでさえ眠れないのに、それを考えるとますます眠れなくなっちゃって」


 明るく言うシルヴィに、アニエスとキリアンは顔を見合わせた。


「そうね。私もびっくりしたわよ。うちもシルヴィの家も、あの教会と縁なんてないでしょう?」


 アニエスが言うと、シルヴィは驚きの表情を浮かべた。


「アニエスは覚えていないの?」

「何が?」

「まだ小さな子供の頃だけど、お母様たちが大通りでお買い物されている間、私とアニエスは教会の庭で遊んでいたのよ」

「そうだったっけ?」


 シルヴィがため息を吐く。アニエスの隣ではキリアンが「やっぱり軽い」と呟いた。


「あの教会には誰でも入れる庭があって。私たちが騒ぐからって侍女が連れて行ってくれて」

「そうだったっけ?」


 アニエスは本当に思い出せないでいた。それなら、自分も教会の思い出があるはずだ。頑張って思い出そうとしているアニエスを見て、シルヴィは意外なことを思い出した。


「アニエスは覚えていなくて当然かも。あなた、初めて教会の庭で遊んだ時に木に登ろうとして枝を折っちゃったのよ。そこからアニエスがいる時は、教会で遊べなくなっちゃったわ」

「教会に出入り禁止か!」


 大笑いするキリアンの隣で、アニエスは愕然とした。まさか、そんな過去があったとは。


「それからしばらくは、私一人で遊んでいたわ。侍女と落ち葉を拾ったりして。でも、ほんの短い期間だったと思う。私、お買い物に興味を持つのが割と早くて、それからはずっとお母様についていたし」


 シルヴィは懐かしそうに笑った。そんなシルヴィを、今日もあの騎士はベッドの隣から黙って見ている。部屋はこの間ほど暗くはないが、やはり薄暗くはある。暗いのが嫌いなシルヴィは、まだ完全に元の状態を取り戻していないのだろう。

 アニエスは騎士から目を逸らすと、シルヴィに質問をした。


「話は変わるけれど。シルヴィには、騎士の知り合いはいる?」

「騎士? ジュリアのお家は騎士の家系よね」

「ううん。国内の騎士じゃなくて、隣国の騎士」

「隣国?」


 シルヴィは首を傾げた。よほどのことがないと、伯爵家の令嬢が隣国に雇われた騎士なんかと知り合う機会なんてないだろう。シルヴィの表情を見て、アニエスは推理が外れたとがっかりする。


「あ、そういえば、隣国かどうかは知らないけれど……」


 シルヴィの言葉に、アニエスはキリアンの後ろの青年と顔を見合わせた。


「教会で思い出したことがあるわ。一人で遊んでいる時にね、一人の騎士が話し掛けてきたの」

「それで!?」


 アニエスは身を乗り出して続きを促した。


「自分の代わりに手紙を出してくれないかって。確かその人、時間がないだとか急ぐとか言っていたわね。侍女が引き受けたんだけど」

「それだっ!」


 一人興奮するアニエスに、キリアンが横から口を挟んだ。


「お前、この間から騎士とか紋章とか何なんだ?」


 アニエスがキリアンを黙らせようとした時、キリアンの後ろから青年が慌てた様子で手を振っているのが視界に入った。アニエスが騎士を見ると、今まで微動だにしなかった騎士がわずかに震え、その瞳からは涙が流れていた。

 アニエスと青年は頷き合った。


「ねえ。私もその教会の庭、見てみたいわ。折っちゃった枝にも謝りたい」

「枝に? 変なの」


 シルヴィはくすくすと笑う。


「シルヴィ嬢の体調は大丈夫なのか? お前は転んでも怪我しそうにないけど」


 キリアンがシルヴィを心配しながらアニエスを腐す。アニエスはキリアンを肘で突いた。


「馬車で行くなら大丈夫だと思う。あなたたちと一緒なら、お母様もいいとおっしゃるわ」


 シルヴィの体力を考えると日を改めた方がいいのだろう。しかし、これ以上シルヴィの近くにあの騎士を置いておくことが、アニエスには不安で仕方がなかった。


「今からさっと行って、さっと帰ってきましょう。少しお散歩した方が、夜も眠れるかもしれないし」


 少し考えてからシルヴィは頷いた。

 シルヴィの母親から了承を得た三人は、馬車に乗り込むとあの教会へと向かった。



 

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