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三話 二周目の魔法少女

 男の子たちを撒き、路地裏に隠れてようやく一息つく。


 村の中央から離れたからか、祭りの騒ぎは小さく聞こえた。いくら魔法少女になれてテンションがあがっているとはいえ、引きこもりにとって圧倒的な陽のオーラは体に毒だ。座り込むと、一気に体の疲れが押し寄せてくる。


 今日はいろんなことがあったなぁ……


 ゲームのラスボス戦に感動して、フィギュアが落下してきて死亡して、なんか魔法少女に転生していて……


 ぶっちゃけキャパオーバーです。超常現象に理解のあるオタクでも脳がパンクしそう。


 とはいえ……


「ふひひ、魔法少女だ」


 一日をミューズちゃんとして過ごして実感する。

 私は今、完全無欠の魔法少女だ。しかも超の付くほどの美少女。ビーナスもびっくり。


 これから何をしよう。やりたいこと、試したいことはたくさんあった。


 まず敗北Hがどんな味なのかを知りたい。そこらへんのモンスターに適当に負けてぬるぬるの触手に陵辱されてみようか。私の中の被虐精神が早く試してみろよとうずうずしている。


 他の魔法少女と百合エッチもしてみたい。純愛百合もいいけどあえての逆を行くヤンデレ系陵辱百合も捨てがたい。反対に魔法少女に犯されてみたいという欲求もある。


 そうだ、美少女になった今の私ならロリの一人や二人誘拐しても許されるのでは?

 ほら、魔法少女の弟子にするとか何とか言って。かわいい子を目一杯愛でるのもいいかもしれない。


 せっかく美少女になったんだから、現実世界ではあきらめていたかわいい服をふんだんに着るってのもアリだよね。チクチクとコスプレ衣装を作っても、豚が着るものなんかなかったし。


 やりたいことが多すぎて何から手をつければいいのやら。


 世界は平和になったんだし、ゆっくり一つずつやっていけば……


『――敵襲! 敵襲!』


 その時、村のスピーカーから警報が聞こえた。


 何事かと思い意識を妄想から現実へと引き戻す。すると、視界の端にあったメニュー画面がすっと目の前にスライドした。


《イベント発生:魔王復活?》


 ……なにそれ!


「ミューズ! ヤツらがやってきたよ!」


 どこからともなく謎の精霊エニグマが現れ、問題発生時のお決まりのセリフを言う。


「なになに何なの! 何がどうなってるの!」

「モンスターが村にやってきたんだ。いま、村の戦士たちが応戦してる!」

「魔王は倒したんでしょ?」


 モンスターは魔王の呪いによって狂暴化している。魔王が死ねば世界に平和が訪れる、という設定だったはずだ。


「わからない。なんでかわからないけど、やつらが暴走してるんだ」

「シナリオ展開雑になってない?」


 二周目のシナリオは別のライターが担当しているのかな?


 一周目と比較されて批評空間あたりででぼろくそに言われがちなやつ。


 私はエロゲの攻略記事は見ないし、最速攻略をしてるから評判も聞かない。二周目のシナリオがどうなっているのか見当もつかなかった。


 あの素晴らしい締め方をしたのに続きを描く必要なんてある? くらいに思ってる。


「とにかく、早く助けに行こう! 変身するよ!」

「――そ、そうか。わかったよ」


 変身!

 ついにこの時が!


 スカートの中に隠してあったマジカルステッキを握る。使い方は直感的にわかった。


 心臓が高鳴っていくのがわかる。この瞬間を何度も何度も妄想し、三十種類くらいの決め台詞を考えていたけれど、最初なんだから原作の流れに従うべきだろう。女児向けアニメとは違い、エロゲの魔法少女ものはあまり変身シーンへのこだわりが少ないのは残念だけど……


 ステッキを天に掲げる。


「いくよ、変身――‼」


 瞬間、光が周囲を包み込んだ。固〇結界みたいな空間が形成されていく。


 光は全身を包み込み、私は服をはぎ取られる。ちなみに女児向けアニメとは違うので、ちゃんと乳首も露出されていた。


 ステッキの先から七色の糸が無数にあふれ出し、私のつま先から順に魔法少女のドレスを編んでいく。ブーツからソックス、パンツとブラジャー(エロゲだからしっかり描写される)。そして、フリルがたっぷりついたピンクのドレス。


 美少女さを三倍引き立てるように、髪もお尻くらいまで伸びる。宝石の付いた髪留めで束ね、両手首にはシュシュがつく。


 キラリン――


「輝く女神がみんなを包む! 魔法少女ミューズ!」


 決めポーズをして、決めゼリフ。


 キラキラの演出とともに派手なSEが背中でなった。


 感無量……です……


 ちなみに前半の口上は原作にはなくて、私が勝手につけた。ずっと考えていたセリフの一つが無意識のうちにでてきちゃった。


 なんかもう満足。ここで死んでもいいまである。


「……そのセリフはなんだい?」

「急ごうエニグマ。みんなが戦ってる」


 若干白けた目で見られた気がしたけど、今の私は無敵だった。



 × × ×



 飛行魔法で村に戻ると、モンスターが暴れていた。

 守衛さんの活躍でなんとか内部への侵入は防げているけど、高波のようなモンスターの群れに防衛線は決壊寸前である。


 ちなみに、魔法は結構簡単に使えた。メニュー画面から魔法のタブを開いてそこから起動してもいいし、ステッキに力を込めて呪文を唱えてもいい。数百時間やりこんだだけあって有用な魔法すべて頭の中に入っている。


「ミューズちゃんだ……魔法少女がきたぞーーーーーーーッ!」


 逃げ惑う群衆の中から歓声が聞こえる。希望のまなざしを一身に向けられた。


 期待の目だ……


 私の人生でここまで注目を浴びることはなかったのでいつもなら死ぬほど緊張するはずなのに、心臓は落ち着いていた。今の私はミューズちゃんに転生して、さらに魔法少女へ変身している。二段階の変身で自分じゃない誰かになってしまったのだろうか。


「よ~し、魔法少女ミューズ、いっくよ~!」


 モンスターは村の入り口付近でまとまっている。最上級の攻撃魔法で殲滅すれば……


「<グランドファイア>……」


 ……まって、これ村人にも被害が出ない?


 コマンド式RPGなら殲滅魔法を唱えても敵にしか当たらない。けど、現実でやるなら味方にもあたる気がする。


 ここは始まりの村なのでモンスターのレベルも低い。飛べる敵もいないので飛行魔法で上から一方的に攻撃するのが安全だけど、誤射のリスクを負ってまでやる必要はないか。攻撃範囲の狭い魔法で十分だ。


 私はモンスターの集団へと突撃し、威力と射程の短いただのファイアーを選択する。


「<ファイア>!」


 ……けれど、私は忘れていた。


 最低級の魔法でもレベルカンストの魔力で打ったらどうなるのか。


 ステッキから放たれた火の玉はモンスターの群れへと向かい……隕石でも落ちたかのような熱と衝撃をまき散らした。


「ちょっ⁉」


 あ~れ~、と衛兵までも吹き飛ばされる。幸い位置が離れていたからか致命傷は負っていないけど、衝撃で地面に叩きつけられてかなり痛そうだ。


 村の入り口付近には大きなクレーターができており、周囲はちょっとした火事になっている。モンスターは七割がた消滅したが、それ以上に被害が大きかった。


 ご、ごめんなさい……


「落ち着いてミューズ! そんな威力を上げる必要はないよ!」


 エニグマもびっくりしていた。


 今まで魔法なんて使ったことがないので、魔力の調節なんてできるわけがない。魔法に頼らず戦ったほうがよさそうだ。


 このゲームの物理攻撃は弱いけど、これだけレベル差があれば問題ないだろう。ステッキを近接戦闘モードに切り替えて、モンスターの群れへ突撃する。


「成敗!」


 空から接近して、豚型モンスターを”ポコッ”くらいの感覚で軽く殴ったはずだった。


 実際の効果音は”ぐしゃあ”だった。肉が破裂し、骨が砕けるような感触である。


 グロッ! そしてキモッ!


 このゲームは作りこみがすごくて、どんな雑魚敵であろうと敗北すれば個別にHシーンが用意されている。陵辱映えするように気持ち悪いデザインになっていた。


 私はモンスター集団の中心に着地して、ステッキを刀みたいに構える。そこからは無我夢中に物理攻撃モードのステッキを振り回した。ミューズちゃんの身体は運動神経がいいのか、自分の脳内で描いた通りの攻撃を思うがままにできた。


 戦闘技術がこの身体に染みついているのだろうか。私の身体がこんなに素早く動くのは違和感がある。


 無双ゲームみたいにバッタバッタと切り倒していくと、余裕の生まれた脳内にふと邪な考えが生まれた。


 ――ここで負けたら、村人の前で陵辱イベントがおきるのかな?


 ゲームの設定として、モンスターは魔法少女や村の女性を陵辱しようと襲い掛かってくる。敗北したらHシーンに突入した後に魔王城に連れ去られ、肉便器となるらしい。


 さっき口説きに来たたくさんの男の子の前で、感謝してくれたおじさんたちの前で、穴という穴を責められアクメ顔で潮を吹くのかな?


 …………


 ……………………なるほど?


 そうか。そうかもなぁ。この気持ち悪いモンスターたちに襲われて無様な姿をさらしちゃうのかな~。


 いや、負けたいわけじゃないよ?

 魔法少女には村人を守るって使命があるんだもん。負けたら村人の危険が危なくてデンジャラスだよ。


 でもさ。私ってこれが人生最初の戦闘だし、うっかり負けちゃうことだってあるかもしれないじゃん?


「あ~っと、足がすべっちゃったな~」


 豚型モンスターに切りかかろうとする途中、私はぬかるんだ(?)地面に足を滑らせて、すってんころりんした。


 運動音痴だからな~こういうミスもあるよな~。


 二足歩行の豚型モンスターがチャンスとばかりに目を光らせる。股間にはでっかいイチモツがパンツの下で膨らんでいた。


 あ~私はどうなっちゃうの~。


 モンスターが突進してくる。太い腕が振り上げられ、無防備な私の背中に振り下ろされて……


……<全反射>が発動した。


「FUGOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


 豚さんの悲鳴が響く。しりもちをついてバタバタと悶えていた。


「…………」


 気まずいながらも、これ以上はわざとらしさが過ぎるので仕方なく立ち上がる。


 ……チートスキルでしょ!


 私はなんとか無表情を保ったまま残ったモンスターを物理攻撃で殲滅した。


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