四話 陵辱願望の魔法少女
「すげぇ……ッ! これが魔法少女……ッ!」
モンスターを倒して疲労感に襲われていると、周囲から歓声があがった。どうやら襲撃してきたやつらを全部倒したらしい。遠くからこちらを覗いていた子供たちが笑顔で駆け寄ってくる。
私が笑顔を作って手を振ると、さらに歓声は大きくなった。魔法少女はいつだって子供たちの笑顔にこたえるものだからね……
……いや、別にガッカリしてないけどね?
せっかくの敗北Hチャンスを逃して落ち込んでるわけじゃないけどね?
魔法少女にとって何より大切なのはみんなの笑顔だし。私がそうだったように、魔法少女のリョナシーンは少年少女の性癖を歪めるから見せられないし。
誰にも怪我がなくてよかったよ。うん。
避難指示をしていた村長さんが朗らかな笑顔でやってくる。
「ありがとうミューズ。まさかまだモンスターが襲ってくるとは」
「村長さんもお疲れ様です」
この人、一周目のストーリーでもモンスターに襲われる一般人代表だったから苦労人だ。シナリオライターは村長さんに恨みでもあるのかと思うほど巻き込まれ体質である。
「魔王を倒したばかりだというのにな。迷惑をかける」
「二周目のストーリーが始まったんでしょうね……」
「二周目?」
「こちらの話です」
モンスターは魔王によって製造されている。狂暴なモンスターがでてくるのは、新たなラスボスが出現した証拠だ。
「足を滑らせたときはどうなるかと思ったが、さすがは魔王を倒した魔法少女だな」
「…………あはは」
気まずい。
愛想笑いが自然と出てきた。
ゲームの設定では、モンスターに襲われた女性は魔王城に連れ去られて肉便器となり、男性は種付け馬になるらしい。もし私があのまま敗北していたら村長さんがアレなことになったのかなぁと想像すると罪悪感でいっぱいになった。
「もはや感謝してもしきれない。これ以上、わたしたちにできるお礼などないかもしれんが……」
「いえ、お礼は結構です」
首を振る。感謝されるのも気まずいのにさあ。
「いやしかし、それでは我々の気持ちが」
「魔法少女として当然の使命を果たしただけです。礼を言われるようなことなど何一つしていません」
「な、なんと……命がけで戦っておきながら当然のことと……?」
周囲から「おぉ」と声が上がる。受け答えをミスったからか、称賛のまなざしがいくつも向いていた。
違う……違うんですよ……
「なんと高潔なことか。しかしそれではわたしたちの気が収まらん。顔をたてるためにも何か――」
「ごめんなさい! 何も受け取れないんです~!」
私は走り出した。後ろで村長が「待ってくれ!」と叫んでいる。
でもムリ! 元引きこもりには気まずいって!
× × ×
自分の部屋に戻り、変身を解除して床に座り込む。
本編でミューズちゃんが落ち込んだときもこのポーズをしていた。特に何も考えず自然とそうなっていたのだが、前世の私だったら布団にくるまって五感を塞いでいたので、精神性がミューズちゃんに近づいているのかもしれない。
「……さっきから何をしているんだい?」
エニグマがジト目で言う。
「ほっといて。罪悪感でいっぱいなの」
「何をそんなに? 復活してからのミューズはちょっと変だよ」
正解。転生したしね。
別に、村人が襲われようと私には関係ない。みんなが敗北して魔王城に連行されようと、レベルカンスト状態の私一人だけなら脱出できる。真の意味でゲームオーバーにはならないだろう。快楽堕ちならそれはハッピーエンドだし。
でもさあ。いざ村人が危ないってなったら、罪悪感を抱いてしまう。鬱ゲーは好きだけど、目の前で色々されるのはなんか嫌だった。
陵辱されるときは村人に迷惑がかからないようにしようね。
「と、いうか」
せっかくの陵辱チャンスだったのに、肝心なところで<全反射>が発動してしまった。なにこのチートスキル。これを取得したのは誰なの。
たしかゲームでは敗北エンドに行けなくなるのを阻止するため、チートスキルをオフにできる設定があったはず。視界の端にあるタブを拡大して色々と設定を探してみる。
「……ない」
けれど、いくら探しても常時発動のスキルを解除する設定がない。
あれゲームの時はどうしてたっけ?
記憶を呼び起こす。たしか、マイ〇ラみたいにオプション画面に難易度設定があって、そこにチートスキルオフのボタンがあったような。
……オプション画面ってどうやって開くんだ?
同人ゲームだけあってUIは使いにくい。たしか、タイトル画面からしか開けなかったはずだ。目の前のタブを隅から隅まで見渡してみても、タイトルに戻るボタンなんてない。
詰んだかこれ。<全反射>をオフにできないか。
「ねえエニグマ。<全反射>ってオフにできるっけ?」
「……? する必要がないだろう? それはミューズの身を守るものだ」
「色々と不便じゃん」
「例えば?」
「…………ほら、ダメージを受けて根性を鍛えたい時とか」
「今時そんなトレーニングは流行らないし、魔法少女にそんなことさせられないよ。そこでモンスターに遭遇して敗北したらどうするんだ」
……ぐう正論!
「全反射を貫通する敵が出てきたとき、ダメージに慣れてなかったらダメじゃない? 痛くて泣いちゃうよ?」
「その時はボクが痛覚カット魔法をかけるから大丈夫だよ」
……ぐう有能!
ちなみに、この魔法を応用した痛覚遮断落とし穴が世界のどこかには存在したりする。今の私じゃ落っこちても触手攻撃を全部跳ね返すけど。
もしかして今の私って物理的に敗北が不可能な状態なのか?
確かめてみよう。
私はすっと立ち上がる。
「エニグマ、パトロールに行くよ」
「急にやる気になったね」
「よく考えたら、まだ周囲にモンスターが隠れているかもしれない。魔法少女として見過ごせないよ」
「……なんか情緒が不安定じゃないか?」
訝しむエニグマを尻目に私は変身し、窓から飛行魔法で飛び出して村の周囲を散策する。やはり二周目のシナリオが始まったからか、村から少し離れた場所にはぽつぽつとモンスターが湧いていた。
とりあえず、前回とは違うゴブリン型モンスターの目の前に着地する。
「ピギャァ――‼」
ゴブリンは私を見つけると目が赤くなり戦闘態勢に入る。右手に棍棒を持ち襲い掛かってきた。
私は回避せずに真正面から受ける。
……やっぱり<全反射>が発動し、ゴブリンだけが吹き飛ばされた。
「どうしたんだいミューズ。戦場でそんなぼーっとするなんて」
「ちょっと試したいことがあるの」
真正面からの攻撃は自動で反射してしまう。ならば不意打ち判定が発生する後ろからの攻撃ならば……
ゴブリンに背を向けて攻撃を食らってみる。やっぱり反射した。
そういえば、さっき転んで攻撃された時も背中だったから関係ないんだろう。
他にも横からや自傷など様々なことを試してみたが、体力が減ることはなかった。自分の攻撃を何度も食らったゴブリンが先に力尽きてしまう。タブにリザルト画面が現れ、カンストしたレベルに意味のない経験値が振り込まれる。
結局のところ。
何の成果も、得られませんでした。
もしかして本当に今の私は敗北できない……
せっかく転生したのに、陵辱Hはできないの……?
……いや、ダメだ。
折れそうになる心を叱咤する。せっかくの大チャンスなんだ。こんなところでくじけていられない。
日本には数多の魔法少女作品があれど、そのすべてに共通していることがある。
魔法少女は諦めない。どんな絶望的な状況になっても、立ち上がるのが輝く女の子。
私は、絶対に、敗北Hを諦めない!
心に固く誓ったのであった。




