二話 エピローグの魔法少女
異世界転生の元祖は二十年以上前からずっと続いている一大ジャンルだ。当然、私もたくさんの作品に触れている。
だから理解は早かった。
なるほど、私は死亡してゲームの中に転生したらしい。
直前まで触っていたゲーム世界に転生するのはあるあるだし、ぶっちゃけオタク……特に私みたいな引きこもり系は現実と物語の区別が曖昧なもんだから、そこまで戸惑いはない。
というより、戸惑う暇なんてない。
すべてを理解した瞬間、私は歓喜に打ち震えた。
「私が……魔法少女ッ……‼」
目が覚めたのは、主人公ミューズの部屋だった。陵辱CGとともにゲームオーバーになるたびにここで復活するので何度も見たレイアウトである。急いでスカートの中を探ると変身アイテムであるステッキを見つけた。
小さいころ、何度おねだりしても変身ステッキを買ってもらえなかったのに、今となっては本物が手元にある。言葉に表せない感動でほろりと涙が流れてきた。
魔法少女になりたいなんて多分この世すべての女児の願いで、それがこじれて今の屈折した趣味になった私だ。十数年越しの悲願が現実となり、この世すべての事象に感謝し始めていた。
「――急に泣き出してどうしたのさ、ミューズ」
「わあっ!」
耳元で声が聞こえて思わず飛び跳ねる。
見ると、小型犬のような形をした生物がふわふわと宙に浮いていた。
ああ、そういえばこんなのもいたね……
魔法少女もののお約束、謎の精霊エニグマである。『ボクと契約して魔法少女になってよ!』のヤツだ。ゲームのお助けキャラである。
「なんでもないよ。ちょっと寝ぼけてたかも」
……声が高い!
自分の声に驚く。声優の声がでるのは不思議だった。
慣れない体をゆっくりと動かしてベッドから立ち上がり、部屋の隅にある姿見の前に立つ。自分のパジャマ姿が写った。
……顔がいい! あと身体細すぎ!
ミューズちゃんのキャラデザが公開された時からかわいいな~と思ってたけど、三次元として目の前にあると腰を抜かすほど整っている。なにこれ、すっぴんでこれ? まともな化粧水すらない世界観でこれ? 一番のチートスキルじゃない?
しかもスタイルは抜群である。1〇才なので(エロゲに18才未満は登場しません!)相応に胸はないが、パジャマの裾から見える肩と二の腕が細いこと白いこと……
現実世界の姿とは雲泥の差だ。
「……鏡の前で決め顔ばかりしてどうしたんだい。とうとうナルシズムに目覚めた?」
「失礼な」
自己愛というより、美しいものを愛さずにはいられない人間の性質なのに。
ちなみにこの精霊さん、なかなかにノンデリ属性もちである。
「今日も式典はあるんだし、早めに準備してよ」
「式典?」
「魔王討伐のだよ。まだ寝ぼけてる?」
…………。
あ~なるほど。
PCがブラックアウトしたからどうなったかわからなかったけど、魔王は死んだのね。
式典ってことはストーリーはエピローグかな。私も初見だからよくわかんないや。
エンディングを見逃したのは心残りだなぁ……
クローゼットを開くと、中には服がぎっしりと詰まっていた。驚くけどすぐに納得する。そうえいば、手に入れられる衣装はコンプリートしている。特定の衣装で敗北することでHシーンの差分を見れるってのもあるし、単純に着せ替えシステムが面白かったのだ。かわいい子にはかわいい衣装が似合う。かわいい衣装で陵辱されたらめちゃエロい。これ作画コストどうなってんだとツッコまれるほどフリルがついた衣装が好きです。
……そうか、私もかわいい魔法少女になったんだから、目一杯のおしゃれが必要なんだ。こんなにかわいい身体がダサファッションだなんてあってはならない。
クローゼットをにらみつけ、必死に組み合わせを考える。
「うんうん、女の子だねぇ」
エニグマがしたり顔で頷いているのが気に食わなかったけど。
× × ×
情報を整理しよう。
現実世界での私は死に、この世界に転生した。
では本当にここはあのゲームの世界なのか。
答えはイエス。なぜなら私の視界の端に、メニュー画面が見えていた。
タッチして開いてみると、自分のステータスが確認できた。レベルはカンスト、もちろん<全反射>のスキルまで解放されている。私のデータで間違いないだろう。
でも、中途半端なところでブラックアウトしたので現状がよくわかっていない。ストーリーはどこまで進んだのか。True endにたどり着けたのか。
情報収集が必要だったので、ゲームの方式に従って村人から色々な話を聞いていく。
二時間ほどの努力をざっくり要約すると、どうやら魔法少女は一度死んだらしい。
追い詰められた魔王が暴走し、ミューズとともに闇の底に沈んでいった。世界中が魔法少女の死を嘆いていたところ、想いの桜が魔法を発動し、ミューズの身体が復活したのだとか。
う~ん、ネタバレ。
私が復活してから今日でちょうど一週間。村の人は『復活祭』と名付け、毎日のように騒いでいる。「結局、男って騒ぎたいだけなのよねぇ」と居酒屋のおばちゃんがため息をついていたけど、その人もどこか嬉しそうだった。
私はPCの前でパンツを脱いでマウスをポチポチしてただけだけど、この世界に愛着がわいていたこともあり、話を聞くだけで心が温まった。王道なエピローグに弱いエロゲーマーなんです。
その後、私は壇上に担ぎ上げられ、色々とスピーチをさせられた。まあなんかいい感じのことを適当に言う。英雄補正&魔法少女かわいい補正が入ってるので何を言っても拍手で讃えられた。
「き、緊張したぁ~」
……とはいえ、引きこもって人とかかわってこなかったオタクには試練だった。
それでもある程度無難にこなせるあたり、転生してから性格が変わったような気がする。引きこもり時代は部屋の外に出るだけで精いっぱいだったのだから。
英雄ってのは大変なもので、挨拶が終わるころにはお昼を回っていた。やっとご飯にありつける~と屋台のいい匂いにひかれてみっともなくお腹をぐーぐー鳴らしていたら、今度は村の男の子たちが殺到してきた。
「ミューズさん、俺と屋台をめぐりませんか!」「抜け駆けすんなアホ! ミューズさんは俺と行きたいって言ってる!」「馬鹿言うな誰がお前らなんかと」「まあまて諸君。君たちでミューズちゃんと釣り合うはずがないだろう」
ミューズちゃんと同年代くらいの子が殺到してくる。
モテ期、襲来。
ま~気持ちはわかる。こんなにかわいい女の子が命を張って世界を救ったら、思春期の男の子が惚れるなって方が無理がある。私もミューズちゃんのHシーンを千回近くリピートしたわけで。
だけど……うん。
ここで少し私の性癖について語ろう。
蟲に犯されるのはいい。怪人とかモブおじに陵辱されるのもまあいい。百合は至高。通常の純愛ものでもかわいい女の子が前髪が長すぎる顔のない主人公といちゃらぶエッチしてるのも萌える。
でもそれはあくまで三人称視点で見ているから。触手もモブおじもヒロインを引き立たせるための道具でしかない。
自分が普通の男の子と付き合うとかエッチするとかは無理。
なので、私は走った。
「あっミューズさん逃げないで!」
レベルカンストの脚力で村の端っこまで逃げた。
私の物語に、主人公属性の男は不要なのだ。
陵辱系ならまた別だけどね!




