一話 ラストバトルの魔法少女
『あなたの思い通りなんてさせない……みんなの笑顔はわたしが守ってみせる!
――終わりにしましょう、全部!』
PC画面の向こうで、ピンク髪の魔法少女が叫ぶ。
長い旅の果て……プレイ時間にすると軽く五百時間を超えるくらいやりこんだ果てに、最終決戦が始まろうとしていた。
私は号泣していた。
長い旅の中で紡いだ仲間との絆。前世から続くラスボスとの因縁。無数の√でばらまかれた伏線が一気に回収され、一つの結末へと収束していくこの熱さ。
挿入歌としてオープニング曲の”聖戦”が流れる中で、コマンドを高速で入力していく。何百時間もやりこんだだけあってレベルはほぼカンストしており、戦闘というより虐殺に近い。けれどストーリーの熱さがすべてをどうでもよくしていた。
これ戯〇に影響を受けすぎだろ、とかそんなツッコミはしない。
十年以上前、私がまだ女児の心を持っていたころを思い出す。がんばれプ〇キュアと叫んだ頃を思い出す。
いつからだろう。魔法少女が触手でぐちゃぐちゃになるのを愉しむようになったのは。大量の蟲に穴という穴を犯されているサンプルCGを出すメーカーの作品を嬉々として予約するようになったのは……
あれ、シリーズが進むごとに癖が強くなっていくんだよなぁ……
とまれ、邪な考えを振り払って魔法少女を応援する。心の片隅にかすかに残る女児心が沸騰していくようだった。
システムは簡単なコマンドバトルだ。というより、昨今の斜陽産業化した商業エロゲ業界で複雑なアクションはほぼ見ない。同人ゲームも盛り上がっているとはいえ、個人ではなかなか難しいだろう。
ポチポチとマウスを押して魔法攻撃を繰り返していく。レベルカンストだからか敵の体力がマッハで減っていた。
一方で、魔法少女の体力はまったく減っていない。
とある特殊条件を満たせば手に入るスキル<全反射>だ。スキルをONにすれば敵のあらゆる攻撃を反射する。ラスボスの特殊攻撃だろうが関係なく、そっくりそのままお返ししている。
つまり、最強。一周目のラスボス戦であっちゃいけないレベルのチートスキル。
<全反射>を貫通できるのは二周目のボス戦くらいだ。この場面で持っているのは想定されていない。
まあ……そりゃそうでしょ、としか。
<全反射>の取得条件は全Hシーンの解放だ。本来は全クリ後にやるであろう細かなサブクエストや、ドロップ率コンマ数パーセントのレアアイテムにより解放されるHシーン差分などを含めすべてを見なければならない。
エロのため血眼になって数百時間を費やさなければ手に入らない代物だ。
だからまあ、激熱挿入歌とともにラスボス戦を進めていても、実際は一方的な虐殺に近かった。それでもストーリーが素晴らしいので号泣してるけど。
『終わらない……終わらせてたまるものか! 小娘に負けて魔王を名乗れるか!』
ラスボスの体力を残り一割まで減らすと形態変化を始めた。イケメンだった男の背中からうねうねと無数の触手が生えてくる。
非常に陵辱されがいのある、すばらしい触手だった。このゲームは触手に対するこだわりがすさまじく、CGをよく見ると一つずつデザインが変化している。まさに職人の技である。
暴走したラスボスを前に、魔法少女が蹂躙されていく。痛恨の一撃をくらい、魔法少女は地に落ちた。かわいらしいピンクの衣装は(不思議なことに)胸と股間の部分だけが破れ、倫理規定にしたがってモザイクがかかっている。衣装のかわいらしさと少女のエロさを両立させるすばらしい配慮だ。
『ダメ……意識が……っ』
視界が黒く染まる演出が入る。GAMEOVERになった際に何度も見た光景だ。通常であれば、この後に洗脳や死姦のCGが差し込まれる。
けれどここでBGMが変わった。
仲間……青髪の魔法少女リリィのテーマソング、そのオルゴールアレンジだ。
魔王と対峙する直前、幹部との戦闘で『ここは私に任せて先に行ってください!』と主人公を助け、その後素晴らしい陵辱CGを残して上も下も大号泣させながら散った仲間である。
もう一度、私は泣く。
その他にも、旅の途中で出会った人や死別した魔法少女との思い出が蘇っていく。一つ一つの声援が主人公の魔力を回復させていく。
なんだかんだ言って最後は王道展開がいいのよ。幼女先輩もそう言ってる。
『力が溢れていく……これは……想いの魔法……』
カメラが切り替わり、主人公の生まれ故郷が映される。
村の中央には大きな桜が咲いていた。主人公がこれまで出会った人々の想いが蓄積し、魔力となって魔王城まで届けられる。音楽記号で例えるとダ・カーポ的な。
魔法少女は立ち上がる。
『負けない……私は、みんなの魔法を信じるの!』
『やってみろ魔法少女!』
戦闘画面に戻る。私は泣きながら魔法攻撃ボタンを押した。
素晴らしいゲームだった。完璧な神ゲーだった。
思い残すことはない。二周目もあるらしいが、余韻を噛みしめるためしばらくは別ゲーをやろう。
……だが、不意に邪な思いを抱いた。
今からラスボスに負けたらどうなるのだろう。
ゲームシステム上、ここからは負けられない。敗北差分は用意されていないだろう。だが、この魅力的な触手が活かされないまま終わるのは唯一の心残りだった。
マウスを握る手が震える。熱い展開に水を差すのは趣味じゃないが、ほんの気まぐれ、気の迷いで自傷技を試してみた。
――瞬間、PCの画面がブラックアウトした。
「……あれ?」
バグった?
やばい、どこでセーブしたか覚えていない。ここまで来たのにエンディングを見れないのは萎えるんだけど……
悶々としていると、頭上でぐらりと音がした。
天井を見上げる。
声を上げる暇もなかった。
頭上の神棚から落ちてきた特大魔法少女フィギュアが頭部に突き刺さる。
意識は、そこで途切れた。




