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22話 触手系魔王幹部襲来Ⅱ

 基本的にどの作品でも魔法少女は正体を隠す必要がある。理由付けは作品によって様々だが、大人になってから考えるとなんとなくわかるものだ。


 女子中学生が命がけで戦ってるのを知ってて放置する大人がいたらダメでしょ。


 本来なら世界を脅かす敵は核を使ってでも大人が対処すべきであって、魔法少女に任せているのはおかしい。その矛盾を解消するために正体不明としているのだ。


 実際、ミューズちゃんも周囲に魔法少女だとバレたのは一周目メインストーリーの最終盤。魔王城にカチコミに行く前にバレたものの、すでに世界滅亡寸前だったので他に手段がなく、大人たちは送り出してくれた。


 今回も同じ。魔王幹部の生き残りなんて国中の兵力を集めて待ち受けるべきだろうが、一日前ではそれも間に合わない。それを狙ってダルダルも予告状を送ってきたのだろう。


「どうかこの村をお願いします。あなたに頼り切りで申し訳ないですが……」


 避難準備で慌ただしい中、村長が家にやってきて頭を下げた。


「いえいえ、むしろ戦えることが嬉しいんです」

「嬉しい……?」


 信じられないものを見るような視線を向けられる。


 やばい、つい本音が。


「え~っと、そう、光栄です。頼られてるってことですから」


 村長は納得したように頷いた。

 そして、皮肉な笑みを浮かべる。


「14歳の少女にこんなことを言わせるなんて、我々は無力ですなぁ。どれだけ礼を言っても伝えきれない」

「礼だなんて。もう十分、私はたくさんの喜びをもらっているんです」


 魔法少女としてのパブリックイメージを守るため適当にそれらしい言葉を並べて誤魔化していたが、村長は感銘を受けたようなため息をついた。


 なんだか気まずい。


 正直なところ世界を救ったり村を守る使命感なんてまったくない。

 村長が家に来るつい数秒前まで「どのような心持ちで触手陵辱に臨むのが美しいか」という哲学的議論を脳内で繰り広げていたところだ。感謝とかされても困る。


 ややギクシャクする空気を感じ取ったのか村長は話題を変えた。


「ああそうそう、今日は避難経路と戦闘場所の打ち合わせに来たのですが――」


 村長は鞄から村周辺の地図を取り出し、避難の場所と経路を確認する。ダルダルがどこからやってくるのかが読めないので難しいが、様々なパターンを想定して誘導地点を話し合った。


 ただ、ちょっと村長の想定が甘いように思える。


「村から十キロ離れたここ……そう、この辺りに水源があるので、付近にテントを張ってほとぼりが冷めるのを待とうかなと」

「十キロですか……」


 ダルダルとの戦闘を思い返す。ラスボス直前であることに加え、ギミックが前提の強さに調節されていた。結構でたらめな強さだったのを覚えている。


「少なくともその倍は距離を取った方がいいと思います」

「倍……しかし……」

「ダルダルは高速で移動するので不意に接近することがありますし、範囲攻撃も強力です。最大火力技にもなると半径数キロを焼き尽くす可能性もあるので」


 当時の攻略情報を思い出しながら伝える。

 村長は絶句した。


「ま、魔王軍幹部とは……それほどの……?」

「幹部の中でも最強格ですから」


 村長は黙り込んでしまった。

 実際、難しい問題だと思う。村の人口すべてを十キロ移動するのと二十キロ移動させるのではコストが違いすぎる。水源から離れなければならないので飲料の確保が難しくなったり、足腰の弱い人が一日で移動できなかったり。避難途中もモンスターがでるのでどうやって安全を確保するのかも頭痛の種だ。


 しかしダルダルは強い。心置きなく敗北するためにもできる限り離れてほしかった。


 その後、様々な事情と板挟みにあって葛藤しまくる村長と話し合いを続け、どうにかセーフティー距離の避難をしてもらうことになった。


 × × ×


 同僚から避難場所変更の連絡を受けた村の衛兵エドリックは思わず声を上げた。


「二十キロ地点まで変更だと? 本気で言っているのか?」


 避難の最中、村人の安全を守るのは衛兵の仕事だ。千人近い行列を四方八方から襲い掛かってくるモンスターから護衛しなければならない。特に子供や年寄りの多い箇所は襲われたら死に直結する。正直、十キロでも自信がなかった。


 同僚は「まったくやれやれだぜ」と肩をすくめる。エドリックとともに下っ端と言える立ち位置なので上司の命令には逆らえない苦しさがあった。


「ミューズちゃんの要望だってさ。それほど今回の敵は強いんだと」

「ううむ……」


 魔法少女の名前を出されてしまってはエドリックも反論できなかった。彼女のファンであるのもあるが、自分よりもずっと若い少女が命がけで強敵と戦っているのだ。ここで不満を漏らすようでは衛兵として情けない。


(だが……現実問題としていけるのか?)


 敵の襲来は明日の正午。もう十五時間もない。村人の避難準備は進んでいるが、彼らの統率を取ってモンスターから身を守りつつ暗闇の中を二十キロ進める自信はなかった。


 しかしいくら考えても代案は出てこない。ミューズが言うのだからするしかないのだ。


「情けないな……」エドリックはため息を漏らす。「俺に力があれば……」


 考えが袋小路になってくると、途端に自分の現状が虚しくなった。

 どう戦うかではなく、どう避難するかで頭を悩ませなければならない。年下の少女が命がけで戦っているのに何も助力できない現状が辛かった。


 せめてもう一人戦えるものがいれば避難距離も短くて済むのだろうが……


 不意に、娘がミューズを応援していたことを思い出す。テレビの前で「がんばれ魔法少女」と叫んでいた光景が脳裏をよぎる。


 強いから、かっこいいから、可愛いから憧れる。ミューズもその期待に応えようと命がけで戦うのだろう。


 その状況で、ミューズは逃げられない。期待を背負ってしまったらどれだけ怖くても立ち向かうしかない。


 村人はミューズに背負わせていた。


(ただ指をくわえて見ているのが正しい大人なのか……? 俺はかっこいい父親に……正しい衛兵になれているのか……?)


 自分がやるべきことはなにか、わからなくはないが、現実として難しい。


 エドリックは天井を見上げ、ため息をついた。


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