21話 触手系魔王幹部襲来Ⅰ
リリスちゃんとの一件からはや数日。
私は人生においてとても重要な問題に直面していた。
結局、私って処女なの?
まずリリスちゃんとはどこまでヤッたのかがわからない。加えてレズセックスにおける処女の定義が曖昧だ。膜が突破されていなければセーフ判定なのだとしたら、何度もレズセックスをしているのに処女という人もいるだろう。
エロゲ―マスターたる私の見解としては、レズセックスをしたら突っ込んでいなくても非処女だ。想像してほしいが、好きな処女ヒロインが主人公以外の男とHなことをしていたら精神的非処女判定になるだろう。
だがいざ自分がその立場になってみると難しい。いったいどのような定義で大人の階段を上ったと言えるのだろう。
「――危ないよミューズ!」
鋭い声が聞こえてふと我に返る。
目前に火の玉が迫っていた。
「わぁっ!」
生存本能が緊急稼働。自分でもびっくりするほどの跳躍力で回避した。横をすり抜けていった火の玉は地面に直撃して小爆発を起こす。
<全反射>があるので当たっても問題ないけど、今は村の近くの草原で戦闘している。反射した火の玉がどこに飛んでいくかわからないので回避するしかなかった。
「って火事になってるし! <ウォーター><ウォーター><ウォーター>!」
草原に火がついていたので水系の魔法で消火する。これで火事になって怒られるのは私なのだ。
目の前でばっさばっさと飛行しているワイバーンをにらみつける。私の身長の三倍くらいはあり、威圧感のある見た目だった。
メインクエストの一つ、ワイバーン襲来イベントだ。
別に強くはないけど連戦になる上、村の近くの戦闘なので周辺被害への配慮が必要になる。面倒なイベントだった。
すでに四匹のワイバーンと戦っているので集中力も落ちてきている。一気にカタをつけよう。
ひこう/ドラゴンには氷が四倍弱点だって三十年近く続くゲームで言ってたので、ちょっとしたこだわりとして氷系の魔法で攻める。
「<ブリザードアロー>!」
虚空に巨大なつららを出現させ、ワイバーンめがけて投擲する。
命中。ちょっとグロテスクな感じに串刺しになり「GUAGAGAGGAGA」と耳障りな断末魔を上げて消滅した。
クラッカーのSEと<クエストクリア>のメッセージが表示される。
私はふうと息をつき、ちょっと焦げた芝生の上に座り込んだ。
激しい戦闘だったので少し離れて見ていたエニグマがやってくる。
「まったくぼんやりとしてるなあ。クエストはいつだって命がけなんだよ」
「う……ごめんぼーっとしてた」
エニグマはやれやれと肩をすくめる。
「またリリスのこと?」
「うん……」
頭の中はあの日のことでいっぱいだ。
リリスちゃん可愛かったなぁとか、記憶がなくなてって悔しいとか、真相はどうだったのかとかばかりを考えてしまう。
「というか、あの時エニグマは見てなかったの?」
「早朝からクエストに連れていかれたからね。寝ていたよ」
スライム騒動の時もそうだけど、エニグマは睡眠時間が長い。いつの間にかふらっとどこかに行って休息をとっていたりする。肝心な時に役に立たない妖精だった。
結局、真相ははっきりしないまま。
今更リリスちゃんに聞けるはずもない。
もやもやの気持ちを抱えたまま村に帰る。
一応、村のピンチを救ったのでさぞ感謝されるんだろうなあと期待していたが、入り口で出迎えてくれたのは衛兵さんだけだった。その衛兵さんもいつもはキラキラした瞳で「お疲れ様です」と言ってくれるけれど、今日はどこか焦ったように挨拶をするだけでどこかへ行ってしまう。
なんか……村の様子が変だな?
魔法少女の人気もあって、いつもはモンスター討伐後に出待ちをしているファンがいる。ここまで寂しい帰宅は初めてだった。
「中央広場の方が騒がしいね」
エニグマが訝しむように言う。確かに、かすかな混乱の予感を含んだいやな感じのざわつきだった。
中央広場へ向かう。村中の人が集まっているんじゃないかと思うくらい混雑していた。「ごめんなさ~い」と人波をかき分けて騒ぎの中心に割り込むと、中にいた本屋のおばちゃんが「ミューズちゃんが来たよ」と急かすように引っ張ってくれた。
中央広場の真ん中には時計塔が立っている。その壁に張り紙がしてあった。
――明日の正午。魔法少女の命を頂戴しに参上する。
予告状だった。しかも、羊皮紙にどす黒い血で書かれているから雰囲気がある。端的な殺人予告の最後には魔力紋章が描かれていた。
「これ、ダルダルの――魔王幹部の紋章だよ」
騒がしかった周囲がさらにざわつく。村に魔王幹部が来ると言っているのだ。さぞ不安だろう。
第七魔王幹部、ダルダル。一周目のメインストーリーの最終盤で戦う最後の魔王幹部だ。戦闘はするものの最後は溶岩に落ちて死亡するので不完全燃焼な退場だと思っていたけど、再登場するとは。
特徴として、こちらのパッシブスキルをすべて無効化してくる。素のステータスが重要になってくる相手だ。ステージギミックなので私の防御スキルも貫通される。
そう、すべて。
<全反射>をも。
ちなみにクトゥルフみたいなタコ系モンスターであり、自称IQ5000。敗北すると触手陵辱Hシーンを見れる。最終盤のボスなだけあって触手のデザインも大変すばらしく、ぬるぬるのぐちゃぐちゃだ。
……ガッツポーズをしそうになる右腕を押さえつける。
叫びそうになったので唇をかみしめる。
だめだ、まだ喜ぶのは早い……っ!
「その、魔王幹部とはどのような……?」
本屋のおばちゃんが不安そうに聞いてくる。
「結構デカいモンスターです。第七幹部なので強いですよ。本気を出せばここら辺一帯を焼け野原にできるくらいには」
村人たちは絶句した。嫌な静けさが中央広場に広がっていく。
おばちゃんは飲み込めない現実を胃に流し込むように言葉を絞り出した。
「避難が必要ですよね……」
「はい。できるだけ私もあいつを誘導して村から離れますけど、なにしろ手ごわい相手なので」
「なんで今になってそんな相手が……」
まあ魔王軍は私たちに壊滅させられたんだから、生き残っているなら恨んでいるだろう。特にダルダルは浮遊魔法を無効化するアイテムを使えばマヌケにも溶岩に落ちて焼きダコになってくれるので、本人にとっては屈辱の最期かもしれない。
タコ型モンスターだが、風船みたいに空を飛んでやってくる。草原の上をふわふわやってくる姿を想像したらシュールだった。
「とにかく今すぐにでも避難の準備を始めましょう。私も迎撃の準備を始めますので」
何をするにしてもよりよい準備が大切だ。敗北Hであろうとそれは変わらない。
数少ないチャンスだ。絶対に逃すわけにはいかなかった。




