18話 百合ゆリリスな魔法少女Ⅴ
リリスちゃんは昼食にホットケーキを作ってくれた。どうやらお母さんの勧めでもう一泊が決まったらしく、ご機嫌でキッチンに立っている。甘い匂いが漂ってきた。
「どーぞ」
渡されたホットケーキにはたっぷり蜜がかかっていた。他にもホイップクリームやカラフルなチョコレート。トッピングにはイチゴとブルーベリー。
甘い、甘い、甘いのスイートハーモニーである。
女の子はお砂糖でできていると言っても限度があるのでは?
「す、すごいボリューミーだね……」
「お姉さまのために気合を入れました♡」
「匂いが暴力的に漂ってくる……ん?」
甘い奔流の中に、僅かな刺激臭があった。
ホットケーキ、蜂蜜、イチゴ、クリーム、ブルーベリー、チョコレート……目の前に見えるどの材料からも想像がつかない香りだ。
気づいた。
これ……もしかして白百合の蜜が混ざってる?
確証はないが、鼻の奥がツンとするような独特の刺激臭が似ている。
「ねえリリスちゃん、この蜂蜜だけど――」
そこまで言って次の言葉をぐっとこらえる。
待って、リリスちゃんが白百合の蜜を混ぜたってことは、わたしのバッグから勝手にとったってこと?
そんな勝手なことをする子ではない。わたしのポシェットの中を勝手に見たり、中の材料を勝手に使ったりするとも思えない。仮に何かしらの偶然が起きてポシェットから花蜜の袋がこぼれ落ち、見てしまったとしても、使う時はわたしに一声かけるはずだ。
ただ……このくどいほどの甘い香りが、刺激臭のカモフラージュをしているようにも思えた。
もし本当に花蜜を混ぜているのなら、それはなぜ?
白百合の蜜に媚薬効果があると知っているのはわたしだけのはず。おいしそう、という理由で味付けに使ったのだろうか。
もしかすると別ルートから独自に入手したのかもしれないし、本当はまったく別の蜜を使っているのかもしれない。
あるいは、サブイベントの強制力でリリスちゃんが本来はやらないようなことをさせられている可能性もある。二周目のシナリオは別の人が担当しているので、キャラの一貫性がとれている保証はない。
ああ、疑心暗鬼。可能性を考えれば考えるほどわからなくなって、思考がまとまらない。
「どうしましたお姉さま」
頭を抱えた私に、かわいらしく首をかしげてきいてくる。
――きゅるる~ん。
「心を込めて作ったので、どうぞめしあがれ」
ピュアな瞳と最高の笑顔でそう言った。
目と目が合う。たった一秒ほど、でもちょっと気恥ずかしくなるくらい見つめあった。
……なんだか、リリスちゃんの瞳を見ていると、頭がぼーっとしてくる。
すごく純粋で、綺麗で、守るべきもので、疑っちゃいけないような気がしてくる。
世界で唯一の宝石のような……
美しく着飾った二次元ロリのような……
あれ……そういえば、私は何を考えてたんだっけ……?
自分のごちゃごちゃした思考が遠い世界に消えていくようだった。
だから……私は自分の行動を直感で決めるしかなくて……
1.ホットケーキを食べた
2.ホットケーキを食べさせた
select:2
2. ホットケーキを食べさせた
ああ……でも、よく見るとホットケーキは一つしかない。
こんなに可愛くておいしそうなのに、リリスちゃんの分はなかった。
かわいそうだなぁ。おいしいものはみんなで食べた方がおいしいのに。
それに、なぜか頭が回らなくてうまく言葉で説明できないけど、一緒に食べた方が楽しくなるような気がした。
多分、エンターテイメントを追い求めてきた前世で培われた直感だろう。
ここは食べさせるのが正解。
「リリスちゃんも一緒に食べようよ」
私はフォークでホットケーキの一部をとる。
戸惑ったような苦笑いをされた。
「わたしはいいですよぉ。お姉さまに作ったんですから……」
「みんなで食べた方がおいしいよ」
「でも……」
なぜかわかんないけど遠慮される。こんなにおいしそうなホットケーキだから食べればいいのに。
「ほら、あ~ん」
「⁉」
フォークを差し出すとリリスちゃんは目を見開いた。
「お、お姉さまが……わたしにあ~んを……でも……」
「どうしたの? ほら、一緒に食べようよ」
「それを食べたら……わたしは……」
頭を抱えて迷っている。
私はちょっと悲しくなった。
「リリスちゃんは、わたしと一緒に食べるのは嫌かな?」
「そんなことないです!」
ばっと身を乗り出して反論してきた。
あまりに必死だからちょっとおかしくなって笑ってしまう。
「そっかぁ。じゃあはい、あ~ん」
「ええい!」
ぱくっとかぶりつく。蜜の甘い匂いが漂った。
目をつぶって祈るように咀嚼する。清水の舞台から飛び降りる、と言いたくなるような仕草だった。
「うっ……」
飲み込むと口をおさえる。一気に呼吸が荒くなったような気がした。
「大丈夫? お水飲む?」
「いえ……あの……その……」
遠慮するもののうつむいてしまい、顔が段々と紅潮してきた。
なんだろう、体調が悪くなったのかな……?
「顔が赤いよ。熱があるかもしれないからおでこ出して」
心配になったので机から身を乗り出して近づく。
リリスちゃんが顔を上げた。
その目はどこかとろんとしていて、淫靡な表情だった。
「お姉さま……わたし……」
熱のこもった吐息が私の頬をなでる。
芸術作品のごとく整ったリリスちゃんの顔が、私の目前で微笑みかけてくる。
熱を測ろうと差し出した私の手にリリスちゃんの手が重なり、指と指が絡み合う。
いわゆる恋人つなぎ。合わさった手のひらからはじめっとした体温が伝わってきた。
「リリスちゃん……?」
その手は何かをこらえるように震えている。
尋ねてもしばらく沈黙していた。ただ、リリスちゃんのサファイアのような瞳が言葉以上に雄弁なきらめきを持っていた。宝石の美しさに吸い込まれるように、私は輝きを見つめてしまう。
かわいいな。きれいだな。
「お姉さま……ごめんなさい。わたしはちょっとだけ悪い子なんです」
「え?」
リリスちゃんは沈黙を破ると、私をぐっと引き寄せた。
バランスを崩して主導権を握られる。
そのまま優しく横に引っ張られ――抵抗しようと思えばできたがする気にはなれず――私は床に押し倒された。
固い木製の床板。見上げるは白い天井。
そして、リリスちゃんの可愛い顔。ホットケーキのような甘い香りが漂った。
「お姉さま……わたしは……わたしは……」
そっと、顔が近づく。
リリスちゃんの身体全体が熱を持っていた。
優しさと美しさに征服されるような感覚。
私は……
ちょっぴりの不安と、けれど温かな心地よさがあって……
目をつぶり、されるがままの運命に身を任せた。
select:1の場合
1. ホットケーキを食べた
ああ……そうだ、なんで私は疑っていたんだろう。
こんな可愛くて私を慕ってくれる子が、真心を込めて作ってくれたホットケーキだ。
大事なのは信じる心。リリスちゃんが花蜜を盗んだとか、勝手にホットケーキにかけたとか、そんなことはあり得ない。
「なんでもないよ! いただきまーす!」
わたしはフォークとナイフを持ち、ホットケーキにかぶりついた。
そこから先の記憶はない。
~BAD END~




