17話 百合ゆリリスな魔法少女Ⅳ
「……っ、ない! 高麗百合ないんだけど!」
オークを浄化して出たリザルト画面に<しなびた高麗百合>という不穏なアイテムがあった。手に取ってみると純白の花弁は黒くくすんでおり、枯れかけている。
もしやと思い高麗百合が咲いていた場所に行ってみると、綺麗さっぱりなくなっていた。周囲でレズセックスをしている妖精さんに尋ねたところ「インドアオークが食べちゃった」と喘ぎ声交じりに教えてくれた。
高麗百合は希少なので次に咲くのは数か月後だろう。念のためログハウスの中も探してみたけど、百合に挟まる男系のエロマンガしか見つからなかった。
「あのオーク……っ!」
高麗百合を食べると付与される催淫効果を期待したんだろうが、元がオークなので焼け石に水だ。
「ミューズは焦りすぎたね」
私がログハウスの中を漁っていると、外で情報収集をしていたエニグマが戻ってきた。
このゲームのクエスト結果はA~Dで評価される。最短距離でクリアすればC、クリアできなければDであり、細かな条件を満たしてクリアすればB、Aと評価は上がっていく。
A~B評価を得る条件はモブに聞き込みをしたり本を読んだりしてヒントを集める必要がある。今回はテンポ重視で無視していたのだが…
「どういうこと?」
「妖精たちに色々聞いた話を総合すると、光属性の弱攻撃を加えながら解剖すれば腹の中から枯れてない高麗百合を取り出せたらしい」
「つまり?」
「キミは情報収集を怠ったんだ」
私は膝から崩れ落ちた。
「いやいや、だって高麗百合をとってこいってクエストだよ⁉ C判定でもゲットできるって思うじゃん!」
「諦めな。キミの負けだ」
教訓:怒りに身を任せるのはやめましょう。
町に戻った私はおばあちゃんに頭を下げた。
「ごめ~んおばあちゃ~ん」
「いいよぉ。普通の百合でも十分だわ。とっても綺麗じゃない」
事情を説明するとぽわわーんとした笑顔で許してくれた。孫に接するおばあちゃんみたいな優しさである。
申し訳がないので通常の百合をたくさん持って帰ってきた。一応それでもクリア判定にはなるのかおばあさんは喜んでくれたが、C判定だった。
心の中では不満に思いつつも表に出さないおばあちゃんの気遣いがシステム上に現れたようで胸が痛い。
「お礼をあげなきゃね。ほれ、持っておゆき」
<ユリタミン>を手に入れた。
初めて見るアイテムだ。
「これは?」
尋ねるとおばあちゃんはニヤッと笑い、私の耳元に近づいてきた。
ニシシ、といたずらっぽく笑う。
「楽園に咲く百合はみんな媚薬成分があるんだよ。高麗百合ほどじゃないけどね」
「……ふーん?」
「蜜を抽出すれば立派なお薬さ。はい、プレゼント」
親に内緒でお小遣いを渡してくれるおばあちゃんみたいに、媚薬の入った袋を握らせてくる。
これは嬉しい誤算?
「効果はばつぐん。楽園の妖精どもはみんな発情していただろう。百合の蜜をちょっと吸えばあの通りさ」
「へ、へぇ……なかなかデンジャラスな花だね。まあおばあちゃんがくれるっていうならもらおうかな」
ひゃっほい! と歓喜しつつも、しぶしぶという風に受け取る。
体裁って大事だしね、一応。
「誰に使うか決めてるのかい?」
「まさか」
「惚れ薬のようなものだからねぇ。好きな子に使うといいよ」
おせっかいばあちゃんだ。ニシシ、とからかうように笑って帰っていく。「じゃあねー」と手を振ってその背中を見送りつつも、私の意識は口元の笑みをこらえるので精いっぱいだった。
私は一人残される。
手元には媚薬が数回分。
腕を上げないままガッツポーズをした。
「……ほどほどにしなよ」エニグマの視線が刺さる。
「まだ使うとは言ってないよ」
「リリスちゃんはまだ幼気な少女だし、こんなキミを慕ってくれているんだよ」
「だからリリスちゃんに使うなんて一言も言ってないじゃん?」
なぜそう決めつけてかかるのか。
「じゃあその薬をどうするつもりで?」
「私は使わないよ。ただ……」
話していると目の前に<クエスト:淫靡なる白無垢の花part2をクリアしました>と表示された。
続けて<新たなサブイベント情報が追加されました>と出てくる。誘導に従ってタブから進行可能サブイベント一覧を見てみると、予想通り<白百合蜜のハプニング⁉ part2>が追加されていた。
一周目に高麗百合を手に入れたときと同じ流れだ。
「このサブイベントが、私をラッキースケベ的に百合エッチへと導くんだよ」
イベントの詳細情報を表示させ、開始のためのガイド矢印を表示させる。
迷いはいらない。私はこれから不可抗力的に百合エッチに巻き込まれてしまうのだ。
「世界を救った魔法少女が自分から媚薬を仕込むわけないじゃん。イメージを大切にしていこうよ」
「ラッキースケベを意図的に仕込んだらそれはラッキーの範疇なのか……?」
エニグマは深遠な哲学的問答を繰り返している。エロの探究者としては興味が尽きない話題だけど、今は目の前のご褒美で頭がいっぱいだった。
もらった媚薬をポシェットに入れて、ガイド矢印に従って早足で進む。
目的地は私の家になっていた。
× × ×
朝、目を覚ますとお姉さまはいなくなっていました。
早朝からクエストがあると言っていたので仕方ありません。
ですが、白いカーテンの衣擦れ音だけが聞こえてくる部屋の静けさは、わたしの耳を痛みつけてくるのでした。
まだお母さまが起きてくる気配はありません。音を立てなければ大丈夫だろうと思い、空白を埋めるように昨夜の続き――自らの秘所を慰めました。
もちろん、想い人はお姉さま。
どちらが攻めでどちらが受けか。お姉さまの魅力は一面だけで語り切れるものではなく、そのどちらを割り当てたとしても素晴らしい妄想になるのですが、最近の趣向としてはわたしが攻めることが多いです。世界を救った救世主たるお姉さまが情けない顔をしているところを想像するのは心地よい興奮でした。
刹那の快楽――
まだ物足りない気持ちはありましたが、そろそろお母さまが起きてくる時間だったので証拠隠滅のために急いで窓を開け、身支度を整えました。
その後、お母さまが出勤されるのでわたしも帰ろうとしましたが「遠くからきて一泊だけじゃ寂しいよ」と強い引き留めを受け、もう一日だけ宿泊することにしました。
朝食をごちそうになり、出勤するお母さまを見送り、しばらく時間をつぶしてから昼食の支度をしているとお姉さまが帰ってきました。
わたしは一目散に玄関へと向かい出迎えます。
「お帰りなさいお姉さま。クエストはもう終わりました?」
「テンポ重視でいったからね。何も食べてないからお腹すいちゃった~」
「ちょうどランチを作っていたんです。お姉さまの分もありますよ。ポシェットはわたしがしまっておくので、手を洗ってきてください」
ありがとー、と鞄を私に預け、お姉さまはリビングへ向かいます。
……無防備なお姉さまだこと。
きっとわたしが悪い子だなんて夢にも思っていないのでしょう。
こんな、お姉さまの持ち物を逐一確認しては動向を監視している人だなんて。
「……あら?」
ポシェットの中には不思議な包みが入っていました。取り出して臭いを確かめてみます。
頭がくらりと揺れました。慰めたはずの空洞が少しだけ寂しさを訴えてきます。
媚薬……でしょうか。強い粘性を持ち、花蜜特有の甘い香りと媚薬成分の刺激臭を同時に放っています。光属性を専門とするわたしは薬物にも多少の心得がありますが、この物質には見覚えがありません。
鑑定スキルを発動。<楽園の白百合の蜜>と表示されます。説明文によると女性限定で効果を発揮する媚薬なのだとか。
……これをお姉さまが?
おそらく今日のクエスト報酬でしょう。それ以上の深い意味はないはずです。優しくて正義感の強いお姉さまのことですから、純粋に人助けのため手当たり次第にクエストを受注しているのでしょう。
ですが……ふむ。
もしかすると、これはチャンスなのでしょうか。
悪いことを思いつきました。ですが、リスクの高い選択でもあります。
重要なのは演技を悟られないこと。
偶然、うっかりを装うこと。
お母さまは仕事で夕方まで帰ってきません。
なんと都合のいい展開でしょうか。これがシナリオならば三流のご都合主義だと言われてしまうほど。
わたしは包みを持ってキッチンへ向かい、作りかけのランチの仕上げを行いました。




