15話 百合ゆリリスな魔法少女Ⅱ
気づけば、カーテンの隙間から朝日が漏れる時間になっていた。
もちろん一睡もできていない。すっきり顔でぐーすか寝ているリリスちゃんを尻目に、冴えた頭が暴走して眠れなかった。
だってさあ、普通、人の家に来てオナニーする?
リリスちゃんはその名の通り清純派な見た目をしているけど、割とむっつりなところがある。エロいワードにはちゃんと反応するし、エロ本を盗み見ていたこともあった。
でも基本的にはそういったことは嫌いだったはずだ。キモデブ系陵辱BADエンドではあまりに泣き叫ぶものだからプレイしていて心が痛くなったのを覚えている。
リリスちゃんだって日々変わっているし、魔王を倒したことで成長している。幼かった彼女も思春期なんだなぁと感慨深くなると同時に、でも人の家でオナニーは対応に困るからやめてほしいとため息がでた。
どんな顔で話せばいいのかわからない。気まずいので起きてくる前にさっさとクエストに行くことにした。私の枕もとで丸まっているエニグマのしっぽをつかみ、そろりそろりと部屋を出る。
驚くエニグマを「しー」と静かにさせ、みんなを起こさないようこそこそと身支度を整えて外に出る。
エニグマが不満そうな視線を向けてきた。
「どうしたんだいそんなに急いで。まだ夜が明けたばかりだろう」
「リリスちゃんといるのが気まずくて」
「何故。昨日は仲睦まじく……とはいかずとも仲良くやっていただろう」
「プライバシー保護の観点からお答えできかねます……」
さすがに言えなかった。
「ふぅん? まあ、リリスに変なことをするのはよしてくれよ。純粋無垢な白百合がキミの汚れた思考に影響されては世界の損失だからね」
「……ソウダネ」
「なんだいその目は」
世の中、知らないことがいいこともある。
乙女の秘密は特にね。
高麗百合を求めて山にやってくると麓は霞がかっていた。早朝で気温が低いのもあるが、おそらくイベントの演出だろう。いつもは咲いていない百合がぽつぽつと見られ、普段よりも空気が澄み切ったような印象を受ける。
スポーンするモンスターにも違いがあった。オークやゴブリンではなく、妖精や花をモチーフとした小型のものが多い。百合イベントでオークが出てくるのは解釈違いもいいところなので運営の配慮だろう。
<伝説の百合を探そう>
目の前にメッセージとガイド矢印が浮かぶ。山に来たことでクエストの進捗が更新されたのだ。
「異様な雰囲気だ。奥の方から黒い波動を感じる」
エニグマが鼻をつまむように言う。妖精は危険の匂いに敏感だ。
「黒い?」百合の神秘的な雰囲気に思えるけど。
「ああ。感覚的にはボスオークだろうね。言葉ではうまく表現できないが……陵辱欲望に似た、しかし別種の強い感情を抱いている」
「ふーん?」
確かにこの山はオークの巣窟だが、今は百合をメインに据えたイベントの最中だ。ボスがオークなのは不思議だった。
これじゃあまるで……
――ピピッ!
危険感知スキルの警告音。急いで周囲を確認するも敵の接近はなかった。遠距離から狙われているのかと探索範囲を広げると、茂みからひっそりとこちらを見つめるオークを見つけた。
「……? なにあれ」
困惑する。オークは好戦的な性質が強く、プレイヤーを見つけるとすぐにチンポをおったてて攻撃してくるものだ。あんな風に観察してくる個体は見たことがない。
「気味が悪いな」
「ちゃんと目は血走ってるもんね……」
下半身は茂みに隠れて見えないけどちゃんと勃起しているだろう。得体のしれない挙動に警戒してしまう。
加えて、通常のオークに比べて顔がゆがんでいた。上半身の輪郭は太く、より醜くなっている。
あえて形容するなら、チーズ牛丼をほおばっていそうなオークだ。私と目が合うと恥ずかしそうに茂みの奥へと潜んでいく。
不用意に近づけないので警戒しつつもスルー。別に戦っても負けないしむしろ負けたいが、余計なことをしてクエストに失敗したら困る。
……この時点でなんとなくクエストコンセプトを察した。
「先に進もう」
やる気がでてくる。私は少しだけペースを速めてガイド矢印の示す方へ向かった。
しばらく山道を歩くと、今まで瓦礫で封鎖されていた脇道が解禁されていた。ガイドに従って進むと一気に雰囲気が変わり、霞が濃くなっている。
二十分ほど行ったところにある関所で美少女型の妖精が門番をしていた。イベントを進行させないと通行できないのだろう。
「ふふっ、かわいい子がやってきたわ」
しゃべった。モブ妖精と区別をつけるためか色違いである。手のひらサイズでも美人なエルフの顔立ちなので雰囲気があった。
例えるなら、百合作品のお姉さまキャラ。
本当はここで百合百合したいところだけど、今日はテンポ重視で行きたいので話を先に進める。媚薬も欲しいし、なにより……
「通してくれない? この先に用事があるの」
「だ~め。ここからは妖精たちの百合園。美しき楽園を人間に踏み荒らさせはしないわ」
声は甘ったるいけど強い瞳で拒否感を示していた。
関所の奥に視線を向けるも、白い靄がかかっていてよく見えない。ここから先は特別なエリアなのだろう。
「お金なら払うよ? 私、救世主だからお金持ちなんだ」
「資格の問題よ。汚れた者が踏み入る場所ではないの」
「(物理的には)処女よ?」
「そういう問題じゃないわ」
呆れたような視線を向けられる。
あれ、何か変なこと言ったかな? 敗北エンドで陵辱されたのはif√だからこの世界線では無事なはずなんだけど。
しかし困った。処女でも汚れてるなんて言われたらどうしようもない。清楚さが足りないんだろうか。清楚系AV女優なんて言葉があるように、実際に処女かどうかが重要なんじゃなくて、清楚”感”が必要なのかもしれない。
白ワンピに麦わら帽子をかぶって病弱デバフをくらえば合格かな?
……ん?
そこまで考えて思い出した。
「エニグマ、この先にオークの波動があるって言ってなかった?」
「うん。楽園の中から感じる」
「思いっきり汚れてない?」
私が言うと、妖精さんは気まずそうに目をそらした。
チャンスだ。一気に畳みかけよう。
「あなたには関係ないことよ」
「駆除しましょうか?」
「だから、これは私たちの問題だわ。人間の力を借りる気は――」
「お礼も心配もいらないですよ。私、最強の魔法少女なので」
「どのような理由であれ人間をこの先に招くことは――」
「よし決まり! その不届き者をこらしめてくるので通りますね~」
「ちょっとは話を聞きなさい!」
テンポ重視で強引に話を進めようとしたが、妖精さんにブロックされて先に進めなかった。不思議な力に身体がはじかれて押し戻される。
あ~もう面倒くさい!
妖精さんのプライドとか気持ちとか今はどうでもよかった。今日はテンポ重視でいきたい。
「じゃあこうしよう。わたしがあなたに力を示すので、認めてくれたら通してね」
「一人で話を進めないでくれる⁉」
ちょっとキャラが崩壊するくらいの勢いでツッコミをしてくれているけど、どうせこの手の葛藤はパターンが決まっているし、どうせ戦闘に突入するので先回りして強引に終わらせるのがいい。
「じゃあいくよ~<ファイアー>!」
「ちょっ……っ! 危ないわね!」
先制攻撃で火の玉を出したけど、紙一重のところでかわされた。やっぱり普通の攻撃は当たりにくい。不意打ちに失敗すると妖精さんは戦闘態勢に入り、高速移動を始めた。周囲の雑魚と違って回避力を含むパラメーター全体が高いので、レベル差のごり押しは通用しないだろう。
まっとうな攻略が必要だ。
美少女型妖精の攻略法。
すなわち。
「<チャーム>!」
私はウインクをして魅了魔法を放つ。必中攻撃なので適当に発動しても妖精さんに命中した。
「な、なに……?」
魅了状態になって動きが鈍くなる。
彼女らの弱点は魅了魔法からの陰部摩擦。
端的に言うと、快楽堕ちだ。




