14話 百合ゆリリスな魔法少女
スライム騒動からはや数日。
おつかいのため商店街を歩いていると、視界の端に黄色のマークが現れた。
「もし、魔法少女さんや」
振り返ると、杖をついたおばあさんがいた。頭上に黄色の”⁉”を浮かべて近づいてくる。
クエスト開始のフラグだ。
「花屋のおばさん。どうしたの」
「ちょっと頼みごとがあって。聞いてくれる?」
「もちろん」
黄色のマークはメインストーリーに関連するクエストで報酬がいい。別にストーリーを進める気はないけど、やって損はないだろう。
えっとね……と、おばあさんは語りだす。
要約すると「伝説の百合の花を見つけてほしい」というものだった。
「噂によるとね、あの山の麓にあるらしいの」おばあさんは東の山を指さす「でもほら、あそこらはもんすたぁでいっぱいじゃない?」
「あ~」
以前に(陵辱されたくて)行った時もオークの巣窟になっていた。麓にも何匹かうろついている。おばあさんが行くのは難しいだろう。
そういえば、麓にはちょっとした花畑があった記憶がある。
「いいですよ、ちょうどあの山には行こうと思ってたので」
「ほんとうに⁉ ありがとうねぇ。お礼はたーっぷり用意しておくからね」
おばあさんは朗らかな笑顔を浮かべて去っていく。
目の前に<クエスト:淫靡なる白無垢の花part2が開始されました>とメッセージが浮かんだ。
……part2?
首をかしげて思考を巡らせること数秒。
思い出して思わず「あっ」と声を上げた。part1は一周目のサブクエストだったが、インパクトのあるイベントだったので印象に残っている。人気イベントだから二周目ではメインクエストへ昇格したのだろうか。
「どうしたんだい呆けた顔をして」
買い物袋の中に隠れていたエニグマがにゅっと顔を出す。
「エニグマ、高麗百合って覚えてる?」
「人参じゃなくて?」
一周目の出来事だが、たしかバッドエンド直行のクエストだ。魔王を倒した今の世界はハッピーエンドを選び続けた世界線。リセットされた世界の記憶はエニグマに存在しない。
私にしか存在しない記憶。
少しさみしかった。
「一周目の世界にあった媚薬の原料だよ。女の子限定に効くの」
「それを使って悪だくみを?」
「効果が強すぎて、謀るまでもなく間違って服用した女の子たちにレイプされてバッドエンドだったよ」
「えぇ……」
エロシーン回収のためだけのトンチキイベントだ。魔法少女同士の百合エッチを見れる数少ないイベントなので大好きだった。
百合は儚くて肉欲を通さない綺麗なものが支持されがちだけど、私は逆にレズ陵辱とかエロのみを追求したものがあってもいいんじゃないかと思わ――(略)
とまれ、今回も媚薬入手イベントだろう。それがどうメインストーリーにつながるのかはわからないけれど。
「よ~し、なんだかやる気がわいてきた! ワクワクもんだよ!」
百合レイプ……それもまたよし!
仲間同士なら<全反射>を貫通しそうな気がするし!
「……ま、人助けはいいことだよね」
エニグマは皮肉げにつぶやいた。
夕食の材料を買って家に戻ると、ママが出迎えてくれた。
「お帰りなさいミューズ。お友達が来ているわよ」
「お友達……?」
「妹かしら?」
「妹……?」
不思議な感覚だった。現実世界では家に友達が来たことなんて一度もないから……
困惑しつつリビングに行くと、水色のロングヘアがご機嫌に揺れていた。
魔法少女リリスが、椅子に座って紅茶を飲んでいる。
「あ、お帰りなさいお姉さま! お邪魔してま~す」
「……? なんでいるの?」
「お姉さまに会いたくて」
「そっか~」
そういえばこんな子だった。人との距離が近くて、懐いた相手にはぐいぐい近づいていく。
……平和な世界ではこんな感じの陽キャになるらしい。
ママの前でお姉さま呼びはやめてほしいかも。なんか恥ずかしいし。
「せっかくだから夕食を食べていかないかって誘ったの。いいわよね?」
ママに聞かれるけど、この状況でダメと言えるわけがない。承諾するとママはご機嫌でキッチンへ戻っていった。
「お姉さまに似て綺麗なお母さまですね~」
「リリスちゃん、今だけはお姉さまって呼ぶのやめない? ママに勘違いされたらあれだし」
「大丈夫です。お母さまとはたっぷりお話したので、誤解も勘違いもとけてます」
「お話?」
「主にお姉さまと私の蜜月の日々について」
「何の話をしたの⁉」
「新しい愛の形について理解のあるお母さまでしたよ」
「思いっきり誤解じゃん⁉」
確かに私はレズでマゾで日々エロを求めてさまよう亡者だけど、後輩に手を出すほど勇者ではないんですけど。私のせいでミューズちゃんのイメージが崩れるようなことがあったら困るんですけど!
慌てていると、リリスちゃんはからかうように笑った。
「あはは冗談ですよ。お姉さまの武勇伝を語ってただけですって」
「……そうなの? 甘い日々じゃなくて?」
「本気にしないでくださいよ~」
「…………」
小悪魔な笑みを浮かべてかわいらしく笑っている。何度も見たことのある、いたずらっぽい顔だ。
ようやく理解した。
「だよね! もちろんわかってたよ!」
「本当ですかぁ?」
あはは、と二人で笑いあう。
私は冷汗がだらだらだった。柱の陰に隠れているエニグマからちくちく刺さる視線が痛かった。私の特殊性癖がバレてミューズちゃんのイメージを損なうわけにはいかない。
――余計なことをしたら怒るからね。
目は口ほどに物を言う。エニグマの小さな体から確かな圧を感じた。
しばらく談笑していると、ママが夕食を持ってきた。皿を並べて席に着いて食べ始める。
どうやらリリスちゃんとママは気が合うらしい。
ずーっと私の話で盛り上がっているから居心地が悪い。長く旅をしていたから話題も尽きなかった。西のドラゴンを討伐したときの武勇伝とか、東の町で巻き込まれたトンチキなイベントとか。リリスちゃんが褒めちぎるものだから気恥ずかしくて仕方がない。
羞恥の拷問に耐えつつご飯を食べ終える。そそくさと自室に戻ろうとするも、盛り上がっていたママが言った。
「せっかくだから泊っていくといいわ」
「いいんですか?」
「わざわざお友達がきてくれたんですもの。ね、ミューズもいいでしょう?」
正直、気が進まなかった。
別に中が悪いわけじゃないけど、リリスちゃんには隠し事が多い。ゴブリンの巣の勘違いを含め誤解がとけるのも困る。ある程度距離を置かないと嘘を見抜かれそうな気がしたが、うまく断る理由も思いつかないので首を縦に振った。
「いいけど、明日はクエストで忙しいから先に寝ちゃうよ」
リリスちゃんはぱっと顔を輝かせて「ありがとうございます!」と元気に言った。こうしてみるとかわいい子だなぁと思う。
「ところで何のクエストです? 手伝いますよ!」
「……イイヨ。リリスちゃんはゆっくりしてて」
媚薬入手のためとは言えなかった。
歯を磨いて風呂に入り、おしゃべりをしていたらすぐに就寝時間になった。
やや渋ったお泊りだけど、今はなんだかワクワクしていた。今まで引きこもりだったから誰かと同じ部屋で寝るだけで新鮮だ。
「明かり消すよー」
ランプを消すと部屋が真っ暗になる。元の世界では常夜灯派だったが、ゲームの世界にそんなものはない。いつもは少しだけ不安になる瞬間だけど、リリスちゃんの息遣いが聞こえるだけでほっとした。
おやすみー、と言い合ってベッドの中に入る。リリスちゃんは床に敷いた布団にもぐりこんだ。
「……」
いつもはおやすみ三秒の私だけど、妙に頭がさえていた。直前までしゃべっていたので脳が活性化しているのか、リリスちゃんがすぐそばにいるのが慣れないのか。ちょっとした布団の擦れる音や呼吸のリズムで存在を感じ取ってしまう。
明日は早いんだから寝なきゃと思うたびに目がさえていく。こんなことは久しぶりで対処法もわからなないまま時間だけが過ぎていった。
そうして一時間か二時間か。もぞもぞと長い時間が過ぎたころ、その声が聞こえてきた。
「……ん、んん」
もぞもぞ、もぞもぞ。
リリスちゃんの布団からごそごそと音が聞こえる。
なんだろう?
ただの寝返りかもしれない。起きているのかと聞きたくても声をだせなかった。
ずる……するする……
くちゅ……くちゅ……
衣擦れ音と、水音。
……水音?
「ん……んん……」
加えて押し殺すような声。やや色っぽい響きが私の聴覚を何倍にも引き上げる。
くちゅくちゅ……くちゅくちゅ……
水音は止まらないどころか激しさを増す。そのせいですっかり私の頭は目覚めてしまった。
オナニーしてる!
この子オナニーしてるんだけど!




