13話 スライムと魔法少女Ⅲ
「いたーーーーっ!」
日が沈んでエニグマの目から光が消え去ったころ。
ようやくスライムキングを見つけた。暗視魔法をかけなおして接近する。
「ああそうかい……じゃあボクは休むね……」
「ありがとうエニグマ。必ず私が敵を討つよ」
「いや元凶はキミだから……」
キレのないツッコミをすると、ヘロヘロと座り込んだ。興味のない作業を何時間も手伝わされるのはさぞ苦痛だったろう。お詫びに今度はエロゲの歴史について教えてあげよう。エニグマは知識欲が豊富だから泣いて喜ぶだろうなぁ。
「ZUZU?」
こちらに気づいたのか赤い目を向けてくる。
キングと名がつくだけあってでかい。私と同じくらいの中型スライムだが、その三倍以上はある。頭の上にはちっこい王冠がのっけてあった。ちなみにスライムが七体合体して出現するとかそういうギミックはない。
溶かされてもいいように安物の服に着替えてある。
さあ、バッチこい!
「<スピードアップ>!」
「ZU――ZU――ZUUUUUUUUUUUUUUUUUU――」
大きく息を吸い込み、たっぷりとタメを作ってから粘液を飛ばしてきた。真面目にプレイしている人が装備をロストしないよう、回避しやすくなっている。
だが、ここで決めなきゃ女がすたる!
仁王立ちして正面から受けた。
――ドロリ。
胸に付着した白い粘液が、胸元の繊維を蒸発させる。
まだだ……まだ喜ぶな……
白い肌、控えめなお胸があらわになってくる。だがそこで粘液の効果がきれて蒸発が止まった。
「もう一発! <スピードアップ><スピードアップ><スピードアップ>!」
「ZUU……ZUU……ZUUUUUUUUUUUUU!」
精力剤……じゃなくて素早さ上昇魔法をかけると、スライムキングの身体がびくびくっと震えだす。どぴゅどぴゅっと精液……じゃなくて白濁した粘液を連続射出した。
両腕を広げて受け止める。やはり<全反射>は無効らしい。私ではなく、私の服にダメージを与える仕様なので状態異常耐性も意味をなさない。じわりじわりと服が溶け、ミューズちゃんの肌が見えてくる。特に日焼け対策もしてないのにこの白さ、きめ細かさ、ボディラインの美しさ。一番のチートスキルである。
「きゃ、きゃあー、このへんたいー」
雰囲気を出すためにちょっと悲鳴を上げてみる。魔法少女はこうでなくっちゃ。
粘液がいい具合に白いからぶっかけられたみたいになっててエロい。私、汚されちゃいましたよシクシク。
あ、ブラ見えた。溶けてもいいように三つセットで千五百ゴールドの安物だ。野暮ったいデザインに使い古しのくたくた具合だが仕方あるまい。粘液が下着に触れるとちゃんと溶けていた。
そろそろ乳首が見えるんですけど!
ワクワクもんだぁ!
すでに大興奮。心の男根はソリ上がっている。
「なにすんのよー」
ばっと胸を隠すように腕で抱く。自分の演技の下手さが憎かった。せっかくミューズちゃんの萌え声なのにエロさがない。
「ZUUUUUUUUUUUUUUUU!」
「あーれー」
ダメ押しの粘液を浴びると服がどんどん溶けていく。下半身を含め、もうほとんど布は残っていなかった。粘液かなんとか液か、ぐちょぐちょになった秘部があらわになる。
あえて描写はしないから想像に任せるけど、魔法”少女”に毛が生えてるわけないからね。そこは譲れないからね。
「みないでー」
秘部と胸元のどちらを隠せばいいのかわからず、結果どちらも見えてしまう私。このパニックになってる感じが可愛いんです。涙目になれれば完璧だけど、演技力の問題でそれは難しかった。
スライムキングの赤い目が光る。
私、見られてます!
夢の露出プレイ! 感激です!
さすがキングを名乗るだけあってか、あれだけ射精……じゃなくて粘液を射出してもまだまだ余裕そうだ。
「<スピードアップ>!」
魔法をかけて催促してみる。素肌に白いものが付いたらより陵辱っぽくてエロくない?
「……Zuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu」
けれど、スライムキングは動かない。しばらくこちらを見つめていたが、やがて興味を失ったように背を向けた。ゲル状だからどちらが背中か知らないけど。
「ちょっと⁉ ここにエッチな美少女がいるのにスルー⁉ スルーなんですか⁉」
服を溶かしただけで満足したように去っていく。
なんなんだこいつ。チンポついてんのか。裸の美少女がいればとりあえず襲うのが礼儀ってもんじゃないの?
そういえば、ゲームの時も服を溶かしてそこで終わりだった気がする。
なにそれ⁉
露出プレイとは見るものと見られるものがいて初めて成立する。もしくは、見られるリスク/可能性を堪能するものだ。見る者がいなければただ服を脱いだだけ。脱衣所を露出プレイとは言わないでしょ。性的な視線を向けられる、もしくは向けられるリスクが必要だ。
「ざーこ! ざこざこざーこ!」
スキル:<メスガキの挑発>で視線をこちらに向かせる。
スライムキングはちらっと振り返ったが、すぐに興味をなくして去っていった。
……ダメじゃん!
インポスライムのせいでなんか屈辱なんですけど!
慌てて裸のまま周囲を探索し、手当たり次第に見つけたスライムに裸を見せつけていく。「あーれーみないでー」的演技も忘れない。
けど、なぜかスライムが私に興味を示さない。
なんで?
――粘液攻撃はキミじゃなくて、キミの装備品を標的にしているんだろうな。だから加害性が認識されずに<全反射>が起動しない。
ふと、エニグマの言葉を思い出す。
粘液攻撃は装備品を標的にしている。ならば、素っ裸の今は攻撃対象がない?
攻撃対象がないから興味を示さない?
……ダメじゃん!
どこまでも広がる緑の湿地。
誰一人として興味を示さない大地で、私はただ一人裸でうなだれていた。
このまますっぽんぽんで村まで戻ったとしても、それはただの痴女だ。公衆の面前でただ脱ぐことと、裸を強制されるのとでは意味が違う。前者は露出狂、後者は羞恥プレイ。魔法少女の清楚さを保ったままエロいことをすることに意味があるのに。
観測者がいなければ脱がされても露出プレイとは定義されない。
量子みたいなもんだ。
「……さむ」
夜になって気温が下がっている。
私はしょんぼりとインベントリからいつもの魔法少女服を取り出して着た。
なんか……虚しい……
でも、まだまだ諦めないよ!
観測者がいないなら、いる場所に移ればいい。スライムキングを誘拐して村の近くまで持ってくれば合法的に露出プレイができるじゃないか。
「そろそろ終わったかい」
眠そうなエニグマがやってきた。声がとろんとしている。
「さ、これに懲りたら帰ろう。ボクは眠いんだ」
「……」
私はしばらく落ち込んでその場に立ち尽くしていたけど、昇る朝日が私を励ましてくれているような気がした。
踵を返す。
まだ、諦められない。
「ミューズ、いい加減に……」
「エニグマは先に帰ってて。私はもう一度探すよ」
「露出プレイはできない。何をしに行くんだい?」
「わかんない」
背中から呆れたようなため息が聞こえる。
でも……
魔法少女は、どんなときも諦めないから……
「わかんないけど、目の前に夢があるんだよ。私の夢と希望。簡単に諦めちゃいけないんだよ」
「名言風に言えば誤魔化せるもんじゃないけど」
「だから……私は、もう一度だけ立ち上がる!」
「ボクの話きいてないし」
「魔法少女はどんな時も夢と希望、そして朝日に向かって走るんだ! 行くよ!」
私は朝日に向かって走り出す。徹夜明けの身体は限界に近かったけど、走らずにはいられなかった。
「……ボクは先に帰ってるね」
エニグマはつれなかった。徹夜テンションは私だけだった。
結局……
「すごいなミューズ。やっぱりキミは天才だ」
「なんか……虚しい……」
エニグマに褒められるけど、ちっとも嬉しくなかった。二十四時間以上の連続労働により身体はバキバキ。虚しさと疲労感により私はベッドの上で抜け殻になった。
湿地帯に戻った私はスライムを研究した。ゲル状の体内に入り込んで粘液を産生する様子を観察したり、粘液サンプルを観察してどのような成分が含まれているのかを調べてみたり。とにかくスライムを知るためにあらゆることをした。
すると、いつの間にか私のスキルツリーが更新されており、<アルカーゼ>という服だけを溶かす魔法を習得していた。スライムキングの粘液攻撃と同じものだ。
それぞれの衣装に設定されたおしゃれ度が規定値以下なら問答無用で防具を溶かせる優れものである。
家に帰ってエニグマに報告すると素直に感嘆された。
「キミは魔法少女としての才能はピカイチだよ」
「……私はね、脱がされたいのであって、脱がしたいわけじゃないの。この魔法で自分の服を溶かしてもそれは露出プレイじゃないの」
「なにが違うのかさっぱりわからないよ」
「全然違うし!」
わびさびを解さないエニグマにたっぷり二時間ほど露出とは何かを語ったが、まともに聞いてもらえなかった。




