12話 スライムと魔法少女Ⅱ
通常のRPGと違い、スライムは最弱じゃない。
魔法少女ものの序盤は王道のオーク陵辱とかから始めるから、スライムプレイは中盤に回される。触手よりもさらに後だ。
瞬間移動魔法で村から離れた湿地帯へと転移する。レベル帯は30くらい。ここら辺から特殊攻撃を使う敵が出てくるのだ。
例えばスライムの粘液攻撃。こちらを行動不能にしてくる初見殺しの技。
これ<全反射>を貫通するんじゃない?
「……なるほど、<全反射>をオフにしたいと言ってたのはそういうことか」
エニグマが白い目を向けてくる。
「なんとかならないかな。<全反射>さえなければやりたい放題……じゃなくてされたい放題なんだけど」
「あるわけないだろう。神聖な力にケチをつけるのはキミくらいのものだ」
設定画面さえ開ければオフにできるチートスキルなんですけどね。
認識の差異があった。
「スライムの特殊攻撃も反射すると思う?」
「わからないな。<全反射>の仕組みとして、魔法少女への加害性を検出するシステムが搭載されていて――」
エニグマはスキルの仕組みについて語りだす。なんか色々と裏設定があるんだなぁと相槌を打ちつつも、何を言っているのかはよくわからなかった。
「よ~し試してみよう!」
授業は好きじゃない。無理やり話を打ち切ってとりあえず実験してみることにした。
エニグマはまだ語りたかったのかちょっと不満そう。
周囲の湿原を見渡す。どこまでも広がるくすんだ緑の中に、大中小様々なスライムが生息していた。ねちょねちょとゲル状の身体が跳ね回っており、生ごみのような臭いがここまで漂ってくる。
近くの中型スライムに接近してみる。私と同じくらいの身長で、生い茂る草を全身で飲み込んでいた。食べたものに従って身体が緑になっていく。
スライムは最終的にプレイヤーを丸呑みしてくる。それが一部の変態に刺さったのか敵のくせに二次創作の頻出キャラである。
頭の上に感嘆符が出現し、こちらに気づく。私がステッキを手に取って戦闘態勢に入るとつぶらな瞳でじっと睨みつけてきた。
緊張の一瞬。
「SUUUUUUUUUUUUU――」
スライムは口から粘液を射出する。
私は避けない。正面から堂々と受け止める。
――べちゃっ。
胸に、ぬるぬるするものが付着した。
急いでウィンドウを開いてログを確認する。
<全反射>は起動していなかった。確かに粘液攻撃は命中している。
「――!」
歓喜で言葉が出ない。強くこぶしを握り締め、天に突き上げた。
「エニグマ見て見て! 粘液ぬるぬる!」
「満面の笑顔で最低の報告をするな」
「初めて<全反射>を突破した攻撃だよ! すごくない!」
「粘液攻撃はキミじゃなくて、キミの装備品を標的にしているんだろうな。だから加害性が認識されずに<全反射>が起動しない」
「これは一匹のモンスターにとっては小さな一歩だけど、人類にとっては大きな飛躍なんだよ」
「キミの胸は月面かなにか?」
ゲーム世界の精霊のくせに的確なツッコミだ。
「さあこいスライムアポロ号! 第二、第三の粘液着陸を目指して放ってくるのだ! <スピードアップ>!」
「……周囲に人がいない地域でよかったよ本当に」
素早さ上昇魔法をスライムにかけ、攻撃回数をあげさせる。
「SUSU! SUSU! SUSU!」
四倍速で粘液を飛ばしてきた。毎回ドピュッ、という効果音がするので連続射精系のエロゲを思い出す。心なしかスライムも搾り取られた竿役のような表情をしている気がする。
「まだまだ! 君の粘液力はそんなものなの⁉ もっとべたべたのぐちゃぐちゃにしてやろうって気合がたりないよ。<スピードアップ><スピードアップ><スピードアップ>!」
「SUSUSUSUSUSUSUSUSUSUSUSUSUSUSUSUSU!」
さらなる粘液の波状攻撃。絶え間ないべたべたが私の全身にまとわりついていく。粘液にはそれぞれ一ターン行動不能の効果がある。これだけ食らえばどれだけ拘束されるのだろう。
「SUSU……SUSU……SU……SU……」
さすがに息切れしてきたのか攻撃のペースが落ちてくる。<スピードアップ>をかけなおしても効果はなかった。枯れてゾンビみたいになった竿役みたく、両ほほがげっそりとやせ細っており、中型から小型スライムへと頭上の表記が変化していた。粘液を飛ばしすぎたのだろう。
名残惜しいけどこの辺で満足しよう。
さて一体どのくらいの粘液を食らったのか、バトルログを見て見よ……
「……あれ?」
おかしい。今、普通に腕を動かせた。
粘液による拘束状態のはずなんだけど。
というか、さっきも普通に<スピードアップ>を使えてたような……
バトルログを見ると疑問はすぐに解決した。
<全反射>は問題なく貫通している。ただ、そもそもこの身体の状態異常耐性が高すぎて粘液攻撃がことごとく効いていなかった。
たくさんぶっかけられた自分の身体を見下ろしても、どこにも粘液が残っていない。今まさに飛んできた粘液も、胸に付着するとすぐに蒸発して消え去ってしまった。
……ダメじゃん!
「エニグマ~なんか状態異常耐性が高すぎるんだけど~」
「レベルカンストなら当たり前だ。粘液攻撃は装備品を標的にしてるけど、状態異常事態はキミ自身への加害性だと認識される」
「なんとかして下げれない?」
「<全反射>と同じくパッシブスキルの一つだ。無理」
ぬ、ぬか喜びさせおって~~~~~~~~~っ!
情けない弱よわスライムをにらみつけるも、すでに身体の一部がゾル状に変化し、過呼吸になっていた。
「SU……susususu……」
「……搾り取りすぎちゃった?」
私、魔性のオンナ?
粘液を飛ばそうとしているけど、身体がピクピク動くばかりで出せていない。
「早くトドメを刺してやろう。かわいそうだ」
「<ファイアボール>」
用済みなので炎魔法で焼き尽くす。周囲の草むらにも火が付いたけど、湿地なのですぐに消火された。空虚な戦闘終了のSEがなり、経験値取得の画面が流れる。
悲しい。敵は<全反射>だけじゃなかった。
一周目でとれるスキルはコンプリートしてるので質が悪い。
落ち込んでいると、やってきたエニグマが鼻で笑った。
「ま、世界を救った魔法少女はそう簡単に負けないさ。わかったらさっさと帰って――」
「まだだよ」
しかし、私は諦めていなかった。
どんな時もくじけない。それが魔法少女ってものだから。
「スライムは一種類じゃない。もう一つ、あるでしょ」
「……あー」
すぐに察したのかジト目で見られるも気にしない。むしろそっちのほうが本命なんだ。
「そう、服だけを溶かすスライム! 露出プレイが私を待っている!」
「どこからその情熱がくるんだ」
「ワクワクが私を待っているからね!」
「もしかしてミューズの性格が悪魔合体してるのか……?」
そういえば本来のミューズちゃんは好奇心溢れるピュアな性格だ。そのせいで毎回厄介ごとに巻き込まれる体質でもある。私の内側からあふれ出るやる気、好奇心はミューズちゃんのものなんだろうか。ワクワク、はミューズちゃんの口癖だった。
服を溶かすスライム――スライムキング低確率でスポーンするレアモンスターだ。攻撃を食らえば露出Hシーンを見れるものの、装備をロストするのでゲーム攻略上においてウザいことこの上ない。バランス調整として普通にプレイしていたら遭遇しないほどに設定されていた。
「探しに行こう! この広い湿原すべてを!」
「……面倒」
「あはは~エニグマは頼りになるなぁ」
強引に腕をつかんで引っ張っていく。
魂が抜けたようなため息が聞こえてきた。




