第6話 三十五歳救助班長は在庫表を信じる
翌晩から、片桐は救助班の出動前に必ず搬入口へ顔を出すようになった。
「今夜の予備在庫を見せてくれ」
初日にそう言われて、私は反射的に紙の出庫表と実棚を並べた。すると彼は、数字が合っているかではなく、私がどの順番で確認するかを黙って見ていた。
「左から見ないんですね」
「現場で消えやすいものからです。回復薬、電池、結界杭、投光フレア」
「合理的だ」
ただそれだけのやり取りなのに、胸の奥が少し熱くなる。
昼勤の頃、私の在庫確認は「細かすぎる」と笑われていた。必要なときに足りない方が、よほど面倒なのに。
片桐は三十五歳。背が高く、無口で、救助班の若手たちから半分怖がられている。でも、倉庫の中でだけは声が柔らかい。
「大槻主任。救助班ロッカーの予備手袋、残数見えるか」
「九組のはずですが、実数は七です。右端の棚に破損品が混じってます」
確認に行った隊員が、「本当だ」と小さく叫んだ。
片桐は迷わず言う。
「今夜中に交換する。予算がどうとかは上に言わせておけ」
この人は、数字を守るために人を待たせない。
夜勤終わり、缶コーヒーを受け取りながら、私は思わず聞いていた。
「どうして、そんなに簡単に信じられるんですか」
片桐は少し考えてから答えた。
「信じてるのは能力そのものじゃない。君が、足りないものを足りないと言い切るところだ」
その言葉は、思っていたより深く刺さった。
私はずっと、数字を合わせろと言われてきた。
でもこの人は、合っていない数字を出す私を信用する。
初めての種類の信頼だった。




