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第39話 私の名前で出す決裁書
最終決裁の日、私は朝まで眠れなかった。
机の上には共同基準書、広域応援協定の修正版、外注契約停止通知、第三搬路の災害時再指定書。全部に責任者署名欄がある。
前の私は、そういう欄が怖かった。
名前を書いた瞬間、失敗したときの逃げ道まで一緒に消える気がしていたからだ。
でも片桐は、書類を見つめる私に静かに言った。
「君の名前で出せ」
「重いですよ」
「知ってる。でも、今の東港と雨港は、その重さを預けられる相手として君を見てる」
逃げ場のない励ましだ。
私は苦笑しながら、ペンを取った。
大槻茉尋。
一枚、また一枚。自分の名前で決裁を出していく。押しつけられた責任ではなく、自分で選んだ責任として。
最後の書類へ署名した瞬間、胸の奥に張りついていた何かが、ゆっくりほどけた。
「終わりました」
私が言うと、片桐はほんの少し目を細めた。
「じゃあ次は、朝飯だな」
その自然さに、思わず笑ってしまう。
仕事の先に朝飯がある。
それだけで、ずいぶんまともな未来に見えた。




