第40話 朝まで切れない補給線
新しい基準で回す最初の夜は、驚くほど静かだった。
静かな現場は、暇な現場じゃない。ただ無駄な混乱が減っただけだ。東港の出庫表と雨港の到着表が、朝四時の時点でほぼぴたりと合っている。共通ラベルは剥がされず、冷却箱は規格どおりに戻り、第三搬路は災害時専用として封印された。
《ラフギア》の三人が積み替えを終え、塚本がフォークリフトを止める。莉央は白板の数字を静かに映し、姉崎は監査用の最終印を押した。
「欠品ゼロ」
私が読み上げると、作戦室に小さな拍手が起きた。
大げさじゃない。だからこそ、嬉しかった。
夜明け前、片桐が紙袋を提げて搬入口へ入ってくる。今日は卵サンドじゃなく、温かいおにぎりだった。
「共同基準の初日記念」
「記念にしては地味ですね」
「君向きだろ」
否定できない。
私は湯気の立つおにぎりを受け取り、白板の最終欄へ新しい日付を書いた。東港、雨港、応援便、救助便。数字は静かに揃っている。
派手な勝利じゃない。
でも、朝まで切れない補給線があるというのは、それだけで十分すぎる成果だった。
「片桐さん」
「なんだ」
「今夜も、明日も、その次も。一緒に見ますか」
彼はいつもの短さで答える。
「そのつもりだ」
私は笑って、おにぎりを一口かじった。
数を数える仕事は、もう誰かに押しつけられるためのものじゃない。
必要な夜を、必要な順番でつなぐための仕事だ。
そしてその補給線は、ようやく朝まで切れなくなった。




