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第33話 姉崎監査官の夜間合同査察
姉崎の査察は、歩く速度まで無駄がない。
夜間合同査察が始まったのは、零時を少し過ぎた頃だった。東港、雨港、行政、救助班、そして夜間補給ハブ。関係者全員を夜に集めたのは、ズレが一番動く時間だからだ。
「昼に見せても意味がありません」
姉崎は最初にそう言い切った。
私は東港側の実棚と雨港側の搬送記録を同時に照合する。白板へ数字を書き出し、【棚卸】で見えた位置と比較する。
帳簿では東港から雨港へ解毒薬八箱。
実運搬は六箱。
差分二箱は第三搬路臨時保管庫経由。
数字が並んだ瞬間、雨港の職員たちがざわついた。
「スキャンログは八箱です」
「ログの方を書き換えています」
私は端末の履歴画面を開いた。夜間だけ、不自然に手動修正が入っている。修正権限は外注会社の運行管理端末からだ。
姉崎が静かに告げる。
「これで十分です。次は契約側を押さえます」
彼女は派手に怒鳴らない。だからこそ、その一言が重い。
監査の強さは、感情じゃなく証拠の厚みにある。
私はその横顔を見ながら、少しだけ安心した。
今回の数字は、もう一人で抱える数字じゃない。




