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第32話 臨時保管庫の空の棚

隠し倉庫へ踏み込んだとき、棚が空だとがっかりする人は多い。


 でも私は、空の棚が嫌いじゃない。


 何を置いていたか、どう並べていたか、何を急いで持ち出したか。残っていないこと自体が、十分な情報になるからだ。


 第三搬路の先にあった臨時保管庫は、まさにそういう場所だった。


 棚はほとんど空。けれど床の擦れ、結露跡、ラベル糊の残り方が綺麗すぎる。


「昨日まで使ってましたね」


 私が言うと、姉崎がしゃがみ込む。


「判断根拠は」


「冷却箱の結露輪が六つ。結界杭の箱痕が二列。右端だけ重い薬品棚の沈み方をしています」


 さらに白文字が、壁裏の細い引き出しを指した。中には回収し忘れた簡易伝票が五枚だけ残っている。差出人は湾岸サプライリンク、宛先は『地域貢献便』。


「その名前、まだ使ってたんですね」


 莉央が呆れたように言う。


「名前を変える気もないんでしょう」


 私は空の棚を見上げた。


 物資は逃げても、置き方の癖までは逃げない。


 雑に稼ぐ人間ほど、最後の詰めが甘い。


 だから空っぽでも、ここは十分にしゃべっていた。


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