第22話 海霧ダンジョンの共通規格
雨港ダンジョンは、東港より湿っている。
夜明け前の岸壁に立つと、海から上がってくる白い霧が補給車のライトまで薄く飲み込んでいた。連絡役の職員に案内され、私は雨港側の中継倉庫へ入る。
床に並んだ箱は整っているのに、眺めた瞬間、違和感があった。
「規格箱の高さが違います」
私が言うと、雨港の倉庫主任がきょとんとした。
「共通規格で揃えたはずですが」
私は箱の角を指で叩く。【棚卸】の白文字が即座に浮かぶ。
東港標準・高さ三十センチ。
雨港納品・高さ二十八センチ。
冷却材収納溝・欠落。
「外寸だけ合わせて、中の冷却溝が削られています。これだと温度が持ちません」
主任の顔色が変わる。隣にいた外注搬送会社《湾岸サプライリンク》の担当者が、営業用の笑顔を崩さず口を開いた。
「運搬効率を優先した軽量化です。現場には好評でして」
「現場が欲しいのは軽さじゃなくて、規定温度です」
私が箱を開けると、解毒薬の保冷材はすでに半分溶けていた。
片桐が低い声で問う。
「この仕様で、どれだけ回した」
担当者は曖昧に笑った。
「今月から順次」
「それ、最悪の答えです」
私ははっきり言った。共通規格という言葉は、数字がそろって初めて意味を持つ。見た目だけ似せても、夜を越える性能がなければただの偽物だ。
霧のせいじゃない。
最初から、この連携は雑に作られていた。




