第21話 広域応援便の依頼
補給線は、一つの港だけで完結しているように見えて、実際は隣の夜へつながっている。
東港夜間補給ハブが動き始めて三週間目の夜、私は雨で湿った搬入口で新しい依頼書を受け取った。差出人は雨港市ダンジョン対策室。内容は簡潔で、重い。
『広域応援協定の試験運用を依頼したい』
「急に来ましたね」
私が封書を閉じると、姉崎優奈が肩をすくめた。彼女は相変わらず灰色のコートをきちんと着こなし、書類の角までまっすぐそろえている。
「急がないと間に合わないんです。雨港側で冷却管理が崩れて、解毒薬の備蓄が不安定になっています」
片桐蓮が横から覗き込み、短く言った。
「いつから動く」
「今夜からです」
夜の行政は、やっぱり話が早い。
私は依頼書の裏面へ視線を落とした。応援便第一便。解毒薬六箱、冷却箱四台、簡易結界杭八本。必要量は妥当だ。けれど【棚卸】を使うと、白い文字が数字の周りで細く震えた。
解毒薬・残数十分。
冷却箱・実働二台。
「足りないのは薬じゃない」
「何が足りない」
「冷却箱です。帳簿では四台でも、動くのは二台しかありません」
姉崎が眉を上げる。
「まだ見てもいないのに?」
「見えるので」
私はためらわずに答えた。もう、この言い方を隠すつもりはない。
片桐は缶コーヒーを机に置きながら言った。
「なら、最初に見る場所は決まったな」
広域応援便は、派手な新制度じゃない。ただ隣の港で足りないものを、夜のうちに渡せるかどうかの話だ。
だからこそ、最初のズレを見過ごすわけにはいかなかった。




