第11話 行政監査は夜に来る
行政の人間は昼に来るものだと思っていた。
だから午前一時、灰色のコートを着た女性が搬入口へ現れたとき、少しだけ面食らった。
「東港市資源監査課の姉崎優奈です。三十一歳。夜勤対応で来ました」
年齢まで名乗るのが妙に正直だと思ったけれど、その目は笑っていない。
「配信と事故報告、両方見ました。在庫異常が多すぎます」
彼女は私の机に三枚の伝票を置いた。
「試します。ここにないはずの物を言い当ててください」
つまり、能力の裏取りだ。
私は伝票に触れ、視界に浮いた白文字を読む。
「魔力電池六本。搬入口ではなく、二階の点検棚奥。登録されていない簡易結界杭四本が、その下の工具箱にあります」
姉崎は無言で職員を走らせた。十分後、報告が戻る。
「……一致しました」
彼女は小さく息を吐いた。
「信じるしかなさそうですね」
「信じなくても構いません。数字が合えば十分です」
すると姉崎は、初めて少しだけ口元を緩めた。
「いいですね、その言い方。じゃあ私は数字を持って動きます。あなたはズレを出してください」
夜の行政は思っていたより話が早い。
彼女が持ってきた監査記録には、白鷺メディア案件だけ明らかに出庫量が多い月が並んでいた。しかも、その期間は私が昼勤主任だった時期にぴったり重なっている。
責任を押しつけるため、最初から私の席を使っていたのだ。
怒りはもう、熱くならない。
冷えて、よく見える。




