第7章:究極魔法と魔王との邂逅
レオンが放ったのは、もはや魔法という概念すら超越した、因果律そのものを書き換える究極の「聖絶」でした。
「ホーリーバレット・フルバースト――出力、2の20乗(1,048,576)倍」レオンの掌から放たれた白銀の極光は、指数関数的に増幅され、次元の壁さえも紙細工のように焼き切りながら星の深淵へと突き進みました。
マントル層に潜んでいた「星を喰らう者」の本体は、そのあまりの熱量と浄化の圧力に、自らの存在を維持する暇すら与えられず、瞬時にして単なる純粋なマナへと分解されていきます。
地殻を貫き、星の核まで到達した聖なる光は、寄生体に汚染されていたすべての細胞、すべての因果を、天文学的な出力をもって完全に消去しました。
ミレイユはお椀型の胸を激しく波打たせ、自身の魔導演算器が弾き出した異常な数値に目を見張ります。
「信じられない……。出力2の20乗……。一〇〇万倍を超える浄化の奔流が、星の深層を巡るすべての汚濁を『無』に帰しました。
論理的な予測を完全に逸脱した、文字通りの神域ですわ……!」シオンもまた、巨尻を震わせ、釣鐘型の胸を高く波打たせながら、その光の柱を恍惚とした表情で見つめていました。
「ああ……レオン様……。世界が、洗われていくようです。不浄な怨念も、一族の罪も、すべてがこの圧倒的な光の中に溶けて消えていく……。これが、真の救済なのですね」光が収まった後、そこには静寂だけが残されました。
大陸を蝕んでいた不気味な脈動は消え、代わりに大地からは、これまでにないほど瑞々しく、清浄な大気が溢れ出しています。
聖教公国の跡地、そしてこの星の全土において、病んでいたマナの循環はレオンの一撃によって完全に正常化されました。
「……掃除は終わった」レオンが静かに手を下ろすと、エルザたちは満足げに頷き、セレスは静かに微笑みました。
九人の英雄と、新たに加わったシオン。彼らの前には、腐敗も寄生も存在しない、真っ白な未来が広がっています。
星の深淵までを浄化した究極の一撃、2の20乗 1,048,576倍 の「ホーリーバレット・フルバースト」が放たれた直後、世界はその余りにも巨大すぎるエネルギーの揺り戻しに震えました。
浄化の光が収束し、静寂が訪れるはずの空間に、突如として次元の壁を無理やりこじ開けるような不吉な亀裂が走ります。
「……来たわね。この強大すぎる魔力に当てられて、深淵の王が引きずり出されたようね」
エルザが鋭い殺気を放ち、銀光の剣を構え直しました。
漆黒の亀裂から溢れ出したのは、先ほどの寄生体など比較にならないほど濃密で、完成された「暴力」とも呼べる圧倒的な魔圧。そこからゆっくりと姿を現したのは、禍々しい角を戴き、漆黒の外套を纏った「魔王」でした。
「……何事かと思えば。人間風情が星の核を弄び、余の眠りを妨げるとはな」
魔王の一言ごとに大気が軋み、地面に亀裂が入ります。その存在そのものが、この世界の理から逸脱した破壊の権身でした。
ミレイユはお椀型の胸を激しく波打たせ、解析結果を絶叫します。
「レオンさん! 解析不能……いえ、魔力値が測定限界を突破しています! 存在密度がこの世界の許容量を超えている……彼がここに居るだけで、周囲の時空が崩壊し始めていますわ!」
シオンもまた、授けられたばかりの全魔法を盾にするように展開し、巨尻を落ち着かせながら釣鐘型の胸を震わせました。
「レオン様、お気をつけください……! この者は、先ほどまでのゴミとは次元が違います。生と死の理を完全に統べる、真の終わりの王……!」
魔王は不遜な笑みを浮かべ、レオンを真っ直ぐに見据えました。
「面白い。その身に宿した光、余の闇とどちらが深いか……試させてもらうぞ」
九人の英雄とシオン、そしてレオン。
星を救ったばかりの彼らの前に立ち塞がる、世界最強の個体「魔王」。かつてない激戦の予感に、アランやバルクたちも「ようやく本物の掃除が始まるぜ」と不敵な笑みを浮かべました。
レオンは、周囲を圧する魔王の禍々しいプレッシャーなど存在しないかのように、軽く肩をすくめて見せました。そして、散歩の途中で近所の人にでも会ったかのような、あまりにも拍子抜けするほど軽い口調で問いかけました。
「なんか用かい?」
その一言に、殺気立っていたエルザやヴァレリアさえも一瞬動きを止め、魔王自身も虚を突かれたようにその不敵な笑みを硬直させました。
ミレイユはお椀型の胸を緊張で波打たせながらも、レオンのあまりの肝の据わり方に「……論理的な予測の範疇を超えていますわ」と呆気にとられています。シオンは、レオンの背後に隠れるようにしながら、豊かな釣鐘型の胸を震わせ、巨尻を落ち着かせてそのやり取りを見守りました。
「……貴様、余が何者か理解しておるのか? 星の深淵を揺るがしたその力を愛でてやろうと、わざわざ次元を超えて参じたのだぞ」
魔王の背後から噴き出す黒い炎が、屈辱に震えるように激しさを増します。しかしレオンは、耳を小指で掻きながら淡々と応じました。
「ああ、魔王だっけ? せっかく掃除が終わって綺麗になったところなんだ。これ以上、不穏な魔力で散らかさないでくれるかな。用がないなら、さっさと帰って寝るといい」
「……っ、この余に向かって、掃除の邪魔だと申すか……!」
魔王の額に青筋が浮かび、手元には漆黒の魔力が収束し始めました。一触即発の空気が漂いますが、レオンの「ただの邪魔者」として扱う態度は、数千年の歴史を誇る魔王のプライドを、力による破壊以上に深く傷つけていました。
アランが「がっはっは! レオン、そいつ完全に怒ってるぜ!」と笑い飛ばし、バルクも「魔王様もお掃除対象になりてえのか?」と挑発的に地面を叩きます。
レオンは、激昂して漆黒の魔力を練り上げた魔王に対し、ただ静かに右手をかざしました。
「さっきも言ったろ。不穏な魔力で散らかすなって」
その瞬間、レオンの掌がブラックホールのような超重力の特異点と化しました。
「な……!? 余の魔力が、強制的に……ッ!?」
魔王が驚愕に目を見開いたときには、すべてが遅すぎました。次元を震わせ、星を焼き尽くすはずだった魔王の膨大な闇の魔力が、レオンの「魔力吸収」によって一本の細い糸のように引きずり出され、渦を巻いてレオンの手の中へと吸い込まれていきます。
ミレイユはお椀型の胸を激しく波打たせ、解析結果に叫び声を上げました。
「レオンさん、吸収効率が100%を超えています! 魔王の存在核に直結する魔力源まで、一滴残らず吸い取っていますわ!」
シオンもまた、巨尻を落ち着かせながら、釣鐘型の胸を震わせてその光景に立ち尽くしました。
「信じられません……。世界の終焉を司る魔王が、ただの『魔力タンク』のように空っぽにされていくなんて……」
数秒後。
あれほど周囲を圧していた絶望的なプレッシャーは霧散し、そこには豪華な外套を纏っただけの、魔力を持たないただの「角の生えた男」が呆然と立ち尽くしていました。
「……余の、力が……余の魔力が、消えた……?」
魔王は震える自分の手を見つめ、膝を屈しました。数千年の研鑽も、数多の国を滅ぼした恐怖の魔力も、レオンの底知れぬ魔力容量の前には、砂漠に撒かれた一滴の水に過ぎなかったのです。
「さて、魔力もなくなったことだし、もう散らかしようがないね」
レオンは吸い取った膨大な魔力を一瞬で自身のマナへと変換し、何事もなかったかのように魔王を見下ろしました。
「がっはっは! 随分と身軽になったじゃねえか、魔王さんよ!」
バルクが肩を叩くと、魔力のない魔王はそのまま地面にへたり込みました。
「まぁせっかく来たんだ、飯でも食ってけよ」
レオンのあまりに寛大な、というか、もはや魔王を近所の迷子か何かのように扱う言葉に、魔力もプライドも吸い尽くされた魔王は、ただ呆然と頷くことしかできませんでした。
「あ、ああ……。飯、か……?」
「よし、全員掴まれ。戻るぞ」
レオンが指先を鳴らすと、十人の英雄たち、そして魔力ゼロになった魔王を包み込んで空間が歪みます。次の瞬間、一行はあの懐かしい、かつて盗賊に襲われ、レオンたちが救い出した村へと転移しました。
村は、ヴァレリアが誘致した商会との取引で以前にも増して活気にあふれ、市場には最高品質の食材が並んでいます。
「レオン様! 皆様! お帰りなさいませ!」
老村長が震えるほど喜んで駆け寄ってきます。レオンは軽く手を挙げると、村の広場にある大きな石造りのテーブルを指差しました。
「村長、腹が減った。最高の食材を揃えてくれ。今日は宴だ」
「はい! もちろんでございます! 今すぐ村中の料理人を集めます!」
村人たちが慌ただしく動き出し、エルザやヴァレリアも「ようやく一息つけるわね」と武器を預けて椅子に腰を下ろします。ミレイユはお椀型の胸を安堵の吐息で波打たせ、シオンは慣れない村の雰囲気に巨尻を落ち着かなげに揺らしつつも、レオンの隣で釣鐘型の胸を静かに上下させて微笑んでいます。
やがて、テーブルには村自慢の特産品を使った料理が並びました。
最高級の生ハム、香ばしく焼き上げられた肉料理、そして醸造所で作られたばかりの「初物」の酒。
「……これが、人間の食事か」
魔王は、かつて自分が滅ぼそうとした種族が作った料理を、震える手で口に運びました。
「がっはっは! 魔王さんよ、魔力よりこっちの方が力が出るぜ!」
バルクが豪快に笑いながら魔王の背中を叩き、アランとブライトが次々と酒を注ぎます。
夕暮れに染まる村の広場で、世界を救った十人と、かつて恐れられた魔王、そして笑顔の村人たちが入り混じり、賑やかな宴が始まりました。
レオンは無造作に右手をかざし、極低温の魔力で周囲の水分を瞬時に結晶化させました。
カチン、と心地よい音を立てて出来上がったのは、表面に美しい霜を纏った、見た目にも涼やかな氷のジョッキが11個。レオンはそれらに、村特製の黄金色に輝くエールを並々と注ぎ入れました。
「さあ、飲もう。今日は格別だ」
レオンは、かつての敵である魔王も含め、一人ひとりに冷えたジョッキを勧めて回ります。
「うわぁ、冷たくて美味しそう! さすがレオンさんね!」
セレスが嬉しそうにジョッキを受け取り、隣でミレイユがお椀型の胸を躍らせながら、その冷却温度の完璧さを分析しつつ「論理的に見て、今この瞬間の最適解ですね」と微笑みます。
シオンは、レオンの手から直接手渡されたことに頬を赤らめました。巨尻を落ち着かせ、釣鐘型の胸を恥じらいで小さく波打たせながら、しとやかな所作でジョッキを捧げ持ちます。
「……ありがとうございます、レオン様。わたくし、このような幸せな時間は初めてですわ」
魔力のない「ただの男」となった魔王は、手渡された氷のジョッキのあまりの冷たさに驚きながらも、恐る恐る口をつけました。
「……っ! くっ、喉を焼くようなこの刺激……これが、人間の『喜び』というものか」
「がっはっは! 堅苦しいことは抜きだ、魔王さんよ! 乾杯だ!」
バルクとバルトが豪快にジョッキをぶつけ合い、アラン、ブライト、ヴァレリア、エルザも次々とジョッキを掲げます。
夕日に照らされた広場で、11個の氷のジョッキが重なり合い、清涼な音を立てました。
「乾杯!!」
十人の英雄と、一人の元魔王。彼らの笑い声は、かつて略奪の影に怯えていた村の隅々まで、温かな平和の音色として響き渡っていきました。
「了解したわ、レオン。魔王さん、あんまり怯えないでね?」
セレスはいたずらっぽく微笑むと、氷の魔法で冷やしていた最高級の肉を、今度は魔力で精密に温度調整した熱源の上へと並べました。
ジューッという食欲をそそる音と共に、芳醇な肉汁の香りが広場いっぱいに広がります。セレスは氷のジョッキを片手に、絶妙な焼き加減で肉をひっくり返していき、最も美味しい状態の切り身を、困惑している魔王の皿へと次々に放り込みました。
「ほら、冷めないうちに食べて。人間の『美味』に負けても、誰も笑わないわよ」
魔王は、氷のように冷徹だったセレスが、今は温かな炎の前で自分をもてなしているという事実に、不思議な敗北感とそれ以上の安らぎを感じていました。
「……あ、ああ。いただくとする」
魔王が、セレスの焼いた肉を口に運び、その旨味に目を見開くのを見て、仲間たちから温かな笑い声が上がります。
ミレイユはお椀型の胸を安堵で膨らませ、シオンは巨尻を落ち着かせて、レオンの隣で釣鐘型の胸を静かに上下させながら、セレスの手際の良さに感心していました。
「セレスの料理は格別だろ? さあ、魔王。遠慮せずにもっと食え」
レオンがさらにエールを注ぎ足すと、魔王の顔にもようやく、魔力に頼らない「人間らしい」微笑みが浮かび始めました。
レオンは宴が盛り上がる中、村の貯蔵庫から特別に運び出させた一本のボトルを取り出しました。それは、村で蒸留された原酒を、バルクとバルトがその持てる技術の粋を集めて作り上げた「超高圧・超振動魔道具」の中に封じ込め、熟成させた究極のウィスキーでした。
バルクが地底の圧力を再現する重力制御を施し、バルトが分子構造を最適化させる精密な振動魔法を刻み込んだその魔道具は、わずか数日で数十年分の熟成を原酒に与える代物です。
「魔王、肉の後はこれだ。村の酒を、バルクとバルトが作った魔道具で仕上げた特別な一品だ」
レオンが琥珀色に輝くその液体を氷のジョッキに注ぐと、広場一帯に深く重厚な、ナッツと蜂蜜が混ざり合ったような芳醇な香りが漂いました。
「がっはっは! 俺たちの魔道具の性能、その舌で味わいな!」
「理論上、最高純度の熟成具合だ。驚くなよ」
バルクとバルトが自信満々に胸を叩きます。
魔王が一口、その液体を喉へと流し込むと、その瞬間に衝撃が走りました。
「……っ!? ……な、何だ、これは……!?」
魔王は衝撃のあまり、ジョッキを持ったまま硬直しました。舌の上で爆発するような重厚なコクと、荒々しさが完全に消え去った滑らかな喉越し。魔力という強大な力にのみ執着してきた数千年の生涯の中で、これほどまでに洗練された「感覚の結晶」にさらされたことはありませんでした。
「あまりの……あまりの旨さに、魂が震える。ただの酒が、これほどの工芸品のような深みを宿すとは。バルク、バルト……貴様らの技術、恐れ入ったぞ……!」
魔王は感極まったように叫び、震える手で再びウィスキーを口にしました。あまりの旨さに、魔王の目からはポロリと一筋の涙がこぼれ落ちました。
ミレイユはお椀型の胸を誇らしげに揺らしながら、「物理的な圧力と分子振動の完璧な調和ですね」と満足げに頷きました。シオンもまた、レオンの隣で釣鐘型の胸を静かに上下させ、巨尻を落ち着かせながら、魔王の驚きようを微笑ましそうに見守っています。
「気に入ったなら、そのボトルは君にやるよ。魔力のない人生も、案外悪くないだろう?」
レオンの言葉に、魔王は大事そうにボトルを抱え、深く、深く頭を下げました。
レオンが氷のジョッキを傾けながら、ふと思いついたように提案しました。
「ヴァレリア、魔族の国と貿易してみてはどうだ? 彼らも意外とうまいものを食っているかもしれないしな」
その言葉に、商会との折衝を終えて寛いでいたヴァレリアが、赤い瞳を鋭く輝かせました。
「魔族との貿易か……。確かに、彼らの領地にしか自生しない魔導植物や、深淵で採れる希少な鉱石は商売の種としては最高だ。それに、魔王様がこのウィスキーにあれだけ感動したんだ。あっちの連中にこの味を教えれば、市場は一気に独占できるな」
ヴァレリアは口元に不敵な笑みを浮かべ、早くも頭の中で利益の計算を始めました。
「面白いじゃない。魔族の食文化か……。猛毒のキノコを極上の珍味に変える調理法とか、興味深い技術があるかもしれないわね」
セレスが肉を焼きながら興味を示し、ミレイユもお椀型の胸を躍らせて賛同します。
「論理的に見て、未知の市場を開拓することは大陸全体の経済活性化に繋がります。魔族の国の生態系データ、ぜひ収集したいところですわ」
シオンは巨尻を落ち着かせ、釣鐘型の胸を静かに上下させながら魔王の方を見やりました。
「魔王様がこちらの文化を認められたのですから、あちらの方々もきっと、正しい交流を望まれるはずですわね」
魔力のない「ただの男」としてウィスキーを大切に抱えていた魔王は、ヴァレリアの視線に少し気圧されながらも、真剣な表情で頷きました。
「……余の国には、灼熱の地底でしか育たぬ『獄炎果実』というものがある。あれを適切に加工すれば、これまでにない刺激的な酒ができるかもしれん。……ヴァレリアと言ったか。余が橋渡しをしよう。貴様らの技術と、我が国の素材があれば……世界はもっと面白くなるはずだ」
「決まりね。じゃあ、まずはその果実の独占販売権から話し合いましょうか」
ヴァレリアが魔王の隣に座り込み、具体的な商談を始めようとする姿を見て、アランやバルクたちが「もう仕事の話かよ!」と笑い声を上げました。
レオンの言葉に、広場を包んでいた賑やかな空気も、どこか穏やかで温かいものへと変わりました。
「今日はみんないろいろあって疲れただろう? シオンなんか死にかけたもんな。眠い奴は休んでいいぞ」
その気遣いに、シオンは釣鐘型の胸をキュッと締め付けられるような愛おしさを感じ、潤んだ瞳でレオンを見つめました。巨尻を預けていた椅子から立ち上がると、しとやかに頭を下げます。
「……お気遣い、痛み入ります。ええ、死の淵で見た暗闇よりも、今ここで皆様と見上げる星空の方が、ずっと眩しくて……。少し、胸がいっぱいですわ」
彼女はレオンの慈悲深さに改めて触れ、心からの安堵と共に、心地よい疲れに身を任せることにしたようです。
「そうね、私も今日は少し剣を振りすぎたわ。レオン、お言葉に甘えて先に休ませてもらうわね」
エルザが軽く伸びをしながら立ち上がり、それに続くようにセレスやヴァレリアも、明日への活力を蓄えるべく宿舎へと向かいます。
ミレイユはお椀型の胸を静かな吐息で上下させ、「脳の演算リソースも限界です。おやすみなさい、レオンさん」と微笑んで席を立ちました。
魔力のない魔王は、大切そうにウィスキーのボトルを抱えたまま、村人が用意したふかふかの寝床へと案内されていきました。バルクやバルト、アランたちも「じゃあな、レオン! 明日もまた美味いもん食おうぜ!」と豪快に手を振って去っていきます。
一人、また一人と静かになっていく広場で、焚き火の爆ぜる音だけが心地よく響いています。
「……さて、僕も少し夜風に当たってから休むとするか」
誰もがいなくなった静かな広場で、焚き火の爆ぜる音だけがパチパチと夜の静寂に溶け込んでいきます。
レオンは最後の一杯をゆっくりと飲み干すと、手の中にある氷のジョッキを魔力で霧へと戻しました。空を見上げれば、かつて不浄な魔力で濁っていた星空が、今は嘘のように澄み渡り、天の川がくっきりと横たわっています。
ふと気配を感じて振り返ると、そこには宿舎へ向かったはずのシオンが、薄い夜着を羽織って立ち尽くしていました。
「……シオン、どうした? 眠れないのか」
「いえ、その……レオン様が一人でいらっしゃるのが見えましたので。つい、もう一度お顔が見たくなってしまいまして……」
彼女は巨尻を落ち着かなげに揺らし、夜風に揺れる釣鐘型の胸を両手でそっと押さえながら、照れたように微笑みました。レオンの隣に腰掛けた彼女からは、石鹸の清々しい香りと、授けられた魔力の清らかな残り香が漂ってきます。
「レオン様。わたくし、今日という日を一生忘れません。絶望の淵から救ってくださったこと、そして、こんなにも温かな場所を教えてくださったこと……」
シオンはそっとレオンの腕に自身の細い指を重ねました。その体温は、先ほどまでの激しい戦いが現実であったことを、そして今この平穏が本物であることを、何よりも雄弁に物語っていました。
「ああ。これからは、死者の声ではなく、生きて笑う者たちの声を聴いて過ごすといい。君にはその権利がある」
レオンの言葉に、シオンは幸せそうに目を細め、その豊かな胸を安堵で震わせました。
翌朝。
村の鶏の声と共に、新しい一日が始まりました。広場に集まった仲間たちは、昨夜の疲れを感じさせない晴れやかな顔をしています。
「さあ、ヴァレリア。魔族の国との商談、さっそく準備を始めようか」
「ええ、任せて。あっちの特産品を全部買い叩いて、大陸一の商会にしてみせるわ」
魔王は、漆黒の外套を翻しながらヴァレリアの隣に立ち、その圧倒的な魔圧を微かに漂わせたまま不敵に笑いました。
「余の国の『獄炎果実』……人間どもが腰を抜かさぬよう、精々覚悟しておくことだな」
魔王はレオンの力を認め、対等な「交流相手」として、その強大な魔力を保ったまま新たな時代の扉を開く決意をしたようです。
レオン、十人の仲間、そして魔王。
彼らを乗せた馬車が村を出発し、地平線の向こう、まだ見ぬ未知の国々へと続く街道をゆっくりと進み始めました。
レオンは出発の寸前、足を止めてヴァレリアを呼び寄せました。
「ヴァレリア、商会の全権は君に任せる。魔王との交渉、そして魔族の国との販路開拓……君の商才なら、大陸の勢力図を塗り替えられるはずだ」
ヴァレリアは不敵な笑みを浮かべ、赤い瞳を鋭く輝かせました。
「ええ、任せておいて。魔王様を相手に、これまでにない巨大な利益を引っ張ってきてみせるわ。……さて、魔王様。まずは独占販売権と、あちらの国の通行安全保障について、みっちりと詰めさせてもらえるかしら?」
レオンに紹介されたヴァレリアの、魔王を前にしても一切物怖じしない商売人としての覇気に、魔王は感心したように頷きました。
「よかろう。余の魔圧を前にしてなお、利益を語るか。……面白い女だ。ヴァレリア、貴殿を余の国の正式な国賓として迎えよう」
魔王は漆黒の外套を大きく翻し、最後にレオンへと視線を向けました。
「レオン。貴様という存在を知り、この世界が少しだけ退屈ではなくなった。……次に出会う時、余をまた驚かせてみせよ。再会を楽しみにしているぞ」
魔王が指先を鳴らすと、空間に巨大な漆黒の亀裂が走り、彼はその深淵の中へと悠然と姿を消していきました。
「……さて、一区切りついたな。ヴァレリア、頼んだぞ」
レオンはヴァレリアを残し、残りの九人を集めると、即座に魔力を練り上げました。ミレイユはお椀型の胸を波打たせながら次なる標的の座標を空間に投影し、シオンも巨尻を落ち着かせ、釣鐘型の胸を静かに上下させてレオンの背後に控えます。
「レオンさん、聖教公国の崩壊に乗じて、北部の境界付近で『聖騎士の崩れ』が略奪を開始しました。放置すれば村が一つ消えます」
「馬車なんて待ってられないな。一瞬で終わらせるぞ」
レオンが指先を鳴らすと、十人の姿は一瞬で空間から掻き消えました。次の瞬間、彼らが降り立ったのは、略奪者が村を囲もうとしている北部の最前線。
「サーチ・フルバースト。……ゴミの配置は把握した」
レオンの冷徹な声と共に、逃げ惑う人々を嘲笑っていた略奪者たちの頭上に、死の宣告にも等しい魔力の渦が展開されます。
レオンは村を包囲しようとする略奪者たちを冷ややかに一瞥すると、隣に立つシオンに視線を送りました。
「シオン、君の役目だ。君が呼び出した死霊たちに、浄化の光『ホーリーバレット』を撃たせてみてくれ。因果の逆転――死者が生者を守り、不浄が聖なる光を放つ。面白い試みだろ?」
シオンは驚きに釣鐘型の胸を大きく跳ねさせましたが、レオンの信頼に応えるべく、即座に魔力を練り上げました。彼女が細い指先を地に向け、亡き一族の無念を浄化の力へと変換して呼びかけると、地面から透き通った銀色の光を纏う死霊たちが次々と姿を現します。
「……いきますわ。皆さま、レオン様から授かった光で、あの者たちを浄化なさい!」
シオンが巨尻を落ち着かせ、釣鐘型の胸を気高く上下させて指揮を執ると、本来なら闇の魔力しか持たないはずの死霊たちの手元に、純白の「ホーリーバレット」が凝縮されていきました。
「な、なんだ!? 死霊が聖なる魔法を……ぎゃああああっ!」
放たれた無数の光弾は、略奪に狂っていた聖騎士の崩れたちを正確に撃ち抜いていきます。不浄な魂が浄化の光に焼かれ、村を襲おうとしていた軍勢は、反撃の隙すら与えられずに次々と灰へと変わっていきました。
ミレイユはお椀型の胸を興奮で波打たせ、その異質な魔法現象を記録します。
「論理的な矛盾を魔法式で強引に解決しています……! 死霊という負のエネルギーを媒体に、正の浄化魔法を放つ。シオンさん、素晴らしい適応力ですわ」
シオンは全ての敵が消滅したのを確認すると、安堵で肩を落とし、釣鐘型の胸を静かに上下させながらレオンを見つめました。
「レオン様……できましたわ。わたくしたち一族の魔力が、初めて誰かを救うための光になりました……」
「ああ、上出来だ。これでもう、この場所も綺麗になったな」
レオンは満足げに頷くと、怯えていた村人たちが感謝の声を上げるのも待たず、次なる不浄の座標へと意識を向けました。
「さあ、掃除の続きだ」




