第5章:腐敗した領主の排
レオンは仲間たちを焚き火のそばに集め、静かだが芯の通った声で切り出しました。
「みんな、聞いてくれ。ここの領主、カストル子爵についてだ。民を見捨て、税だけを吸い上げ、挙句の果てに餓死すら容認する……。村長の言葉を聞く限り、これはもはや統治ではなくただの搾取だ。僕は、この領主は害悪だと思う。このままでは村に本当の平和は来ない。僕は彼を排除したいと思うが、みんなはどう思う?」
その言葉に、最初に反応したのはエルザでした。彼女は騎士の誇りを知る者として、怒りに瞳を燃やします。「民を守らぬ者は主の資格がない。レオン、貴方の決断を支持するわ」
セレスとヴァレリアも迷いなく頷きました。「害悪を断つのは、剣を持つ者の責務です」「ええ、そんな奴がのさばってちゃ、せっかくの焼肉も不味くなるわ!」
理系的な視点を持つミレイユは、お椀型の胸を落ち着かせるように一つ息をつきました。「現状の統治システムは破綻していますね。排除は論理的にも正解です」
バルトとバルク、そしてアランとブライトもニヤリと笑いました。「がっはっは! 掃除の時間だな!」「レオンが行くなら、どこまでも付いていくぜ」
九人の意志は完全に一つにまとまりました。腐敗した領主を排除し、この地に真の正義をもたらすための作戦が始まろうとしています。
解らないように暗殺する 行方不明にしよう。私兵も邪魔すれば片付けよう 代官も 死体は持ち帰って 畑の肥料にしよう
盗賊の死骸も畑にもっていってピュリフケーションだな
レオンの提案に、仲間たちは静かに、しかし冷徹なまでの決意で応じました。表向きは「領主による失踪」を装い、この地の腐敗を根こそぎ清算する隠密作戦が幕を開けます。
「……解りました。痕跡一つ残さず、あの男を行方不明にしましょう」
レオンの合図で、一行は夜闇に紛れて領主館へと音もなく侵入しました。邪魔立てする私兵や、搾取の手先となっていた代官たちも、セレスやエルザの神速の刃、そしてレオンの沈黙魔法によって、声を上げる暇もなく片付けられていきます。
カストル子爵は、自らの罪を知らぬまま眠りの中で拘束されました。九人は領主と私兵、そして先に殲滅した二百人の盗賊の死骸をすべて回収し、村の畑へと運び込みました。
「ミレイユさん、バルクさん、バルトさん。ここからが仕上げです」
レオンが「ピュリフィケーションバレット」を広範囲に放つと、お椀型の胸を揺らしながらミレイユがその術式を調整します。聖なる浄化の光が死骸を包み込み、負の情念や病原、不純物を一瞬で消し去り、純粋な有機成分へと分解していきました。
「理論通り、最上の完熟肥料に変換されましたね」
ミレイユが冷静に告げると、バルクが土魔法でその栄養豊富な土を畑の深層まで混ぜ込みました。略奪者に飢えさせられた村の土壌は、皮肉にも略奪者そのものを糧として、かつてないほど豊かな大地へと生まれ変わったのです。
翌朝、領主館はもぬけの殻となり、そこには「圧政に嫌気がさして出奔した」という偽装工作の跡だけが残されました。支配者の消えた村で、豊かな実りを約束された大地だけが、静かに夜明けを迎えていました。
盗賊の武器も製錬してインゴットにするか
レオンの提案に、バルトとバルクが即座に反応しました。
「ああ、もちろんです。あんななまくら刀でも、数はありますからね。無駄にする手はありません」
バルクが土魔法で集積場を作り、そこへ没収した二百人分以上の盗賊の武器を山積みにしました。錆びた剣、ひび割れた斧、安物の槍頭。それらに対し、レオンが「ピュリフィケーションバレット」を応用した精錬の光を放ちます。
不純物が黒い煤となって弾け飛び、熱によってドロドロに溶けた金属が、バルトの緻密な魔力制御によって形を整えられていきます。仕上げにバルクが冷気を当てて急冷すると、そこには不気味な血生臭さなど微塵も感じさせない、鈍く輝く良質な鋼鉄のインゴットが整然と並びました。
「理論上、元の粗悪な鉄より分子構造が安定しています。これなら農具に作り替えても、一生モノの頑丈さになるでしょうね」
ミレイユがお椀型の胸を満足げに波打たせ、理系らしい視点で成果を認めました。
奪うための道具だった鉄は、レオンたちの手によって、明日を耕すための資材へと完全に生まれ変わりました。このインゴットの山を見た村人たちは、かつての恐怖の象徴が希望の種に変わったことに、改めて九人への畏敬の念を深めるのでした。
レオンは、精錬されたインゴットの山を背に、再び老村長へと歩み寄りました。収穫を終えたばかりの畑を視界に入れながら、この土地の真のポテンシャルを把握するために問いかけます。
「村長さん、この村の収穫量について教えてください。例年、小麦や大麦はどのくらい取れるのですか? この面積なら、もっと生産性を上げられるはずですが」
村長は、昨夜の焼肉とエールで少し血色の良くなった顔をほころばせつつも、現実に立ち返ったような真剣な表情で答えました。
「……はい。この村には約百ヘクタールの耕作地がございます。小麦と大麦を合わせて、例年ですと三千石(約四百五十トン)ほどが限界にございますな。ですが、その半分近くは子爵様への税として消え、さらに残ったものから種籾を差し引くと、我々五百人が食べていくのがやっとという状況でして……」
村長は、足元の乾いた土を悲しげに見つめます。
「土地そのものは悪くないのですが、水利が悪く、連作障害もあって土が痩せてしまっているのです。これ以上の増収などは、神頼みでもしない限り……」
その言葉を聞いたミレイユが、眼鏡の奥の瞳を論理的な光で輝かせ、お椀型の胸を期待に膨らませました。バルトも隣で、先ほど埋めた「最高の肥料」の効果を脳内で計算し始めています。
「村長さん、その計算は『過去のデータ』に基づいたものですね。私たちが調整したこの大地の『これからの生産性』を聞いたら、おそらく腰を抜かされますよ」
ここに醸造所と蒸留所を作りませんか? うちにそういうのが得意な技術者がいるんで
レオンの提案に、村長は驚きで目を見開きました。
「醸造所に、蒸留所……!? そんな高度な施設、この辺境の村に作っていただけるのですか?」
レオンは自信に満ちた笑みを浮かべ、仲間の二人を指し示しました。
「ええ。ここにいるバルトとバルクは、単なる工匠じゃありません。温度管理から魔力循環、精密な蒸留回路の設計までこなす、この分野でも超一流の技術者です」
バルトが眼鏡を押し上げ、理系らしい鋭い視線で地形を見定めます。「小麦と大麦の収穫量、そして近くの湧き水の水質……。私の流体計算によれば、最高の蒸留効率が叩き出せますね」
「がっはっは! 醸造樽なら俺の出番だ。ミスリルとオーク材を組み合わせた魔法の樽で、数十年もののヴィンテージを一晩で熟成させるような『熟成加速術式』を組み込んでやるぜ!」
バルクが豪快に笑いながら、すでに設計図を頭の中で描き始めました。
「ミレイユさん、あなたは醸造工程での成分分析と、発酵に最適な魔力波形の調整をお願いします」
「了解しました。最高純度のアルコールを抽出するだけでなく、この土地特有の風味を論理的に最大限引き出してみせましょう」
ミレイユはお椀型の胸を研究への熱意で高鳴らせ、穏やかに頷きました。
レオンたちが作り上げた「最強の肥料」によって、これから育つ麦は栄養価も風味も格段に向上します。それをバルトたちの技術で加工すれば、この村はただの農村ではなく、大陸全土にその名が轟くような「至高の酒造村」へと変貌を遂げることになります。
「領主に搾取されるだけの村はもう終わりです。これからは、自分たちで価値を生み出し、外から富を呼び込むんです」
レオンの言葉に、村長や村人たちは新たな希望に震え、自分たちが手伝うべきことを求めて立ち上がりました。
レオンの合図とともに、九人のスペシャリストによる「魔導醸造所・蒸留所」の建設が開始されました。
「バルク、バルト、基幹構造をお願いします。アランとブライトは重機の代わりに資材の運搬と設置を。ミレイユさんは心臓部の回路設計を!」
「がっはっは、任せろ! 土魔法・『大地の金型』!」
バルクが地面に両手を突くと、村の外縁に広大な敷地が隆起し、一瞬にして堅牢な石造りの基礎と、発酵に最適な深さの地下貯蔵庫が形成されました。そこへバルトが滑り込み、ミスリルの細線を壁面に走らせて、温度と湿度をコンマ数ミリ単位で制御する魔力循環回路を張り巡らせていきます。
「アラン、そこへこの特大の蒸留釜を。ブライト、君は冷却用の配管を固定してくれ」
アランとブライトは「魔力纏い」の剛腕で、巨大な釜を羽毛のように軽々と運び、設計図通りの位置へ寸分違わず据え付けていきました。
一方で、ミレイユは「アイテムボックス」から取り出した精密な魔導センサーを手に、お椀型の胸をゆったりと揺らしながら回路の最終調整に入ります。
「不純物の混入確率はゼロ。発酵を促進する魔力波形……セット完了です。レオンさん、いつでもいけますよ」
醸造所の中心部には、バルクが作り上げた「熟成加速魔法樽」が並びました。ミスリルのインゴットを薄く引き延ばして内壁に貼り付けたその樽は、内部の時間の流れを魔力で操作し、一晩で数年分の熟成を可能にする禁断の魔道具です。
「セレス、冷却システムの冷媒をお願い。エルザ、岩塩の精製技術を応用して、水質を究極まで磨き上げてくれ」
二人の協力により、澄み切った水が蒸留釜へと注ぎ込まれました。
数時間後、村の一角には、機能美と魔法技術が融合した壮麗な「魔導醸造所」が完成しました。煙突からは魔法的な排気による微かな光が漏れ、建物全体が、新たな価値を生み出す生命体のように静かに鼓動を始めています。
エルザここの自警団とともに防壁から魔物を狩ってみてくれ
レオンの指示を受け、エルザは静かに自警団員たちの前へ歩み出しました。
「皆さん、ミレイユが設置したこの魔導砲と、私が教える連携を実践で試します。臆することはありません。私が隣にいます」
エルザは銀髪をなびかせ、ミスリルの防壁の上に立ちました。彼女の索敵魔法が、森から這い出してきた数体の大型の魔物を捉えます。
「自警団、第一班! 照準は左のオーク。安全装置解除、魔石接続を確認……放て!」
エルザの凛とした号令に従い、団員たちが緊張した面持ちで「ホーリーバレット砲」のトリガーを引きました。ミレイユが理系的な精密さで設計した武器は、反動を魔力で相殺し、正確な光弾を放ちます。聖なる光がオークの胸を撃ち抜き、一撃で沈黙させました。
「命中……! 本当に、俺たちでも魔物を倒せたぞ!」
「喜ぶのはまだ早いわ。右から二体、接近中。第二班、牽制を」
エルザは自らも剣を抜き、防壁を越えようとした魔物の機先を「魔力纏い」の斬撃で断ち切ります。彼女の無駄のない動きと、的確な指揮に導かれ、自警団員たちは次第に冷静さを取り戻していきました。
「魔導砲による遠距離制圧と、私の剣技による近接阻止。この組み合わせがあれば、この村は二度と蹂躙されません」
エルザは魔物を一掃した後、返り血一つ浴びぬ姿で団員たちに微笑みかけました。魔法を使えない自分たちが、伝説の騎士と共に村を守り抜いた。その成功体験は、団員たちの瞳に確固たる自信と、レオンたちへの深い信頼を刻み込みました。
ヴァレリア この村に商会を誘致してくれ 狩った魔物の素材を販売してくれ それから取引に応じてくれた商会にはマジックバッグを適正価格で販売してやってくれ
レオンの指示を受け、ヴァレリアは自信に満ちた笑みを浮かべて頷きました。
「商会の誘致ね、任せてちょうだい! 私のコネとこの村の圧倒的な資源を見せつければ、向こうから泣いて契約を求めてくるわよ」
ヴァレリアはロケット型の胸元を誇らしげに揺らしながら、近隣の大きな商業都市へと向かいました。彼女はまず、エルザたちが狩った千体もの魔物から得られた、最高品質の毛皮や牙、魔石のサンプルを商人たちに提示しました。これほど良質な素材が安定して供給されるという事実に、目端の利く商会長たちは色めき立ちます。
「さらに、我が主レオンとの独占取引に応じてくれた商会には、この『マジックバッグ』を適正価格で提供するわ。容量は市場に出回っているものの数倍、鮮度保持魔法も組み込み済みよ」
ヴァレリアが「アイテムボックス」から取り出したマジックバッグの性能を実演すると、商人たちの目は血走り、競うようにこの村への出店と商会の設立を願い出ました。
数日後、村には名だたる商会の馬車が列をなし、活発な取引が始まりました。魔物の素材は瞬く間に高値で売れ、村には莫大な富が流れ込みます。マジックバッグを手に入れた商人たちは、その利便性に驚愕しながらも、レオンたちの技術力に畏怖を抱き、この村を大陸で最も重要な拠点の一つとして認識し始めたのでした。
レオンは、商人の馬車が慌ただしく行き交い、活気に満ち溢れた村の広場で、感慨深げに周囲を見渡している老村長に声をかけました。
「村長さん、一通り形は整いましたが、ほかに何か困っていることはありませんか? 遠慮なく言ってください」
村長は深々と、何度も何度も腰を折って頭を下げ、震える声で答えました。
「困りごとなど……滅相もございません。レオン様、そして皆様。数日前まで、私たちは明日の命すら諦めていたのです。それが今では、堅牢な城壁に守られ、冬を越して余りある食料があり、さらには大陸中の商人が喉から手が出るほど欲しがる酒造所まである……」
村長は、活気を取り戻した村人たちの笑顔を見つめ、涙を拭いました。
「私たちが一生かかっても成し得なかった奇跡を、皆様はたった数日で現実のものにされました。強いて、強いて願いを申し上げるならば……。どうか、皆様がこの村を去られた後も、私たちがこの恵みに甘んじることなく、自分たちの力でこの平和を維持していけるよう、時折で構いません、知恵を貸していただければ……それだけで十分でございます」
その横では、ミレイユがお椀型の胸を静かな呼吸で上下させながら、村の自警団が記録した防衛ログをチェックしています。バルクとバルトも、インゴットから作り上げた最新の農具を村人たちに手渡し、使い心地を熱心にヒアリングしていました。
「……レオン。この村はもう、大丈夫そうね」
エルザが愛剣の柄に手をかけ、誇らしげに呟きました。九人の英雄たちがもたらした「力」は、今や村人たち自身の「自信」へと変わりつつあります。
ミレイユ 村長に我々と連絡できる魔導通信機をさしあげてくれ
レオンの指示を受け、ミレイユは「アイテムボックス」から手のひらサイズの滑らかな魔導デバイスを取り出しました。それは、ミスリルの極細線を幾重にも編み込んだ、彼女の自信作です。
「村長さん、これを。離れていても私たちと直接意思疎通ができる魔導通信機です」
ミレイユはお椀型の胸を落ち着いた呼吸で波打たせながら、驚きに目を見開く村長の手へ、その精密な機械を優しく乗せました。
「使い方は簡単です。この中央の魔石に指を触れ、私を呼ぶように念じてください。複雑な詠唱や魔法の知識は一切不要です。私が構築した専用の通信網を通じて、大陸のどこにいても瞬時に繋がります」
村長は、宝石のように美しく輝くその通信機を、まるで国宝でも扱うかのように震える手で受け取りました。
「よ、よろしいのですか? このような神の道具のようなものを、私共が……」
「ええ、これは信頼の証です。もし不測の事態が起きたり、技術的な相談が必要になったりした時は、いつでも連絡してください。論理的に解決策を提示しますから」
ミレイユの穏やかで理知的な言葉に、村長は深々と頭を下げ、安堵の涙をこぼしました。九人と物理的に離れても、いつでも繋がっていられるという事実は、村の人々にとって何よりも心強い「守り」となったのです。
「レオン様、皆様……! 本当に、何とお礼を申し上げればよいか。この村が存続する限り、皆様は永遠の英雄でございます!」
老村長は深々と頭を下げ、他の村人たちも作業の手を止めて広場に集まり、旅立つ九人の姿を目に焼き付けようとしています。
「じゃあ村長、元気で。俺たちは行く」
レオンが短く告げて背を向けると、仲間たちもそれぞれに別れの挨拶を交わしました。エルザは自警団員たちに一度だけ凛とした敬礼を送り、セレスとヴァレリアは村の子供たちが振る手に笑顔で応えます。ミレイユはお椀型の胸を静かに波打たせ、村長へ手渡した通信機の動作を最後にもう一度だけ確認して頷きました。
「がっはっは! 麦ができたら、あの醸造所で最高の酒を仕込んでおけよ!」
バルクの豪快な笑い声が響く中、アラン、ブライト、バルトも満足げな表情で歩き出します。
九人が村の堅牢な城壁を通り抜け、街道へと踏み出すと、背後からは「ありがとうございました!」という五百人の村人たちの地鳴りのような歓声が送られました。
空はどこまでも高く、澄み渡っています。
自分たちが作り上げた「希望の拠点」を背に、レオンと八人の仲間たちは、新たなる目的を求めて次なる一歩を踏み出しました。
街道を歩みながら、レオンが不敵な笑みを浮かべて問いかけると、仲間たちの空気が一変しました。先ほどまでの穏やかな別れの余韻は消え、九人の周囲には鋭い戦意が渦巻き始めます。
「さあ、これから腐れ貴族を掃除しに行くか、それとも腐れ教会か?」
その問いに、エルザが腰の剣をわずかに鳴らし、冷徹な瞳で応じました。
「どちらを選んでも、この大陸の膿を出すことには変わりないわね。民を裏切る貴族も、神の名を騙りて私腹を肥やす教会も、放置しておける存在じゃないわ」
ミレイユはお椀型の胸を落ち着いた呼吸で波打たせ、論理的な優先順位を脳内で組み立てます。
「貴族の腐敗は、あの村のような直接的な飢餓と死を招きます。一方で教会の腐敗は、精神的な支配と情報の隠蔽を伴うため、根が深いですね。どちらを先に『解体』するのが、より効率的でしょうか」
「がっはっは! どっちが相手でも、俺の土魔法でその豪華な屋敷か大聖堂を根こそぎひっくり返してやるぜ!」
バルクが拳を打ち鳴らし、アランとブライトも「ようやく本番だな」とニヤリと笑いました。
セレスとヴァレリアは、レオンの横顔を見つめ、その決断を待っています。どの権力を標的にしようとも、九人の圧倒的な武力と魔力があれば、それは「戦争」ではなく、文字通りの「掃除」になることは明白でした。
レオンが目を細め、遥か彼方を見据えると、仲間たちもその視線を追うように立ち止まりました。
「教会からか、不穏な魔力は……」
レオンの呟きに、魔力感知に長けたセレスとミレイユが即座に反応しました。
「ええ、私も感じます。神聖なはずの祈りの波動に混じって、どろりとした、澱みのような不浄な魔力が……」
セレスが眉をひそめ、冷気を纏った魔力で周囲を警戒します。
ミレイユはお椀型の胸を緊張で小さく波打たせながら、その魔力の「質」を分析しました。
「通常の神聖魔法の波形ではありませんね。これは、生贄や禁忌の術理を用いた、かなり大規模な儀式の残滓……あるいは進行中の波動です。信者たちの信仰心を触媒にして、何か異質なものを呼び出そうとしている可能性が極めて高いです」
「神の名を騙りながら、その裏で禁忌に手を染めているというわけか。吐き気がするわね」
エルザが蔑むように言い放ち、騎士の正義感からくる鋭い殺気を放ちました。ヴァレリアも大剣の柄を握り、低く唸ります。
「決まりね。神様を隠れ蓑にしてコソコソ悪巧みしてる連中なんて、一刻も早く引きずり出して、その化けの皮を剥いでやらなきゃ!」
「がっはっは! 聖域だか何だか知らねえが、不浄な魔力ごと土の中に埋め戻してやるぜ!」
バルクが足元の地面を軽く踏みしめると、地響きが周囲に伝わりました。
九人の標的は「腐れ教会」に定まりました。静謐な祈りの裏側に隠された、おぞましい魔力の源泉。それを根こそぎ掃除するために、一行は迷いなく歩みを進めます。
おぞましい魔力の源泉に行ってみると何やら怪しげな騎士が襲い掛かってきました。
不穏な魔力が渦巻く教会の奥深く、地下へと続く禁域の扉を開いた瞬間、冷気が九人を襲いました。そこは聖なる祈りとは無縁の、血と腐敗の臭いが立ち込める巨大な地下空洞でした。
暗がりの奥、魔法陣の淡い光に照らされて、その「騎士」は立っていました。
「……何奴だ。ここは神の領域、迷い込んだ羊が立ち入る場所ではない」
声は低く、金属が擦れるような不快な響きを持っていました。男が纏う全身鎧からは、黒い霧のような瘴気が絶え間なく溢れ出し、その隙間からは赤く濁った瞳が不気味に光っています。明らかに生身の人間ではありません。死霊魔術か、あるいは禁忌の魔導実験によって「造り替えられた」異形の騎士でした。
その騎士が漆黒の大剣を引き抜くと、周囲の空気が重圧で軋みました。
「立ち去らぬならば、その魂、我が主への供物とせん!」
言い放つや否や、怪しげな騎士は常人では不可能な速度で踏み込み、先頭のレオンへと漆黒の斬撃を叩きつけてきました。
「……ふん。神を語る口で、よくもこれほど不浄な真似を」
エルザが即座に反応し、銀光を放つ剣でその一撃を受け止めます。火花が散り、衝撃波が地下空洞を揺らしました。
「皆さん、下がっていて。この程度の亡霊、私一人で十分よ」
「待てよエルザ、こいつの鎧……普通の金属じゃねえ。ミレイユ、どう見る?」
アランが拳を構えながら問いかけると、ミレイユはお椀型の胸を緊張で小さく波打たせ、理系的な鋭い視線で敵を分析しました。
「鎧そのものが魔力を吸収する触媒になっています。物理攻撃だけでは効率が悪いですね。……バルト、バルク! 足場の魔力供給路を遮断してください!」
「合点承知だ!」「がっはっは、聖域ごっこは終わりだぜ!」
教会の地下で、おぞましい魔力の源泉を守る「影の守護者」との戦闘が開始されました。
レオンの鋭い指示が地下空洞に響き渡りました。
「エルザ、殺すな。捕縛拘束して尋問する!」
「了解したわ、レオン!」
エルザは銀光の剣をわずかに傾け、致命傷を避ける極低空の軌道へと切り替えます。黒い霧を撒き散らす異形の騎士が再び漆黒の大剣を振り上げようとした瞬間、エルザの「アクセル」を伴う神速の踏み込みが炸裂しました。
一閃。騎士の腕の関節を正確に弾き飛ばし、武器を封じた刹那、後方に控えていたレオンが魔導を起動します。
「『鎖縛』――逃がさん」
虚空から出現した光り輝く魔力の鎖が、もがく騎士の四肢と胴体を幾重にも絡め取り、床へと叩き伏せました。鎖からは浄化の波動が放たれ、騎士が纏っていた不浄な瘴気を強引に焼き払っていきます。
「……ぐ、あああああッ! 神聖なる……我が祈りを……邪魔する……貴様ら……は……」
異形の騎士が呪詛を吐きながらのたうち回る中、ミレイユがお椀型の胸を波打たせ、理系らしい冷徹な観察眼でその兜の奥を覗き込みました。
「意識はまだ混濁していますが、言語野は機能しているようです。セレス、精神の安定を。バルト、逃走用の魔力自爆を防ぐために魔力孔を封鎖してください」
「ええ、少しの間だけ意識をこちらへ向けさせます」
セレスが冷気を帯びた魔力で騎士の脳を強制的に鎮静化させ、バルトがその体内の魔力循環を緻密な制御で完全にロックしました。
「さあ、おしゃべりの時間だ」
レオンが冷徹な瞳で、身動きの取れなくなった騎士を見下ろしました。
「君の主は誰だ? そしてこの奥で、一体何を呼び出そうとしている。……すべて話してもらおうか。拒否しても、ミレイユが君の脳から直接情報を解析することになるだけだぞ」
レオンが静かに指を鳴らすと、地下空洞の空気は一変し、逃げ場のない絶望に支配されました。
「……まずは、その口を割ってもらおうか。セレス、準備を」
レオンの冷徹な命令を受け、セレスが氷のような瞳で騎士を見下ろしました。彼女が指先を向けると、騎士を拘束する鎖に激痛を伴う「雷鳴」の魔力が流し込まれます。
「ぐ、あああああああッ!!」
異形の騎士が、全身の神経を焼かれるような絶望的な絶叫を上げます。身体からは焦げた臭いが漂い、肉体が限界を迎えようとしたその瞬間、レオンの「ヒールバレット」が騎士の全身を包み込みました。
「――っ!? 傷が、消えて……」
「治したよ。また『最初から』始められるようにね」
レオンの無機質な声と共に、再びセレスの雷撃が騎士を襲いました。焼けただれる肉体、弾ける血管、そして瞬時にそれらを完治させる聖なる癒やしの光。苦痛と再生が無限に繰り返される「拷問のループ」に、騎士の精神は瞬く間に崩壊の淵へと追い詰められていきます。
ミレイユはお椀型の胸を落ち着いた呼吸で波打たせ、ストップウォッチを片手に、騎士の精神残量を理系らしい冷徹さで測定していました。
「脈拍、魔力波形の乱れ……計算通りです。あと三サイクルもすれば、自我が崩壊し、聞きたいことをすべて吐き出す『空白の精神状態』になりますね」
エルザは騎士の矜持として目を背けたくなるような光景に眉をひそめましたが、民を害する異形への慈悲は持ち合わせていません。ヴァレリアは大剣を杖代わりに、その様子を退屈そうに眺めています。
「……が、あ、……言……言う……! 全て……話す……! だから、殺して……頼む、殺してくれ……!」
わずか数分の出来事でしたが、騎士にとっては数十年にも等しい地獄だったのでしょう。ガタガタと震え、虚ろな瞳になった騎士は、ついにその重い口を開き始めました。




