第4章:ナハト村の解放
殲滅作業が終わったかに思われたその時、地下墓地の最深部から重苦しいプレッシャーが放たれました。漆黒の鎧に身を包み、不浄な魔力を帯びた剣を構える「デスナイト」、そして首を脇に抱え、霊馬に跨った死の騎士「デュラハン」が現れたのです。
「……ッ、今までの有象無象とは格が違うわ!」
ヴァレリアが叫び、「マッスル」と「アクセル」を全開にして大剣を振り抜きます。しかし、デュラハンの放つ死の波動が彼女の動きを鈍らせ、強力な一撃が「マジックアーマー」を激しく火花とともに削りました。ヴァレリアはロケット型の豊かな胸を激しい鼓動で波打たせ、盾でその余波を防ぐのが精一杯です。
セレスもまた「アクセル」の神速でデスナイトの背後を取りますが、相手は予測していたかのように剣を背後で受け流し、強烈な蹴りを見舞いました。
「速い……それに、こちらの光魔法を霧散させてくるなんて!」
セレスは後方に飛び退き、余裕を失った表情で剣を構え直します。アンデッドの王を冠する彼らは、これまでの敵とは比較にならない防御力と、聖魔法への耐性を備えていました。二人は背中を合わせ、絶え間なく繰り出される死の刃の嵐に、かつてない苦戦を強いられます。
二人の苦戦を瞬時に察したレオンが、静かに天へと手をかざしました。
「セレスさん、ヴァレリアさん、下がってください。……一気に弱体化させます」
レオンの無詠唱の意思に応じ、地下墓地の天井付近に無数の光の魔法陣が展開されました。次の瞬間、極限まで圧縮された聖なる光の弾丸が、文字通り豪雨となって降り注いだのです。「ホーリーバレット・レイン」。
「なっ……これほどの規模を、無詠唱で……!?」
エルザが驚愕の声を上げる中、デスナイトとデュラハンは逃げ場のない光の雨に晒されました。不浄な鎧は次々と撃ち抜かれ、立ち昇る浄化の煙が彼らの魔力を削ぎ落としていきます。膝をつき、明らかに弱体化した死の騎士たち。
「今です! 二人でトドメを!」
レオンの号令に、セレスとヴァレリアが弾かれたように飛び出しました。セレスは「アクセル」の加速を乗せた光の刺突でデスナイトの胸に眠る中枢を貫き、ヴァレリアは「マッスル」の剛力を込めた一撃で、デュラハンの実体を断ち切りました。
激しい光と共に二体が消滅すると、そこには禍々しくも美しい紫色の魔石が二つ転がっていました。ヴァレリアはロケット型の豊かな胸を激しい呼吸で上下させながら、それを手際よく「アイテムボックス」へ回収します。
「……ふぅ、助かったわレオン。やっぱり貴方がいないと締まらないわね」
ヴァレリアの晴れやかな笑顔に、レオンもまた安堵の微笑みを返しました。
地下墓地の最深部、青白い炎が揺らめく不気味な祭壇で、一行はついに「死霊王リッチ」と対峙しました。リッチが禍々しい杖を掲げ、空間を凍てつかせる呪詛を紡ごうとした瞬間、格闘家のアランが光の弾丸と化して突っ込みました。
「貴様に魔法を唱えさせる暇など与えん!」
アランはセレスとヴァレリアから教わった聖魔法を独自の武術に組み込み、全身に眩いばかりの「光属性の魔力」を激しく纏わせました。物理無効の障壁すら聖なる光の圧力で強引に叩き割り、アランの拳がリッチの痩せこけた体に次々と着弾します。一撃ごとに浄化の衝撃が炸裂し、死霊王の体はなす術もなく空中で跳ね上がりました。
「おのれ……生身の拳が、なぜ我が魂を削る……!」
悶絶するリッチに対し、アランは容赦のないタコ殴りを浴びせ、その魔力供給源を完全に粉砕して弱らせました。死霊王が形を保つのが精一杯という絶好の機に、レオンが鋭く叫びます。
「セレスさん、今です!」
「……はい!」
セレスが「アクセル」を全開にし、一条の光となって駆け抜けました。光り輝く片手剣がリッチの喉元を正確に一閃。聖なる光に包まれた刃が死霊王の核を断ち切ると同時に、リッチの体は光の塵となって霧散しました。
その瞬間、宙に浮かんだ巨大な最上級魔石を、ヴァレリアが「アイテムボックス」を起動して鮮やかに回収しました。ロケット型の豊かな胸を勝利の昂揚で揺らし、彼女は満足げに微笑みます。
「ふふ、これでまた一つ大金が舞い込むわね」
静寂が戻った祭壇で、アランは静かに拳を収め、セレスは凛とした所作で剣を鞘に戻しました。その圧倒的な光景を目の当たりにしたエルザは、もはや驚愕を通り越し、震える声で立ち尽くしていました。
死霊王を討ち果たした後、レオンたちは廃都に散らばった無数のアンデッドの残滓から、魔石を一つ残らず回収しました。ヴァレリアが「アイテムボックス」を駆使し、広範囲の魔石を掃除機のように吸い込んでいく様は、まさに圧巻の一言です。
地上に戻った一行は、エルザを交えて街の馴染みの宿へと向かいました。宿の食堂で、エルザはレオンの前に真っ直ぐ立ち、騎士としての礼を尽くして深く頭を下げました。
「レオン殿……そして皆台。今日の戦いを見て、己の未熟さを痛感した。もし許されるなら、私も貴殿らの背を追い、その高みを目指したい。私を、仲間に入れてはくれないだろうか」
「もちろんです、エルザさん。あなたの高潔な剣技は、僕たちの力になります」
レオンが年長者への敬意を込めて快諾すると、宴が始まりました。八人のジョッキが勢いよくぶつかり合い、冷えたエールの泡が弾けます。
「エルザ、堅苦しいのは抜きよ。これからは戦友なんだから! 乾杯!」
ヴァレリアがロケット型の豊かな胸を昂揚で揺らして笑い、セレスも隣で優しく微笑みます。アラン、ブライト、バルク、バルトも、それぞれのやり方で新たな仲間を歓迎しました。八人となった最強のパーティは、勝利の美酒を酌み交わしながら、さらなる飛躍を誓い合うのでした。
廃都の攻略から数日、一行はさらなる高みを目指し、人里離れた平原で「レオンズブートキャンプ」を開始しました。
まずは技術の共有です。アランの「魔力纏い」と格闘術、ブライトの「斬撃」の極意、そしてエルザの洗練された一族伝来の剣技。これらを全員で教え合います。セレスは神速の踏み込みを伝え、ヴァレリアは重い一撃の乗せ方を指導しました。
続いて、レオンによる魔法講義です。
「全員、集中してください。僕の魔法をすべて、抜け漏れなく皆さんの魂に刻みます」
レオンは無詠唱の術式を一人ひとりに直接転送しました。
身体強化系: 「アクセル(速度)」「マッスル(剛力)」
防御系: 「マジックアーマー(魔力鎧)」
聖魔法系: 「ホーリーバレット」「ピュリフィケーションバレット」「ヒールバレット」「ホーリーバレット・レイン」
生活・特殊系: 「アイテムボックス」「クリーン」「ライト」
そして今回の目玉、新魔法「レビテーション(浮遊)」の伝授です。
「この魔法は重力を遮断し、風の魔力で推進力を得ます。コツは、風を纏う感覚です」
レオンの指導のもと、八人は一斉に魔力を解放しました。バルトは数式で浮力を安定させ、バルクは力任せに風を操り、ヴァレリアはロケット型の豊かな胸を昂揚で揺らしながらふわりと地面を離れます。
「いくわよ、みんな!」
ヴァレリアの声を合図に、八人は全身にエメラルド色の風を纏い、一陣の風となって大空へと舞い上がりました。
「……信じられない。空を飛ぶなんて、おとぎ話の世界だけだと思っていました」
銀髪を風になびかせ、エルザが感極まった声を上げます。
雲を突き抜け、眼下に広がる世界を見下ろしながら、最強の八人は空を自在に駆け巡りました。全員が全ての魔法と技術を共有した今、彼らに不可能という文字は存在しません。
大空を自在に駆け巡っていた八人は、森の奥深くから放たれる微かな、しかし切迫した魔力の乱れを感知しました。地上へ降り立つと、そこには一人の女性が倒れていました。
彼女の名はミレイユ。二十代半ばの、知的な面差しを残した魔道具技師です。しかし、その体は無残でした。実験の暴走か、あるいは強力な魔物の襲撃か、彼女の右腕は肩口から失われ、腹部にも深い裂傷を負っています。傍らには壊れかけた奇妙な機械が転がり、彼女の命の灯火は今にも消え入りそうでした。
「……誰、か……。まだ、この理論を……完成させ、なきゃ……」
意識を失いかけながらも、ミレイユは折れたペンを握りしめ、地面に魔法数式を刻もうとしています。その執念と悲痛な姿に、レオンはすぐさま駆け寄りました。
「セレスさん、ヴァレリアさん、エルザさん! 全員で『ヒールバレット』の最大出力を!」
レオンの号令と共に、八人の手が差し伸べられました。降り注ぐ聖なる光の雨がミレイユを包み込みます。失われた右腕の断面から肉が盛り上がり、骨が形成され、血管が繋がっていく……レオンの高度な術式共有を受けた全員による同時回復は、欠損すらも修復する神の業に等しいものでした。
数分後、傷一つない体で目を覚ましたミレイユは、信じられないものを見るように自分の右腕を動かしました。
「私の……腕が……。それに、この魔力の密度。あなたたちは一体……?」
目を覚ました女性、ミレイユは、二十七歳という大人の落ち着きと、知的な美しさを湛えた美人でした。彼女が身に纏うローブの下では、お椀型の柔らかな曲線を描く胸元が、安堵の呼吸と共にゆったりと上下しています。
「助けていただき、ありがとうございます……。私はミレイユ、魔道具の研究をしている者です。少し、計算が甘かったようですね」
彼女の話し方は、理系らしく理路整然としていながらも、耳に心地よい優しさを帯びていました。彼女がこの危険な森に踏み込んだのは、次世代の魔道具開発に不可欠な「ミスリル鉱石」の純粋な脈を探していたためだったと言います。
「既存の理論を飛躍させるには、どうしても高純度の導魔金属が必要なのです。ですが、単独での採取は……確率論的に言っても無謀でしたね」
自嘲気味に微笑む彼女ですが、その瞳にはまだ研究への情熱が死んでいません。レオンは彼女の知識と執念に敬意を払い、静かに語りかけました。
「ミレイユさん、その研究、僕たちと一緒に続けませんか? 私たちなら、ミスリルどころか、さらに希少な素材も提供できます。そして、あなたの理論を形にする技術者もここにいます」
ミレイユは、バルトやバルクといった専門家、そして圧倒的な魔力を湛えたレオンたちを見渡し、驚きに目を見開きました。
「……私の理論を、実装できる環境があるというのですか? それが事実なら、研究者としてこれ以上の幸運はありません」
こうして、知的な慈愛を湛えたミレイユが九人目の仲間として加わりました。
ミレイユを仲間に加えた一行は、彼女が切望していたミスリル鉱石の確保に乗り出しました。レオンは空中で静止し、全属性の魔力を周囲の自然へと溶け込ませます。
「皆さん、属性魔法を組み合わせた広域索敵を行います。水で地中の湿り気を、風で空洞の反響を、土で地層の硬度を、そして光で魔力の反応を探ります」
レオンの意識が地中深くへと浸透し、やがて一点の強い輝きを捉えました。
「見つけました。この直下、深度五十メートルに巨大なミスリル鉱脈があります」
レオンは即座に「土魔法」を発動し、硬い岩盤をバターのように柔らかく流動させて、垂直な坑道を一瞬で作り上げました。そして、掘り出した原石に含まれる不純物を「ピュリフィケーションバレット」の浄化光で焼き飛ばし、純度百パーセントのミスリルインゴットへと直接精製する神業を披露します。
「理論値を超えた精製速度です……。これなら数年かかる工程が数秒で終わる」
ミレイユが驚愕で胸を弾ませる中、レオンはその術式を全員に共有しました。
「レオンズブートキャンプ、延長戦です。全員で掘削と精製を行いましょう!」
全員がレオンのやり方を習得し、平原に魔法の光が乱舞しました。アランとブライトが土魔法で地層を割り、セレスとエルザが鋭い風で鉱石を切り出し、バルトとミレイユが精密な魔力制御で不純物を特定。そしてヴァレリアとバルクが、お椀型やロケット型の胸を昂揚で揺らしながら、強力な浄化光で次々と輝く銀色のインゴットを積み上げていきました。
数時間後、そこには小山のようなミスリルインゴットの山が築かれました。
「がっはっは! これだけあれば、国の一つや二つ、余裕で買えちまうな!」
バルクの豪快な笑い声が響き、九人は手に入れた莫大な富と素材を前に、次なる創造への期待に胸を膨らませました。
廃都の脅威を退けた一行でしたが、エルザの瞳にはまだ消えない炎が宿っていました。一族の誇りをかけて、かつて敗北を喫した地で自らの手で引導を渡すための「リベンジマッチ」を提案したのです。
「今の私なら、あの時見えなかったものが見える。……リベンジさせてほしい」
レオンは彼女の決意を尊重しつつ、新メンバーであるミレイユへ無詠唱魔法の全術式を余すことなく伝授しました。ミレイユはお椀型の胸を研究への熱意で揺らし、バルト、バルクと協力して「属性魔導砲」シリーズを開発。これらは魔法を使えない人々が自衛するための武器として量産され、予備も含めてすべて「アイテムボックス」へと厳重に保管されました。
そして再び足を踏み入れた廃都。エルザは先陣を切り、魔法を纏わせた一族伝来の剣術で、湧き上がる死霊騎士たちを次々と一刀両断にしていきます。
「はぁっ!」
鋭い踏み込みと共に放たれる斬撃がデスナイトを両断し、アランやブライト、セレス、ヴァレリア、レオンが流れるような連携で周囲の敵を圧倒します。ミレイユは、保管した魔導砲をこんな乱戦で無闇に使うことはせず、冷静に戦況を分析しながら、自ら習得した無詠唱魔法で的確に援護に回りました。
後方ではバルクとバルトが、倒したアンデッドが霧散する瞬間にこぼれ落ちる魔石を、一つ残らず手際よく回収していきます。
「がっはっは! 良い魔石がゴロゴロ転がってやがるぜ!」
「効率的ですね。エルザさんの剣撃の軌道に合わせて回収ルートを計算しました」
エルザは最後に残った大型個体を自らの剣で葬り去り、晴れやかな表情で剣を収めました。リベンジを完璧な勝利で飾り、最上級から下級まで山のような魔石を手に入れた最強の九人は、廃都を完全に「浄化」された安息の地へと変えたのでした。
廃都を後にした九人が大空を駆けていると、眼下の平原に位置する五百人規模の村から、黒い煙が上がっているのが見えました。二百人もの武装した盗賊団が村を包囲し、略奪と破壊の限りを尽くそうとしていたのです。
「皆さん、降下します。村人に犠牲が出る前に制圧しましょう」
レオンの号令と共に、九人は空から一陣の風となって村の中央へ舞い降りました。突然の「空飛ぶ強者たち」の出現に、盗賊たちが色を失い立ち止まります。
「なんだ、こいつら……!? 構わねえ、殺せ!」
九人は空から苛烈な勢いで舞い降り、村を蹂躙しようとしていた二百人の盗賊団を瞬く間に制圧しました。
先陣を切ったエルザとセレスが神速の剣技で賊の武器を次々と叩き折り、アランとブライトが魔力を纏った一撃で賊の群れを次々と吹き飛ばしていきます。ヴァレリアはロケット型の胸元を昂揚で揺らしながら大剣を振るい、バルトとバルクが土魔法で退路を完璧に遮断。仕上げにレオンが放った広域拘束魔法によって、二百人の盗賊は一人残らず地面に組み伏せられ、殲滅されました。
賊が完全に排除され、村に静寂と安全が戻ったのを確認してから、九人は怯えていた村人たちを広場に集めました。セレスやミレイユが「ヒールバレット」を負傷者に放ち、裂傷や打撲を瞬時に癒やしていきます。五百人の村人全員の無事を確認してようやく、一同は一息つきました。
広場では、命を救われた村人たちが震える手で互いの無事を確かめ合っています。村長をはじめとする村の人々は、自分たちを救ってくれた九人の英雄に対し、最大級の感謝と敬意を込めて深く頭を下げるのでした。
レオンは村の中央へ進み出て、震えながら感謝を述べる老村長に対し、年長者への礼を失わぬよう、しかし毅然とした態度で問いを重ねました。
「村長さん、まずは落ち着いてください。いくつか確認したいことがあります。お怪我をされている方は全員こちらへ? それから、賊に拉致された方はいないでしょうか。……また、このあたりでは盗賊は頻繁に現れるのですか? 魔物の出現状況についても教えてください。食料の備えは足りていますか? そして……ここの領主は、何をしているのですか?」
村長は、レオンの冷静な問いかけに少しずつ呼吸を整え、声を絞り出すように答え始めました。
「……はい、怪我人は今、皆台に治していただいた者たちで全員にございます。幸い、拉致される前に皆様が来てくださった。……賊はこの数ヶ月、急に増えました。魔物も森の奥から押し出されるように現れるようになりましてな。食料は、今回の略奪で半分以上が奪われ、冬を越せるかどうか……」
村長はそこで言葉を切り、悔しさに唇を噛み締めながら、遠くの山を指差しました。
「領主様は、王都の政争に忙しいとかで、この数年、一度も姿を見せませぬ。税を徴収する時だけは騎士を寄越しますが、我々が賊に襲われても、救援を求める使者すら門前払いです。……ここは、見捨てられた土地なのです」
エルザやヴァレリアは、その言葉を聞いて表情を険しくしました。
レオンは村の窮状を聞き終えると、即座に仲間たちへ迷いのない指示を出しました。
「皆さん、動きます。エルザさん、セレスさん、ヴァレリアさん。この村の冬を越すための食料を確保しましょう。森へ向かい、食肉に適した魔物を千体ほど狩ってきてください」
「了解しました。今の私たちの機動力と剣技なら、千体など造作もありません」
エルザが銀髪をなびかせて頷き、セレスとヴァレリアも「アクセル」を伴う風を纏って、瞬く間に森の奥へと消えていきました。
「ミレイユさん、バルクさん、バルトさん。村の防衛を固めます。ミスリルと魔法を使い、村全体を囲む強固な城壁を組み上げてください。その上に、例の『魔導砲』を設置し、村の自警団に使い方を徹底して教えてあげてほしい」
「理にかなった判断です。バルト、構造計算は任せましたよ」「がっはっは、任せろ! 最高の砦を築いてやるぜ!」
ミレイユがお椀型の胸を研究への熱意で揺らしながら、バルト、バルクと共に作業を開始しました。バルクの土魔法で大地が盛り上がり、バルトの精密な魔力制御でミスリルが混じった強固な壁へと変貌していきます。城壁の要所にはミレイユが開発した「ホーリーバレット砲」が据え付けられ、彼女の優しくも論理的な指導のもと、自警団員たちが「安全装置」と「トリガー」の扱いを真剣に学び始めました。
「アラン、ブライト。君たちは村の物流の要を作ってくれ。狩ってきた魔物を捌くための解体場、そして保存のための巨大な冷蔵・冷凍倉庫、さらに通常の備蓄倉庫だ。魔法と資材は惜しまなくていい」
「おう、わかったぜ。鮮度が命だからな!」「一気に組み上げてやるよ」
アランとブライトは「魔力纏い」を身体に巡らせ、資材を軽々と運びながら建設に着手しました。魔石を冷媒とした高度な冷却魔法回路をバルトのアドバイスを受けつつ組み込み、瞬く間に大規模な施設が姿を現しました。
数刻後、森からはエルザたちが仕留めた巨大な食用魔物が次々と運ばれ、解体場で手際よく捌かれては冷凍倉庫へと詰め込まれていきました。
空から見下ろせば、かつての「見捨てられた村」は、ミスリルが輝く城壁に囲まれ、冬を数回越しても余りある食料を蓄えた、難攻不落の要塞都市へと急激に進化を遂げていました。老村長は、目まぐるしく変わる村の光景に、ただただ奇跡を見ているかのように腰を抜かして座り込んでいました。
レオンは森へ向かおうとするエルザを呼び止め、追加の指示を出しました。
「エルザさん、すまないがもう一つ。保存食を作るために、岩塩を二百キログラムほど精製してきてください。地中の塩石を切り出し、不純物を浄化して村へ運んでほしい」
「岩塩を二百キロか。承知した、食料の確保と並行して進めよう」
エルザは力強く頷くと、セレスとヴァレリアに続いて森のさらに奥、岩肌が露出した山際へと向かいました。彼女はレオンから教わった土魔法と索敵の術を使い、地層の奥に眠る巨大な塩の塊を瞬時に特定します。
一族伝来の剣技に魔法の鋭さを加えた一閃が、硬い岩盤を容易く断ち切りました。掘り出された巨大な塩の結晶に対し、彼女は「ピュリフィケーションバレット」の術理を応用した浄化の光を浴びせます。土砂や雑味が取り除かれ、透き通るような純白の岩塩が次々と精製されていきました。
「これで……よし。これで村の肉も長く保存できるはずだ」
彼女は精製した岩塩を、レオンから共有された「アイテムボックス」に次々と放り込みます。かつては騎士の誇りだけに生きていた彼女でしたが、今は自分の力が人々の命に直結する喜びに、その頬を微かに高揚させていました。
間もなくして、彼女は予定通りの魔物と、純白の岩塩二百キログラムを携えて村へと帰還しました。解体場では、アランとブライトが待機しており、運ばれた岩塩を使って即座に肉の塩漬け作業が開始されます。
レオンの朗らかな号令が、活気に沸く村に響き渡りました。
「皆さん、これだけの食料と岩塩が揃ったんです。今夜は村の五百人全員で、盛大な焼肉にしましょう! 準備をお願いします!」
「がっはっは! 腕が鳴るぜ。この巨大なイノシシ肉を極上の厚切りにしてやる!」
バルクが豪快に笑いながら、解体場で捌きたての新鮮な魔物肉を次々と大皿に積み上げていきます。アランとブライトは、自分たちが作り上げたばかりの解体場と倉庫をフル活用し、エルザが精製してきたばかりの純白の岩塩で肉に下味をつけていきました。
「野菜のカットは任せて。これくらいの量、計算通りに切り分けてみせるわ」
ミレイユはお椀型の胸をゆったりと揺らしながら、理系らしい効率的な手つきで、村から提供された野菜を山のように刻んでいきます。その隣ではセレスとヴァレリアが、キャンプで培った火魔法の制御を使い、村の広場に並べられた巨大な焼き台へ次々と火を灯していきました。
「さあ、村の皆さんも遠慮しないで! 今日は食べきれないほどの肉があるわよ!」
ヴァレリアの明るい声に誘われ、怯えていた村人たちも一人、また一人と広場に集まり始めます。バルトは五百人が円滑に食事を楽しめるよう、最適な座席配置と配膳ルートを自警団に指示し、混乱のない完璧な会場設営を終えました。
じゅうじゅうと肉の焼ける香ばしい匂いと、滴る脂が火に爆ぜる音が村中に広がります。エルザも剣を置き、村の子供たちに焼き上がった肉を甲斐甲斐しく取り分けていました。
「……あんなに絶望していた村が、こんなに温かな匂いに包まれるなんて」
老村長が涙を拭いながら肉を口にする傍らで、九人の英雄たちは村人たちの笑顔に囲まれ、最高の宴の準備を整え終えました。
レオンの指示を受け、セレスが広場の中央で静かに魔力を高めました。
「カトラリーと皿、そしてジョッキですね。……任せてください」
彼女が両手を広げると、周囲の気温がスッと下がり、澄んだ冷気が渦巻きます。セレスはレオンから伝授された精密な魔力制御を用い、大気中の水分を一瞬で凝結させました。
「氷結――『アイシクル・クラフト』」
パキパキという涼やかな音と共に、虚空から透き通った氷の皿と、使い勝手の良さそうなナイフとフォークが次々と生み出され、バルトが設営したテーブルへと正確に並べられていきます。さらに、彼女は仕上げに五百個もの「氷のジョッキ」を創り上げました。
厚みがあり、表面には滑り止めの細工が施された氷のジョッキは、注がれた飲み物を一瞬で極上の冷たさに変える逸品です。
「……五百、ちょうどです」
セレスは少しだけ額に汗を浮かべながらも、完璧に揃った氷の食器群を見て、満足そうに微笑みました。炎が揺れる焼き台の熱気と、セレスが作り出した氷の涼しさが混じり合い、広場は幻想的な霧に包まれます。
「すげえ……氷のコップなんて初めて見たぞ!」
「冷たくて気持ちいい! お肉がもっと美味しくなりそうだ!」
村の子供たちが目を輝かせ、宝石のように輝く氷の皿を恐る恐る指でなぞります。準備はすべて整いました。
レオンが空間を軽く撫でると、何もない虚空から重厚な木製の樽が次々と姿を現しました。全部で五十樽。最高級のエールがなみなみと注がれた樽が広場に並ぶ光景は圧巻の一言でした。
「皆さん、今日は災難でしたが、もう安心です。このエールを飲んで、嫌なことはすべて忘れてください。さあ、飲んでくれ!」
レオンの合図と共に、バルクが手近な樽の栓を豪快に叩き抜きました。芳醇な麦の香りが広場いっぱいに広がり、村人たちが差し出すセレス特製の「氷のジョッキ」へ、黄金色の液体が勢いよく注がれていきます。
「おおお……! 冷えてやがる! 氷のジョッキで飲むエールが、こんなに美味いなんて!」
「こんな贅沢、一生に一度あるかないかだ……!」
あちこちで歓喜の叫びが上がり、五百人の村人たちは、黄金色に輝くジョッキを高く掲げました。セレスが作った氷の器は、焚き火の熱に晒されながらも魔力で維持され、エールの冷たさを完璧に保っています。
アランやブライトが焼き上がったばかりのジューシーな魔物肉を大皿に乗せて運び、ミレイユがお椀型の胸を弾ませながら、肉に合う特製の野菜ソースを各テーブルに配って回ります。
「さあ、遠慮せずに食べて。栄養計算もバッチリですから、明日への活力になりますよ」
ミレイユの優しい微笑みに、村の人々の緊張も完全に解け、広場は笑顔と笑い声、そして肉を頬張る音で埋め尽くされました。
エルザやヴァレリアも、村の女性たちに囲まれながら、氷のジョッキを片手に肉を口にし、その確かな美味しさに目を細めています。
最悪の絶望に襲われていた村は、レオンの一声と九人の力によって、今、この大陸で最も幸福で活気あふれる場所に塗り替えられたのでした。
レオンは黄金色のエールが注がれた氷のジョッキを傍らに置き、老村長の隣に腰を下ろしました。宴の喧騒から少し離れた場所で、真剣な眼差しを向けて問いかけます。
「村長さん、改めて伺いたい。これほどの事態になっても、領主は本当に助けてくれないのですか? 騎士団を派遣したり、食料を補填したりといった公的な支援は、一切望めないのでしょうか」
村長は震える手で肉を口に運び、飲み込んでから、重くため息をついて首を振りました。
「……あのお方、カストル子爵にとって、我々はただの『税を産む土塊』に過ぎませぬ。以前、凶作で餓死者が出そうになった際も、減税を願い出た使者が『納められぬなら死ね。代わりはいくらでもいる』と追い返されたのです。今回、二百人もの賊が村を囲んだことも、おそらく耳には入っているはず。ですが、救援を送るコストと、村を失う損失を天秤にかけ、放置を選んだのでしょうな」
村長はジョッキに反射する焚き火の光を、恨めしそうに見つめました。
「子爵様は今、王都で有力な侯爵家に取り入るため、多額の献金をしているという噂です。その資金源は、我々のような辺境の村からの過酷な徴収……。助けてくれるどころか、我々が皆様のおかげで蓄えたこの食料やミスリルの壁を知れば、それすらも『没収』と称して奪いに来るかもしれませぬ」
その言葉を聞いていたエルザが、剣の柄を強く握りしめ、冷ややかな怒りを宿した瞳を村長に向けました。




