第27話:仮面の奥
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東京湾を望む高層ビルの最上階。
夜景が床から天井までのガラス窓に広がり、その中央に一枚の黒い革張りのデスクがあった。
笹本信一は椅子にもたれ、手元のグラスを軽く揺らす。
琥珀色の液体が氷に当たり、乾いた音を立てた。
「——配送は予定通りか」
低い声に、デスク脇の部下が恭しく頷く。
「はい。すでに新しい被験者も確保済みです」
笹本の口元に、ゆっくりと笑みが浮かんだ。
「いい。あの連中が何を暴こうが、鎖は切れん」
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その声色には、かつて厚労省の会議室で見せた“被害者の顔”は一片も残っていなかった。
窓の外の光を背にしたシルエットは、まるで都市そのものを操る黒幕のようだ。
笹本はふと、机上の一枚の古い写真に視線を落とす。
亡き妻の笑顔——だが、その目にはもう何の感情も宿していなかった。
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蓮司はディスプレイ越しに、次々と流れ込む情報を見つめた。
銀行取引記録、監視カメラの映像、秘書の動線、裏口からの出入り——
笹本を囲い込む網が、瞬く間に形を成していく。
榊原が机に分厚いファイルを並べた。
「……これは公開されてる政治資金収支報告書です。誰でも見られる」
光がモニターに投影した表計算シートには、無数の数字が整然と並んでいた。
《ヴェルジオン製薬からの“研究費”支出。
同額が数週間後、東雲記念病院の口座に振り込まれています》
赤い矢印が引かれ、病院から厚労省内の“基金”へ金が移動していく。
《基金の使途として記載されている“次世代医療開発支援”。
しかし、その直後に与党議員の政治団体への寄付が確認されました》
真鍋が眉をひそめる。
「……全部、公開されてる数字ってことか? なのに誰も繋げなかった」
光の声が冷ややかに響く。
《繋げる気がなかった、が正しいでしょう。
この流れを追えば、笹本信一の名前に必ず行き着きます》
相関図(公開資料ベース)
【製薬会社(ヴェルジオン製薬)】
└─▶「研究費・共同研究」名目の支出
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【東雲記念病院・第7病棟】
└─▶「病院研究費」名目で受領
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【厚労省内・非公式基金】
└─▶「次世代医療開発支援」など曖昧な項目
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【政治資金収支報告書(公開資料)】
└─▶ 与党議員の政治団体に寄付
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【笹本信一】
・制度設計/物流設計/管理設計の後ろ盾
・資金循環によってシステムを維持
蓮司は拳を握りしめ、吐き捨てた。
「……制度も物流も管理も。結局、全部“金”で縛られてたのか。……もう逃げられねぇな」
朝比奈が唇を吊り上げる。
「仮面、剥がしてやろう」
モニターの中央で、笹本の顔写真に赤いターゲットマークが重なった。
——最終章の幕が、静かに上がった。




