最終話 私の勇者様
翌日。
俺はラストアの南地区正門前に来ていた。
ハイドラルへは馬車で行くことにした。
本当はレッサーリザードを一頭レンタルしてすぐにでも駆けつけたかったのだが、乗りこなすのにそれなりに練習が必要らしく、消去法で馬車になった。
馬車ではハイドラルまで三日かかるが、仕方ないだろう。
馬車の切符を買いに受付へ向かう。
「ハイドラル行きの馬車を頼みたいんですけど」
「ハイドラル?お客さん物好きだねえ。便が少ない上、一人だから相乗りになるけどかまわんね?」
「かまいませんよ」
「ほいよ、向こうの馬車だ。ぼちぼち出発する頃だから、もう乗っとくといい」
切符を受け取り、言われた馬車の御者に渡す。
あとは馬車に乗り込み目的地に着くのを待つだけだ。
馬車の中には誰もおらず、貸切状態のようだ。
こちらの方が、同乗者に気を使わなくて楽かもしれない。
荷物と剣を下ろし一息つく。
馬車の椅子は座り心地が良く、これなら長い時間揺られても疲れることはなさそうだ。
結局あれから、アルクレアに会うことはなかった。
出立するとき一言挨拶を交わしたかったが、マームに居場所を聞いても何故か教えてくれなかった。
……嫌われてしまったのだろうか。
俺のことを心配して引き留めてくれたのに、それを押しのけたのだから当然といえば当然か。
一抹の寂しさを感じるが、俺にリンを助けに行かないという選択技はない。
一人だけ助かったベルの心情を考えると尚更だ。
それに、一度した約束を守らないというのは、俺の主義に反する。
アルクレアとの仲直りは、帰ってきてからでいいだろう。
「お客さん、出発しますよ」
御者の掛け声と共に馬車が動き始める。
「……がんばらねーとな」
腰掛け椅子に横になり、少し寝てしまおうと思ったが、馬の蹄の音に混じって何かが聞こえることに気づいた。
それは人の声のように聞こえる。
__________って!
その声は徐々にこちらに近づいてくる。
_____ってー!
それは馬車の後ろから近づいてくるような。
気になって身を起こし、馬車の扉を開けようとしたその時だった。
扉が思い切り蹴破られ、その衝撃で吹っ飛んだ俺は仰向けに倒れる。
俺の目に映るのは、振り返った驚いた御者の顔だった。
「はぁ……はぁ……間に合ったぁ」
馬車になだれ込んできた声には聞き覚えがあった。
「アルクレア!?」
「御者さん、いきなりごめんなさい。これ、切符です」
驚愕する俺をスルーして御者に切符を渡したアルクレアは椅子に座って荷ほどきをしていた。
下ろしたリュックは明らかに許容量の限界を超えて物が詰め込まれていた。
「ア、アルクレア、これは一体……」
「私も行くよ。トウマくん」
「なんでそーなる!?だって俺は……」
お前の制止を振り切った男だぞ。怒ってないのか?そう言いかけた俺より先にアルクレアがまくし立てる。
「第一、弱っちいトウマくんが一人でハイドラルに行くなんて危なっかしすぎるよ!怪我だってまだ完治してないんだし!だから、私もついていきます」
「いや、だからって……。その……いいのか?」
気まずい俺は言葉を濁す。
「いいって、何が?」
「いや、その……だからだな、俺はお前の忠告無視してきたんだ。怒ってないかと思って……」
すると、アルクレアは虚をつかれたようにキョトンとした表情をして、やがて弾けるように笑い出した。
「あははは!なんで私がトウマくんのこと怒らなくちゃならないの?」
笑い続けるアルクレアに、今度はこちらが唖然としてしまう。
「いや、でもお前俺のことをバカだのへっぼこだの散々言ってただろ」
「それは事実じゃない」
こ……この女……!
「だから私が着いて行くの。バカで弱っちくてへっぼこなトウマくんのために」
アルクレアは、拗ねる俺をまっすぐに見据えてそう言う。
「なんでそんなに……俺のために……」
わからなかった。アルクレアがここまでしてくれる理由が。
森でベアタンに襲われた時から、街で無一文の俺に援助してくれたり、今に至るところまで。
アルクレアが、俺を助けてくれるその理由が。
そんな俺の疑問に、彼女はあっけからんとこう言うのだった。
「だって、トウマくんは私にとっての勇者様だから」
異世界って意外と世知辛い!をここまで読んでくださりありがとうございます。
この後の構想もあるのですが、この物語は今回で一度区切ることにいたしました。
また機会があれば続編を投稿する予定です。
最後に、作品を読んでくれた方、感想を書いてくれた方、ブックマークをしてくれた方に最大限の感謝を。
作品を投稿するにあたって、心強い原動力となりました。ありがとうございます。




