第9話:劇薬の潜入と社会の支配
実音の洗脳が溶けかかったあの日以来、俺の焦燥感は極限に達していた。 大学という狭い箱庭での『おままごと』は、優奈がいる限りどこかで壊される。 ならば、親も、妹も、誰も手が出せない圧倒的な社会的地位と、巨大な権力を手に入れるしかない。
俺は一足早く、社会という名の濁流へと足を踏み出した。
ターゲットは、女性の経営者や役員を集めた会合のウェイターをやっていた時に名刺を渡してきた、有名な非上場一族企業の40代女性役員、冴子だ。 彼女は親族同士の泥沼の権力闘争に疲れ、孤独と精神的疲労の中で、自分の駒として動く「有能で若い男」を探していた。
連絡を取り合っているうちに、お嬢様たちのマッチポンプ事件を経て、裏の金融界で「巨額の資金を裏で動かす天才学生がいる」という噂を嗅ぎつけ、彼女は俺に接触してきた。
「あなた、私の忠実な犬になりなさい。そうすれば、私の愛人として、そしてこの会社の非公式な顧問として、望むだけの富をあげるわ」
電話の向こうに彼女の笑みが見える。
呼び出された高級ホテルのラウンジで、冴子は完璧な美魔女の笑みを浮かべ、大人の余裕で俺を支配しようとした。自分が上位の捕食者であると信じて疑わない傲慢な態度。
(愚かな女だ。自分で檻に入ってきたことに気づいてもいない)
俺はいつもの「貼り付けた笑顔」を浮かべ、彼女の手の甲に恭しくキスをした。
「喜びんで、冴子さん。僕のすべてを、あなたに捧げます」
そこからの俺の行動は、迅速かつ冷徹極まりないものだった。 親から義務として叩き込まれた最高峰の英才教育と、天才的な市場分析力、あるいは人を操る技術をフルに稼働させた。
冴子の社内でのライバルとなる親族たちのスキャンダルを冷酷に暴き出し、彼らの保有する自社株を、FXや市場取引の罠にかけて次々と市場に放出させ、それを俺が裏で管理するペーパーカンパニーで買い集めた。 一族内の敵対勢力を、俺はペン一本、キーボード一叩きで、社会的に圧殺していった。
冴子は、自分を救ってくれる俺の「圧倒的な有能さ」に、恐怖を伴う強烈な依存を抱くようになった。 彼女のビジネス上のすべての決定、投資判断、果てはプライベートの生活に至るまで、俺の許可なしには一歩も動けない状態へとマインドコントロールを深めていった。
「雅人……あなたなしでは、私、もう何も決められないわ。次は、誰を潰せばいいの?」
かつて「犬になりなさい」と言い放った冴子は、今や俺の足元に跪き、すべての鎧を外した「怯える一人の女」として、縋るような瞳で俺を見上げていた。
「大丈夫ですよ、冴子さん。僕がすべてを管理してあげますから」
俺は彼女の細い顎を持ち上げ、冷たいキスを落とした。 気づけば、その伝統ある一族企業の議決権と株式の過半数は、俺が実音を使って設立したペーパーカンパニーの手に渡っていた。
大学生にして、俺は数百億の資産を動かす伝統企業の「実質的な影の支配者」に君臨した。
すべてが手に入った。 圧倒的な富。誰も逆らえない社会的地位。そして、自分の手足となって動く奴隷たち。 俺はついに、親をひれ伏させ、完璧な復讐を遂げるための『神の座』に上り詰めたのだ。




