最終決算前夜、村の名前は売らない
運営監査は、夜まで続いた。
銀の仮面は何度も通知文を出し、湊はそのたびに帳簿をめくった。
『復興会員費は実質売上ではないか』
「施設改善への任意出資です。特典は優先入場で、商品引換券ではありません」
『補給契約は買収回避の抜け道ではないか』
「継続取引です。村の所有権は移っていません」
『祭りの宣伝は外部流入を誘導している』
「祭りなので」
最後の返答で、広場から笑いが起きた。
運営アバターは沈黙した。
その夜、隣村ギルドの代表がもう一度来た。前回より高い金額を提示する。
「村名を残してもいい。うちの傘下に入れ」
村長は揺れた。
負債はまだ残っている。明日の最終決算で失敗すれば、村は消える。
湊も、少しだけ迷った。
現実へ帰りたい。
早く寝たい。
この三日間、ずっと数字と制限と通知に追われている。
けれど、広場では村人とプレイヤーが一緒に屋台を直していた。
売れ残った薬草茶を、ミロが子どもたちへ配る。リュウは不器用に荷車の舞台を押さえている。妖精ナビは、泣きながら祭りの飾りを結び直している。
「断ります」
湊は契約書を返した。
「借金を返すために村を消したら、何を黒字にしたのか分からなくなる」
代表は呆れたように肩をすくめる。
「ゲームだぞ」
「だから、名前が残るんです」
湊は村の看板を見た。
『セリカ村』
最初は廃村だった。
今は、誰かが帰りたがる場所になっている。
「明日の決算で返します。村の名前を残したまま」
空の端で、運営通知が静かに点滅していた。
まるで、答えを待つ未処理伝票のように。
読んでくださってありがとうございます。面白かったら評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。




