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会えなかった父

夜の歩道橋。


制服の男の横に、くたびれた男が立っていた。


半透明の体で、下の道路を見ている。


「……やっと、会えるはずだったんです」


ぽつりと言う。


「離婚してから、なかなか会わせてもらえなくて」


指を握る。


「でも、やっと約束できて」


少し笑う。


「遊園地、行こうって」


沈黙。


「その朝、事故で」


言葉が途切れる。


車の音だけが流れる。


「来なかったって、思われてますよね」


震える声。


「父親なのに、会いにも来なかったって」


制服の男はポケットに手を入れる。


「会いに行くか」



夜の住宅街。


二階の窓に、明かりがついている。


中では、子供が母親に聞いていた。


「パパって、ぼくのこと嫌いなの?」


幽霊の男が固まる。


母親が困った顔で答える。


「そんなことないよ」


でも、声は弱い。


子供は黙る。


「……来なかったもん」


小さく呟く。


幽霊の男の声が震える。


「違うんだ」


制服の男が言う。


「聞こえねぇよ」


沈黙。


「でも、言っとけ」


男は窓に手を伸ばす。


「ずっと、会いたかった」

「愛してる」


声は届かない。


それでも子供が、ふと窓を見る。


何もないはずの夜風が、カーテンを揺らす。


子供は、小さく呟く。


「……パパ?」


幽霊の体が、少しずつ夜に溶ける。


「ありがとな」


声だけ残る。



帰り道。


制服の男は空を見上げる。


「……きっと、伝わる」


夜は、静かだった。


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