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おそらく魔王軍は三日以内に動き出す。それがアリアナさんの見立てだった。
「すでに他の集落へ応援の要請を出してある。遅くとも四日あれば駆けつけてくれるはずだ」
大蜥蜴さえいなければ、魔王軍の戦力はそう大したものではないらしい。
しかし、それはこちら側も同じこと。主戦力の男衆と、一部の女衆をごっそり人質に取られている。まともに戦えるのはアリアナさんと、日向に瞬殺されたキュテリって子だけらしい。
一応、戦闘員でないエルフも弓と魔法は扱えるそうだけど、期待はするなとのこと。
「詩織、どないや?」
「いくらかアイデアはあるよ。不安なのはMPが足りるかだよね」
「あ、ほんまや。空っぽなっとるやん」
大蜥蜴との戦闘、ベレッタガチャ、洋梨大量献上等々。スイッチに表示されているMPの残量は一割ほどに減っていた。逐次数値の記録はしていたので軽く計算してみたところ、全回復までにはだいたい三日が必要っぽい。
現状、消費が一番激しいのはもちろんキャンピングカー。逆に低いのはフ◯イド・メイウェザー・ジュニア。たぶんだけど原材料費に比例している気がする。物真似はタダだからね。
イメージ的には質量保存の法則の中に魔力が組み込まれてる感じだと思う。いわゆる等価交換ってやつかな、知らないけど。
ちなみに、必要魔力に対し残存MPが足りなかった場合、一度だけスイッチが不足分を肩代わりしてくれるらしい。要するにツケ。その借金分を支払い終えるまで、スイッチはうんともすんとも動かなくなるのは確認済みである。
そして、これが意外と厄介なシステムだったりする。
「なんでや? お会計ツケとけるなんて優しいやん」
「だから安易に新しいスイッチを押せないんだよ。おねえちゃん、なんでもいいからとにかく大きいものを想像してみて」
「バケットホイールエクスカベーターやな。世界最大の自走機械でな、全長255メートル、総重量14200トンもあんねん。だいたいデス◯ロイガンダム4機分やな」
「ガンダムで言われてもわかんないよ」
もうちょっと分かりやすい例えはないものか。
「とにかく、そのなんとかエレベーターなんか出しちゃったら一瞬でMPが干上がっちゃうでしょ? 回復にどれだけ時間がかかるかも分からないし、もしそうなったら私たち完全に戦力外じゃん」
「はー、確かにそうやんなぁ」
「もちろんそうなる確率は低いけど、やっぱり0じゃあないんだよ。どうやって勝つかも大切だけど、確実な負け筋をどれだけ潰せるかの方が重要なわけ」
「ふむふむ」
「だから、おねえちゃんの身の安全のために何かスイッチで出したかったんだけど……魔法を防げる防御手段って思いつかないよね。あんまり大仰なもの出してもMPが危ないし、かといって並大抵の防具じゃ意味なさそうだし」
「せやなぁ……例えば『た』で盾を出したかて、ピンチでおなべのふたなんか出てもうたら詰みやしな」
「バリアなんか一瞬アリかもって思ったけど、おねえちゃんそのバスケットなんとか出しそうで怖いんだよね」
「バケットホイールエクスカベーターや。今なら間違いなく出せるで」
「だから出したら駄目なんだって」
いやまあ、出し方によっては魔王軍も一掃できそうだけど。
「うーん、悩みどころやなぁ」
現状の手札だけで、魔王軍に打撃を与える策はある。それに、今後のことを考えるとスイッチの枠は節約しておきたい。異世界に来て二日で九枠が埋まっているのだ。
残りはたったの三十五音。この調子で無計画にスイッチを押せば、一ヶ月もしないうちに全ての枠を消費してしまう。
「詩織さん」
「ん、なに? ヤコさん」
「お客様が来ています」
「はい?」
お客様、なんて言われても。
当然ながら私も日向もこの世界に知り合いなんていない。あの神とかいうクソ野郎であれば、許可も取らず強引に押しかけてくるだろう。
「誰のこと?」
「その、魔王軍の副指揮官だと名乗っていて……お二人にお会いしたいと」
「え、カチコミ?」
「いえ、完全な丸腰でしたので、戦闘の意思はないんだと思います」
「ふむ……」
もしかして、あの大蜥蜴が死んで日和ったのかな?
時間が経てば経つほどに不利になるのは向こうだし、人質がいるうちに損切りして撤退しようっていう腹かもしれない。
なんにせよ会わないという選択肢はなかった。やっぱり何事も戦わずに解決できるのであればそれが最良、孫子にもそう書いてある。読んだことないけど。
もし離間の計みたいなことされそうになったらそれはそのとき考えよう。別に私は天才じゃないし、この短時間で複数の返答パターンとか用意できるわけもなし。
アドリブは日向に任せれば良いかな。
「詩織……」
「うん?」
その日向が、いつになく真剣な表情で私を見る。もしやこの姉、なにがしかの名案を思いついたのでは――
「パンジャンドラムとかもええと思わん?」
「張り倒すぞお前」




